努力の結晶

sosonso

第1話 悪夢

真っ赤な髪に真っ赤な目、色白の肌をした男が父の首を跳ね、母の首元に噛みつき母は干からびていく、次に俺を守る為に前に立つ姉に歩み寄ってくる、姉の頭を鷲掴みにし首元に顔を近づけていく最中その男と目が合った。


「やめろ‼︎」

15歳の誕生日、いつもの悪夢にうなされ起きる。

「…すまん、なんでもない」

同じ部屋に寝ていた子供数人が身動いだ、起こしてしまったかと思い謝る。

静かにベッドを降り身支度を済ませて準備してあった少ない荷物を担ぎ部屋を出る。

「おはようございます」

「おはよう、ハル」

160cmに満たない身長の痩せ型、黒目黒髪な少年が朝の祈りをしていたシスターに声を掛ける、ハルの出で立ちを見て。

「こんな朝早くに出て行かなくても…みんなが起きてから…」

「いえ、挨拶は昨日済ましているので…お世話になりました」

深く頭を下げて踵を返しシスターの声を背に聞きながら孤児院を出る。

「たまには顔を見せにきてね!」



鍛治屋『オリハルコン』の扉を強く叩く。

「おっちゃん!起きてる!」


何度か扉を叩き声を出していると、奥から物音が聞こえ数秒して扉が開く。

「ハル、早すぎじゃねぇか?まぁいい、入れ」


寝ぼけ眼で店内に招き入れてくれたのは体格が良く髭面のハワード、ハルの師匠である、が鍛治のと言う訳ではない。

「ハルが15か…始めて来たのが8になる前位だったから7年か、あっという間だったな」

「俺にはやっとだよ」

「ガハハ、時は皆平等だが、価値はそれぞれだからな、ほれ剣と盾、弓と矢だ」


カウンターに置かれた真新しい武器防具、だが低品質である。

それを眺めながら腰袋を外し差し出す、ハルの全財産15万G。

受け取らないハワード。

「金はいらねぇ、成人のプレゼントだ!…そんな顔するんじゃねぇ、これは施しじゃなく、プレゼントだ」

しかめっ面のハル。


「確かにこの装備代は15万Gだ、だがこの7年稽古の合間に手伝いをしてくれたからなその分も入ってる、だから気にする必要はねぇぞ」


それでも納得しない表情のハル。

「それにその金使っちまったら1万Gしか残らねぇだろ?今日から冒険者になるとはいえ今日の内に稼げるかはわからねぇ、飯はどうする?宿は?何度も言うが施しじゃねぇ、プ・レ・ゼ・ン・トだ!」


苦虫を潰したような顔で手を引っ込める。

「ガハハ、相変わらず頑固者だな」

「うるせぇ!…あ、ありがとう」


軽く癇癪を起こすが尻すぼみに声が小さくなる。

「え?なんだって?」

「ありがとうって言ったんだよ!」

「ガハハ、気にすんな、お前が稼ぐ冒険者になってこの店で装備を買ってくれりゃすぐに元はとれる」


呆れ顔になるハル、だが照れ隠しというのは分かる為笑顔を返す。

グラディウスを腰にラウンドシールドを腕に付け、短弓と矢筒を背に。

「様になってるじゃねぇか、他の防具も早めに買いにこいよ、15になってやっと付き添い無しで壁外に出られるようになったんだ簡単に死ぬんじゃねぇぞ、それじゃ行ってこい!」

「わかった、いってきます!」


気持ち新たに扉を開き冒険者ギルドへ向かう。


冒険者ギルド、朝の早い時間だが活気に満ち溢れている。

右手ではボードの前で依頼書の取り合いが行われている、そんな喧騒を横目にカウンターに向かう。

「登録をお願いします」

「かしこまりました、こちらの用紙にご記入ください、500Gで代筆も可能です」

「自分で書けます」


名前 ハル

年齢 15

武器 片手剣・短弓

魔力 あり

初心者講習希望 なし

活動時間 日の出から日の入り


書き終え職員に渡す。

「…では、登録料1万Gになります」


腰袋から金を出す、その間に職員は板とカードを取り出す。

「確かに受け取りました、ではこちらに両手を置いて下さい」


独特な模様の板に5cm程の透明な石が10個並んでいる、両の手を板の上に置くと1個光を放ち2個目が淡く光る。

「鉄級下位程の魔力量ですね、あくまで目安ですのでお気になさらず、こちらで把握している魔力量と依頼達成度と人柄を加味してパーティーの斡旋や依頼の斡旋を行います、強制ではありませんが低級の間は従っていただいた方が安全面、生存率は間違いなく上がります」

「わかりました」

「次はこちらの2枚のカードにそれぞれ血を一滴ずつお願いします」


グラディウスを鞘から少し抜き刃に指先を押し当てる、滴る血をカードに落とす。

「このまましばらくお待ち下さい」


血が徐々に鉄に染み込んでいく、不思議な光景を眺めていると。

「こちらの1枚がギルドカードになります、こちらの1枚はギルドで保管します、この2枚は対になっておりまして持ち主が死亡した場合両方の染み込んだ血の模様が消えます、トラブル予防や対処の為のシステムになっております」


職員が言い終わる頃にはカードに血が定着したようで1枚を手渡された。

「これで登録完了です、担当致しましたミランダと申します、ではハルさん冒険者ライフ頑張ってください!」


満面の営業スマイルと大きな声に若干の鬱陶しさを感じながら会釈し、ギルドを後にする。


東門に向かう。

ハルはノービスの為受注できるクエストは無い、職員からの説明は特にないが聞けば丁寧に教えてもらえる、共通認識として大体の人は知っている。

冒険者としての始まりはノービスからで、正確にはまだ始まっていないが、ノービスを経て鉄級、銅級、銀級、金級、白銀級、白金級、特級と上がっていく。

このフォルトの街には銀級までが居るみたいだ、銀級と言えど一般人からすれば隔絶した力を持っている、金級以上になると魔族と渡り合えるもしくは殲滅できる力がある、白銀級以上は1人で街一つ潰せる程らしい、それ以上は…御伽噺レベルだ。


ハルは金級以上の力を求めている、それを手に入れるには長い年月がかかるとされているがもちろん個人差はある。

才能というものは確かにあるがこの世界の強さは魔力量であり魔力を如何に綿密に操作できるかにある。

向き不向きの様な適正、好き嫌いのような性格、そのようなものを加味しても、黙々と魔力操作の訓練を行い続け、淡々と魔物を狩り続け、その上で生き残り続ける事だけがこの世界で強くなる方法だ。

皆等しく努力が必要で才能だけでは決して強くなれない、この世界ではこの努力を続けられる者が最も才能ある者とされている。


この世界の生き物には魔力が備わっている、強さを決める基準は魔力量と魔力操作力が基準となる。

魔力を内包する生き物を殺すと死んだ者の魔力の一部が殺した者に引の寄せられ内包魔力が増加する。

一般家庭にも魔力を使って起動する魔具等があり、魔石での代用も可能である、人族は生まれもって魔力を内包しておらず後天的に備える、一般的には成人の日に魔力を内包している生き物を殺める事で手に入れる。

ハルは8歳の頃に魔力を得ている。

ハワードに稽古をつけてもらい始めて最初に行ったのが魔力の奪取だ、魔力を得てからは魔力操作の訓練、店の手伝いの傍、剣術、弓術、体術等を教えてもらった。

ハワードは特別強い訳ではないが、自ら基本的な素材を取りに行ける程には腕に覚えがある。

戦闘はベーシックなスタイルな為、ハルに基本を教えるのは問題なかった。

ハルは店が休みの日以外は毎日通い稽古や座学に励む、1日の中で教えてもらえる時間は少ないが7年もすればかなりの時間になる、魔力操作に至っては毎日、1日も欠かさず訓練を行い、成人を迎える頃には息をする様に扱えるようになっていた。

ハルの目的の為には強さが必要だ、金では買えない地道な鍛錬のみでしか得られない強さ、今その目的の為に動けば遅かれ早かれ死ぬ事は明白だ、ハワードからも目的を成したいならば1、2年はこの街近辺で魔力量を上げてからにしろと言われている、それともう一つ、共に戦ってくれる者、仲間を見つけろとも…

ハルはお世辞にも社交性があるとは言えない、内向的ではないがとても慎重な性格だった。


ハルは当面の目標は、魔力量の増加と金を稼ぐこの二点だ、実力をつけ装備を整えある山を踏破する為だ。


東門で真新しいギルドカードを見せ壁外へ。

街から走って1時間程の森へ向かう、このフロンティーラ森林は広大で更に奥には険しい山々が見える、人族や獣人、亜人などが住む領域と魔物や魔族が住む領域を隔てる様にある。

基本的には魔物はこの森からしか現れずこちらの領域を侵すことは少ない。

歴史では少数の魔族が魔物を引き連れ侵攻してきたことがあるようだが、道程が険しい為か数は少なく退けることに成功している。

人類を滅ぼすような脅威ではないが、それが可能な魔族を見張る為、森から数キロ離れた所に街が点在している。

森から近い街の防壁は厚く高い、常駐している騎士団もあり冒険者も多い。

安全な時が長く続いている為か騎士団の規模は年々縮小されている、その代わり冒険者が国からの仕事を請け負う機会が増えている。

森からもたらされる資源は豊富で冒険者の需要は増すばかりであるが、命懸けの仕事なのでなりたい者は需要に対して多くない、その為か高位冒険者への待遇は破格になる。

夢を見て挑戦する者は後を立たないが、冒険者として身を立てれる者はそう多くない。

死ぬ者も多いが、四肢の欠損や恐怖から挫けた者、その数も多い…


小一時間走り森に着いたハル。

「始めるか」

休憩する事なく森へ入っていく。

上層では魔物だけではなく野生の動物もおり、狩る力があれば飢えることはない。

ハルはスカウトの技術自体は高くないが知識だけは豊富にある、その知識を確かめるように森を歩き索敵していく。

程なく二匹のゴブリンを見つける。

息を潜め弓を構える、一匹が背を向けた瞬間矢を放つ、こちらに気づいた瞬間には矢が首を貫いていた、片割れを失ったゴブリンが激昂し突っ込んでくる、弓を手から離し迎え撃つ様にグラディウスとラウンドシールドを構える。

「ギギャァァ!」

醜い声と共に手に待っている錆びれた短剣を突き出してくる。

直線的な動きは盾で受けるまでもなく半身で躱しカウンターで首を跳ねる、力なく倒れる胴体。

一息つく間も無く周囲を警戒する。

「……ふぅ」


近くに気配を感じず緊張を解く。

「最初はさすがに緊張するな…1人だし」


若干の高揚と緊張が緩和した事により独り言を呟く、盾に付いた少しの返り血を見ながら。

辺りを再度見回すが気配が無いのを確認し剥ぎ取りを行う。

ゴブリンには魔石しか取れるものはない為、鳩尾に剣を突き立て裂く。

魔石は例外なく体の中央にある、人も魔物だ、大きさは種族や個体ごとにかなり違う、体の大きさや内包する魔力量や強さ格みたいなものが影響しているといわれている。

魔石を抜き取る、親指の爪程の大きさだ、するとゴブリンの体に残っていた魔力がハルに流れていく、見えている訳ではなく感覚でわかるものだ。

二匹の魔石の血を拭うと腰袋に突っ込む。

「次だ」

獲物を求めて歩きだす。

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