試合と書いてゲームと読む

「ゲームをやるのは時間の無駄って言う人いるけど、そのゲームをやるために頑張って時間を作ったら無駄じゃないよな。しかも職業としてのプロゲーマーになってお金もらえるようになったら無駄どころか職業訓練してたくらいになるし」


「そんで将来就きたいと思ってる職業を書く用紙にプロゲーマーって書いたんか?」


「ああ」


「で、一日どのくらい練習してるんだ?」


「ゲームは一日1時間。やっぱり量より質だな」


「いや質と言う前に圧倒的に数が足りてねえと思うぞ」


 高崎がそこまで本気ではなさそうだと小野坂は思った。


「部活で野球やってて野球ゲームのプロ選手になった人知ってる? その人野球はそこそこだったんだけど、ゲームになると野球部のエースを打ちのめすほど上手くて、自分はこっちの才能があるってゲームの練習に励んで、ゲームの野球が上手くなると現実の野球ではレギュラー落ち。ゲームが上手くなると準レギュラー落ち。ゲームが上手くなると補欠になり、さらにゲームが上手くなると観客席での応援枠。そしてゲームセット。部活は退部になったけどスカウトの目に留まってドラフト1位で獲得される。プロ野球ゲーマーとして」



◇ ◇ ◇



「先輩はゲームとかってやります?」


映画研究部の部室にて諸星が先輩である戸々竹に尋ねていた。


「やらんなあ。それよりも映画観るな」


「じゃあこのサッカーゲームを題材にした映画どうです?」



「先輩! 新作届く時間になったんですけどもう届いてます!?」


クラブの寮の相部屋に勢いよく飛び込んできた選手は待ちきれない様子で先輩選手に聞いた。すると先輩はラッピングされた真新しいゲームパッケージを取って後輩に差し出した。


「ああ。お前の予約してたサッカーゲーム届いてたぞ。ほれ」


「おお~!  新作キター!」

 

嬉しそうにゲームを天高く掲げる。その様子を見て先輩選手は苦笑した。


「お前、めっちゃ楽しみにしてたもんな」


「そりゃそうですよ~。だって俺がプロの選手を目指した理由が、この『好きなゲームに出たいから』だったんですから~」


「そんな理由でプロ目指したのかお前は・・・」


先輩選手はまさかの理由を聞いてあきれてしまった。そんなことを露しらず、後輩はウキウキとソフトをゲーム機にセットし、コントローラーを期待するような目で先輩に差し出した。


「先輩。今から1戦やりません?」


「今からって・・・。今から俺は練習なんだが。というかお前もだろ?」


「今はこっちのサッカーのほうが大事です」


真面目な表情で言い放った。


「まあ楽しみなのは分かるがな。とにかく練習が終わってからな」


「そんな~。俺、今日の練習ゲームが気になってボールを蹴る気にもなれないですよ~」


「それでもプロかお前は」


「・・・分かりました。分かりましたよ。じゃあ蹴ればいいですね?」


あきらめたように両手をあげた。


「おう。それでこそプロだ」


「じゃあ練習を蹴ります」


「アホ。練習行くぞ」



「いや~やっと練習終わった~」


相部屋にドカドカと戻ってきた二人。やれやれという感じを出す後輩に先輩は眉をひそめた。


「お前今日の練習全然身入ってなかったな~。監督も心配してたぞ」


「じゃあ先輩。さっそくやりますか?」


さっそくコントローラー差し出してくる後輩。


「おい。人の話聞いてたか? 監督が心配してたぞ」


「俺の心配はいいんですよ。それよりもこのゲームが大事です」


「それよりもお前が心配なんだがなあ」


「大丈夫ですって。明日はちゃんと練習しますから」


「その言葉、忘れるなよ」



「あ、先輩見て下さい! ゲームの中に俺がいますよ! 俺が! ちゃんと出場してますよ!」


「お前、練習のときとは打って変わってイキイキしてるなあ」


画面に向かって指さしてはしゃぐ後輩にあきれてしまう。


「あ、先輩! 先輩もいますよ!」


「お、ほんとだ俺もいるな」


自分がゲームに出ているのを見てさすがに嬉しくなる。


「お、俺・・・。か、感動です。やっと夢が叶いました」


後輩はコントローラーを持った手で涙をぬぐった。


「お前もほかの奴ら同様プロの世界を夢みて入ってきたと思ったがなあ。お前だけは別の世界を夢見てたんだなあ」


先輩はあきれ半分で言った。


「ほら先輩! 試合始めますよ!」


「現実の試合前より気合い入ってんなお前・・・」



「よ~しっ! 俺にパスだ!」


「お前さっきから自分にばっかボール持たせてるな。まあ気持ちは分からんでもないけど」


「俺だ俺! お~れ~俺俺俺~♪」


「チームのボール支配率、お前だけで9割いってんじゃねえかこれ・・・」


「よし俺! 華麗にドリブルして――」


「いや、させねえから」


「あ!」


「お前ボール奪いやすいな~。現実でもそういうとこあるけど、ゲームでもちゃんとそうなってるな~」


やすやすとボールを取られ驚愕する後輩に先輩はニマニマしながら言った。


「・・・つ、次こそは俺が華麗なフェイントで抜きますよ! これで――」


「ほい残念」


「なんで!? フェイントしてるのに俺がフェイントしてくれない!」


「お前、自分のパラメーター見た?」


「パラメーター?」


先輩はタイムボタンを押し各選手のパラメーターが観れるゲーム画面を開き後輩のパラメーターを指さした。


「ほら。お前のテクニックの数値低いぞ。こんなんじゃ出来るフェイントもほとんどないし、こっちも奪いやすいぞ」


「な、なんで・・・」


後輩は愕然としていた。


「お前、あんまドリブル得意じゃないだろ。ちゃんとそういうとこも反映されてるってことだな。ゲームとはいえ現実的というか非情というかな」


「そ、そんな・・・」



「あいつ、ここんところすごい練習頑張ってるな。なにか心境の変化でもあったのか?」


「いやあ、俺もよく分かんないです」


監督に聞かれ先輩は頭をかきながら苦笑交じりに応えた。


「(ゲームが、とは言えんよなあ・・・)」


「ん? なんだって?」


「い、いやなんでもないです。でも監督の目から見てもかなり変わった感じがしますかアイツは?」


「そうだなあ。なんというか鬼気迫るもんがあるなあ」


「そ、そうですね~」


 

「放送席、放送席~。今年のリーグ最多得点王の選手に来ていただきました~。得点王おめでとうございます」


「ありがとうございます」


お立ち台に立ち、インタビューを受ける後輩選手の姿があった。その姿はなにかやり遂げたような凛々しい顔つきをしていた。


「今年は飛躍の年になりましたね。特にテクニックが、ドリブルの技術が目覚ましく、フェイントのバリエーションも豊富になったと賞賛されていますが、そのあたりどう思われますか?」


「とりあえず、新作が待ち遠しいです」


「し、新作、ですか?」


インタビュアーは困惑した。


「ええ。今月出るんです。そこに俺も出場するんです。本当のサッカーはこれからですよ」


「そ、そうですか。え~と、なんのことかよく分かりませんが、今後のご活躍に期待しております」


「それは新作次第ですね」



「ゲームが現実に反映されたわけか。この映画のタイトルは?」


「『試合と書いてゲームと読む』」

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