「昨日街中で日傘を相合傘してるカップル見た」


「傘じゃなくて日傘?」


「そう。最近日傘する人も増えたっていうしな。時代は相合日傘だな」


「でも日傘って小さくねえか?」


「だから男の右腕見たらすごい日焼けしてた」


「へえ。偉えじゃねえか。彼女を陽射しから守ってる証拠だろ?」


「いやよく見たら、彼女の左腕も同じくらい日焼けしてた」


「・・・まあ仲がいいってことか」


 小野坂は自分を納得させるようにつぶやいた。


「相合傘で思い出したけど、中学のときに黒板の隅に自分で書いた相合傘の片方に自分の名前を書き込んでた奴いたよな」


 高崎が思い出したように言うと、小野坂も思い出したようにうなずいた。


「ああ~。あったなそんなこと」


「あれって結局女子の誰か書いたっけか?」


「いや。確か先生が『女子たちの中でもう片方を書きたいのがいたら書いていいぞ~』って聞いてたけど誰も書かなかったんだよな。しかもそいつに『さすがにずっと黒板に残しておくのも困るからいつまでだ?』って書き込む期限聞いてたな」


「聞いてた聞いてた。週末までだったっけ?」


「ああ。先生も『女子聞いたか~? 週末までだぞ~』って言ってた。そんで週末になって『もうこれ消していいか?』って聞いて自分の名前だけ書かれた相合傘をキレイに先生に消されてたな。しかもそれを消した黒板消しをクリーナーにかけてたのはそいつだったもんな」


 ◇◇◇◇


 放課後。下駄箱から外を眺めると雨が降っていた。


「傘を忘れた女子と相合傘するチャンスだな。と言っても傘忘れたけど」


「俺もだ。つうかそもそも男子校だしどうでもいいけどな」


 茫然と雨を眺める高崎と小野坂。


「ん? 二階堂は傘持ってきたんか?」


 下駄箱の先にある傘立てのところから傘を取る二階堂に小野坂が話かけた。


「ああ」


 二階堂は涼しげに応えた。


「中学のときはいつ雨が降っても相合傘が出来るよう必ず置き傘をしてたくらいさ」


「やっぱモテる男は違うね~」


「そうだね」


 高崎は茶化すように言ったが二階堂は平然とそれを肯定した。


「一度だけ女子二人組が傘に入れてほしいと頼んできたことあってね。これは両手に花だなと思って快諾したら僕だけ弾かれたことがあるよ」

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