笑う膝
「昨日のコント番組見たか?」
「全国一位決めるやつだったか? 観てねえな」
首を横に振った小野坂。すると高崎は残念そうな表情を浮かべた。
「な~んだ。渉にも見て欲しかったんだけどなあ」
「そんなに面白かったのか?」
「いやそれがさ。これがぜんっぜん笑えないんだよ」
まさかの否定。高崎は手をないないという風に振って言った。
「は? つまんなかったんか?」
「いやネタは面白いだ。ただこの番組に出てくるこいつらはここに出てくるまで大変な思いをして勝ち上がってきたわけだろ?」
「まあそうだろうな」
「そう思うとよ、こいつら観て笑っていいものかどうか・・・」
高崎は腕を組んで深刻そうに言った。
「笑ってやれよそこは・・・。そいつらは人を笑わすために頑張ってんだぞ? そこで笑ってやんねえほうが笑えね話ってもんだ」
「もしそれがつまんないネタでもか? 失笑でもしといたほうがいいか?」
「そっちのほうがキッチイだろ・・・。まあとにかくよ。面白えんだったら笑って
やれよ。笑ってやんのがそいつらにとって一番の励みになんだからよ」
小野坂が高崎に諭していると鬼島が二人のもとにやってきて高崎をにらみつけた。
「鬼島?」
どうした?と高崎が見上げて言うと鬼島は不機嫌そうに口を開いた。
「めっちゃ笑ってた俺にその話は面白くねえな」
「え? もしかして鬼島・・・お笑い好き?」
「そうだ」
小野坂と高崎は目をパチクリさせた。
「そりゃまた面白い話だな」
「笑えよ」
「え?」
「面白い話なら笑えってんだ」
「ぷっあはははは」
高崎は言われた通り笑ってしまい、それを見た小野坂は鬼島が言った意味をはき違えてる高崎にやっちまったな~と呆れる。
「なに笑ってんだコラ」
「いやごめん。普通に面白かったもんで」
呼吸を整えながら言う高崎。
「普通なのか面白いのかどっちだコラ」
「ふもろい」
「ざけんな」
遂に鬼島が高崎の胸倉をつかんだところで小野坂がまあまあと二人の間に割って入った。
「しかし鬼島がお笑い好きだったのは正直意外だったわ」
小野坂がそう言うとつまらなそうに舌打ちをし高崎の胸倉を掴むのをやめた。
「中坊の頃に、俺がおもしれえと思ってたピン芸人をつまんねえ呼ばわりした野郎を俺が笑わしてやったことがあんだ」
「へえ。ケンカだけじゃねえんだな」
「ま、笑わしたのは膝だがな」
「やっぱケンカじゃねえか」
「野郎笑いを堪えて殴りにきたんでな、こっちは腹パンで腹の底から赤い色の笑いがこみ上げるようにしてやった」
「鉄分豊富な笑いだな」
小野坂と鬼島がしゃべっている間も高崎は笑いをこらえているのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます