[06-03] 因縁の手がかりを求めて

 その人は三十代くらいで、オークと並び立てるほど、とても大きな体格だった。

 頭の上に表示された情報を見上げるのも、ひと苦労である。


《バートン・レイニー》

《モータル:ヒュマニス》

《Lv:40》


 バートンさんはわたしたちを――というよりラカを見て、にかっと笑った。


「見間違いでなければ、イモータルのラカ・ピエリス殿ではないか!」


「やっ。どうもお久しぶり、バートン」


「これはいいところに! 隣にいるのは、きみの仕事仲間かな」


 どうやらふたりは顔見知りらしい。ラカが前回〈デッドリバー〉を訪れた際にクエストを受けたのだろう。


 友好的な雰囲気なので、わたしも肩の力を抜いて挨拶する。


「初めまして。アマルガルム族のネネです。ラカの相棒だよ」


 一方、バートンさんはどこの馬の骨とも知れないわたしに対してびしりと背筋を伸ばしてくれた。


「私は〈ルオノランド王国〉騎士にして、〈デッドリバー〉駐屯軍指揮官を務めるバートン・レイニーだ。以後お見知りおきを!」


 わぁお。声がすっごく大きい。鼓膜がびりびりする。

 慣れっこのラカはクエスト掲示板をこんこんとノックした。


「お困りみたいじゃない」


 声の調子は全然困っている感じではないけれど、バートンさんは勢いよく頷く。


「見てくれたようだな。そこにしたためたとおり、アンデッドが急増している。今までと変わらず古戦場に縛りつけられていれば何も心配はないのだが、最近、この近辺でも目撃されるようになったのだ」


 襲撃レイドイベントの前兆だ。


 モンスターがポップするエリアをしばらく放置していると、溢れ返ったモンスターが外へ流出。群れを成して町を襲うのである。


 アンデッドの行進を想像したのもそうだし、バートンさんの口振りを聞いたわたしは表情をどうしても硬くしてしまう。


「え……アンデッドは元々いたの?」


 何も知らないわたしに、ラカが〈デッドリバー古戦場〉について説明してくれた。


「古戦場のアンデッドは〈人魔大戦ジ・インカージョン〉の死者なの。そのフィールドに渦巻く怨念が死体に宿って動き出す……って設定。『この恨み晴らさでおくべきか~』ってヤツ?」


 ラカはにやにやと笑い、わたしの顔を覗き込む。


「何? ネネったら、もしかして怖いの?」


「そりゃそうでしょ! 悪党とかモンスターならともかくさ。死体が動くなんて! いくら撃っても、死体は死体じゃん! ありえない!」


「ははっ。多分それ、モータルがあたしらに対して思ってることよ。ねえ、バートン?」


 一部の言葉の意味は伝わらずとも、全体の話の流れは理解してくれたらしい。バートンさんは「まあ、そうだな」と大真面目に答えた。


「今回の任務はただ先手を打ってアンデッドの数を減らすことだけが目的ではない。英雄たちには安らかな眠りについてほしいのだ」


 それを聞いて、わたしの心と耳がぴくっと動く。


 今あるルオノランドの平和は、勇者が魔王を倒したというだけでなく、兵士さんたちが命がけで魔族の猛攻を防いだおかげだ。


 それに、死者が彷徨っていると聞いたご家族も複雑な思いだろう。


 わたしとは違い、ラカはこの異変に強い関心を持っているようだ。


「アンデッドが増えた理由はわかってるの?」


「それが皆目見当もつかん。よって、イモータルの諸君らが原因を突き止めた場合には追加報酬を支払うつもりだ。なかなかいい話とは思わないか! なあ!?」


 うっ……圧がすごい……。


 バートンさんはものすごく熱心にわたしたちを勧誘している。

 軍隊の面子めんつという手前、『依頼』という形は避けたいんだろうなあ、なんて察してしまったり。


 ラカはもう答えを決めているみたいだったが、それでもわたしに決定権を委ねてくれた。


「どうする、ネネ。あたしも確かめたいことがあるんだけど」


「……まあ、うん、いいよ。ラカと一緒なら怖くない……よね?」


「だいじょーぶ。アンデッドだって頭を撃てば動かなくなるんだから」


「……頑張る」


「オーケー。というワケで、あたしたちもアンデッド狩りに参加するわ」


 ラカの快諾に、バートンさんは疑問を感じたようだ。


「何か引っかかるのか?」


「ああ、うん。ちょっと前、〈オーライル〉でオーガのゾンビと戦ってね」


 わたしもぴんと来た。


 ゲームを始めたての頃の話だ。〈オーライル〉という初心者が多く留まる町をオーガが襲った。


 わたしとラカ、そしてドワーフのエルマーさん、イモータルのみんなで撃退したワケだけども、なんと、そのオーガはネクロマンサーに蘇生されたアンデッドだったのである。


「この件に関係あるかはわからないけれど、調べてみる価値はありそう」


「それなら、わたしたちが積極的に参加する理由もあるね」


 バートンさんはわたしたちを交互に見て、敬礼までしてしまう。


「おお! 貴殿らの勇気に感謝する! 今すぐ陣営に来て、正式に手続きを取ってくれ!」


 ……熱い人なのはいいけれど、その大声で他のイモータルたちがわたしたちに気づいた。


「見ろ。あれって〈白翼轟砲エンジェル・アームズ〉じゃないか……?」


「隣にいるのは〈血塗れパピー〉だぞ」


 何そのふたつ名!? ああっ、むずむずする!

 誰かお願い! もっとカッコいいふたつ名を早く作って!


 そういう意味でも、わたしのプレイスタイルを人に見せつけるいいチャンスなのかもしれなかった。

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