[02-10] リーダーにあらず

 グループ分けはくじ引きなどは行わず無造作に行われた。

 ラカは自分の兵隊たちの前に立つと、ひと呼吸置いて、声を張り上げた。


「A隊はこのあたし、ラカ・ピエリスがリーダーを務めるわ! あんたらがやることはふたつ! ゴブリンどもを近寄らせる前に撃ち殺す! 前進して間合いに入ったゴブリンどもを撃ち殺す! イモータルの恐ろしさを見せつけてやるわよ!」


 さっきまであんなに乗り気じゃなかったくせに、いざとなったらこれだもんなあ。


 しかも、怖いことを言っているにもかかわらず、なぜかプレイヤーたちのテンションが上がりに上がっている。ラカに旗でも持たせたら、絵画のような光景になるだろう。


 一方、チェスティさんは木箱に上がって、拳を『えいえいおー』と振り上げている。


「我ら! 正義の名のもとに鉄槌を振り下ろす尖兵となりて魔を滅ぼさん! 死をも恐れぬ勇敢な戦士たちに! ウル・カーナスの炎と! 鋼の! ご加護があらんことをッ!」


 イモータルたちは一斉に足踏みを始め、それぞれの得物を天に掲げる。


「うおおッ!」


「ウル・カーナス! ウル・カーナス!」


 ……ドワーフたちが崇める神様の名前らしいけど、このノリはちょっと怖くない?


 このふたりに比べたら、わたしなんて大根役者もいいところである。


 C隊の前に立ってみたものの、みんな不安そうだ。わたしの言葉を待っている。一体、何を話せばいいのやら。


「……うん。ゴブリンとはさっき戦ったけど、注意はふたつ。たくさんで襲いかかってくること。何がなんでも向かってくること。わたしたちも同じように戦えば勝てるよ」


 周りはみんなイモータルなワケで、プレイ時間は見えなくとも、レベルは見えている。わたしの言葉には信憑性が薄かったようだ。


 ライフルを持ったドラニスのお兄さんが一歩前に出る。腰にもリボルバーを装備していた。


「お前に隊長が務まるのか? 気を悪くしないでほしいんだが、お友達采配としか思えないぞ。他に相応ふさわしいヤツがいるんじゃないのか?」


 うーん、言われると思った。

 ラカとチェスティさんは出で立ちからして風格があるけれど、わたしはあんまりだものなあ。


 もちろん、わたしはむすっとしたりなんかしない。


 わたしだって、命を預けるとしたら、もっと安心させてくれるリーダーがいい。でも、そんなリーダーにはなれない。


 だから、お兄さんをじっと見つめた。


「な、なんだよ」


「よーい、どん」


 マントを押しのけるように右手を持ち上げる。篝火を受けて鈍い輝きを放つのは、〈ケルニス67〉だ。銃口はぴったりとお兄さんの胸を狙っている。


「なっ……!?」


 お兄さんは息を止め、トリガーにかかったわたしの指と目を凝視する。


「ひ、卑怯だぞ! 脅すつもりか!?」


「卑怯かな。ちゃんと『よーい、どん』は言ったよ? これに反応できてたら、あなたにリーダーを任せてたんだけどな」


 わたしの〈抜き撃ちクイックドロー〉スキルは見習いレベルである。ラカでなくとも、戦いに慣れているイモータルなら返り討ちにできたはずだ。


《タレントスキル〈獣人の超感覚センス・オブ・セリアノ〉が発動しました》


 もうひとつ、銃を抜こうとする気配。


 左手を使い、ポーチから〈クェルドス・スペシャル〉を引き抜き、気配のしたほうへと向ける。腕をクロスさせる構えになった。


 横目で確かめると、ヒュマニスのお姉さんがリボルバーを抜きかけた体勢で硬直している。


「はい、残念でした。他に挑戦者はいるかな?」


 とかなんとか余裕ぶっておきながら、〈クェルドス・スペシャル〉の重さで手がぷるぷるしてしまう。撃とうものなら手首を痛めるのは確実。


 しかし、この強がりを見抜ける人はいない。みんな、喉元にナイフを突きつけられているかのように動かない。


 わたしはにっこりとほほ笑んでから、悠然と銃を下ろした。


「ゴブリンはもっとシンプルに、速く動くよ。だから、わたしたちもそのレベルに意識を持っていこう。リーダーが誰とか、どうでもいいことは考えなくていいの。どっちみち、やることは前に進み続けるだけなんだからさ」


 ……ずばっと言えた! 普段だったらこんなセリフ、口ごもっちゃうよ!


 わたしの頭は絶好調だ。ついでにぼそっと呟いてみる。


「ふふっ、アマルガルムの遠吠えが聞こえるよ。そんなにかさなくっても、すぐに血を見せてあげるからさ」


 ようし! アマルガルム族の設定を踏まえた上での完璧なロールプレイ! 内なる霊獣の囁きにき動かされるオオカミ美少女ガンスリンガー!


 いや、美少女は盛りすぎか。


 みんながざわついているので、耳をちょこっと傾けてきた。さて、どんな反応か――


「うわあ……色んな意味で怖い……」


「誰だ、アマルガルムって。有名人か?」


「霊獣の名前なんじゃない? ほら、この子、セリアノだし」


 ……え、なんでそんな冷めてるの? 他のグループは盛り上がってたじゃん! みんなもやろうよ、ロールプレイ! 楽しいよ!?


 ともあれ、この場はまとまった。多分。


 後は、わたしが臆病風を吹かさずに先陣を切ればいい。過度に恐れることはないと実践してみせれば、みんなも勢いづくはずだ。


 わたしたち三人のイモータルと、後方で守りに就くエイリーンさんとで、アイコンタクトが行われる。


 お互いの無事を祈りつつ、いざ反撃開始だ。

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