未知との遭遇
青い空が拡がる午前中に鬼島が授業をさぼって学校の屋上に設置されているベンチに足を組んで寝転がっていた。
心地よい風が吹き目を閉じていると、屋上の入口の扉が開く音がし頭を上げ見てみると、サラサラの銀髪ショートカットのまるで人形のように透き通った目をした少年が、制服を着ているので学校の生徒で間違いないが、屋上の真ん中まで歩くと迷うことなく立ち止まった。
そしておもむろに第一ボタンまで閉め切った制服の内ポッケからスマホを取り出し、無表情のまま目を閉じて天に向かってスマホを突き上げ、その状態で止まった。
一連を見ていた鬼島はあっけにとられた。
「あの野郎、なにしてんだ?」
しばらく見守っていると、その生徒は天を見上げ目をゆっくりと開いて一言。
「届いた」
スマホにヴーヴーと通知を知らせるバイブが鳴った。少年は画面を確認し人さし指でタッチ操作をしたあと、再びスマホを天に向かって掲げる。
「交信完了」
一言つぶやいたあとスマホを内ポケットにしまい校内に戻ろうと入口に向かう。
「おいおめえ。今なにやってたんだ?」
向かう最中、背中に鬼島が声をかけた。少年はゆっくりと顔だけを振り向いてジッと鬼島を見つめたあとポツリと一言。
「そういう貴様こそなにをやっていたのだ?」
「あ?」
声は少年然なのにまるで貴族のよう口ぶりで一瞬あっけにとられた鬼島だが、すぐに少年に応える。
「なにってサボりに決まってんだろ」
「なにゆえサボりを決め込む?」
少年は非難をしているわけではなく、ただ単に聞いてるだけ。
「そりゃあ授業がつまんねえからに決まってんだろ。こう言っちゃなんだがな、ただでさえ授業がつまんねえ不良の俺に授業がつまんねえと改めて言われたら、サボられても仕方ねえってもんだ。なんだかんだでてめえもその口だろ?」
「いや。我はメル友と電波のやりとりをしておったのだ」
「あ?」
少年は振り返って無表情のままそう言い放った。鬼島は言われた意味が分からず眉をひそめた。
「・・・てめえの教室は電波が入りづらいんか?」
「そうではない。火星にいるメル友と電波で交信しておったのだ。教室より外に出たほうが交信しやすいのだ」
「火星? 地球の間違いじゃねえのか?」
「火星で間違いない。住所は『マーズ1-16-4オリンポス南』に住んでいるメル友だ」
「火星のメル友がなんて送ってくんだ?」
少年はスマホを取り出し、先ほど送られてきた文面を見たまま声に出して淡々と読み上げる。
「『地球にいる宇宙人へ。何十年後かにそちらからこちらへ何人か移住する予定があると聞きました。ワクワクしながら待ってます。追伸・地球にいる宇宙人はO2がないと生きられないと聞きましたが、こちらではO2は少ないのであしからず』」
「宇宙人ってあっちじゃねえのか?」
「彼らから見れば火星以外の星に住む者は宇宙人も道理」
「そういやそうだな。んでてめえはなんて返したんだ?」
「『りょ』」
「あん? 一言だけかよ。メル友といえどもっとやりとり大切しとけや」
少年はずっとまばたきをしない目で鬼島をジッと見つめたあと口を開いた。
「りょ」
「分かりゃあいいんだよ。ん? なんだ? なに眼くれてんだコラ」
鬼島は満足そうに鼻を鳴らすが、少年がまだ鬼島をジッと見つめていることに気づき負けじと睨みつける。
「貴様は何者だ?」
「あん? まずはてめえから言えやコラ」
「我は
「チッ。上か」
3年生と分かり嫌そうな表情を浮かべる。
「俺は鬼島だ。1年だ。だがたとえ相手が3年だろうが容赦はしねえ」
「威勢が良いな」
「学年が少し上ってだけで調子こかれたんじゃ面白くもねえからなあ」
天野はジッと鬼島を見やり、鬼島はギンと天野を睨みつけているとチャイムが鳴った。
「予鈴だ」
「違えよ。お互い授業ふけって来てんだ。授業が終わった合図だ」
「そうであったな」
天野は急に興味を失ったのか、背中を向けて屋上の入口にさっさと行ってしまった。
「なんだあいつぁ?」
残された鬼島は入口を見つめながらひとりごちっていた。
◇◇◇◇
「鬼島。またサボりか?」
鬼島が教室に戻るとそれを見た小野坂がまたかという風に言ってきたため机に足を投げ出して面倒くさそうに応える。
「別に俺のサボりなんざ一緒にサボってた野郎に比べれば大したことねえ」
「え、他にサボってた奴がいたんか?」
「どうやら宇宙人と電波のやりとりするためにサボってたんだとよお」
「は?」
「宇宙規模のサボリだ。どうせ相手の宇宙人とやらもサボり途中に決まってらあ」
「・・・俺にはお前が電波にしか感じねえんだが」
「ふざけんじゃねえ。不良に宇宙人が務まるかよ」
「・・・なんかよっく分かんねえ」
もうワケが分からず、ずり落ちそうになるメガネを指で抑え込む小野坂だった。
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