雑草と桜

弓波 葵衣

雑草と桜

ふわっとなにかがぼくの頭に降ってきた。それはとても軽くて儚い薄ピンクの花びらだった。少し前までぼくと同じ単色で地味だった桜の木、今では華やかにそして上品に花を咲かせている。


「ままー!みてみてさくらだよ!」

その子の笑顔もまるで花のようだった。ぼくは一生花を咲かせない。笑顔も向けられない。

「どうしたの?元気ないね。」

君を見て落ち込んでたんだよ。なんて言えるはずがない。これは、ただの嫉妬。やだな心まで汚くなるなんて。僕みたいな雑草は、踏まれてもしぶとく生き続ける生命力だけが取り柄。そもそもこれは、取り柄なの?忌々しげになかまを引っこ抜いたにんげんの顔がよぎる。


「ねえ、人ってお花見するじゃない?」

桜の木は、唐突に当たり前のことを言い出す。世間話でもしたいのか?あいにく、ぼくはそんな気分じゃない。

「お花見をさ、人間たちのあの細長い建物、ビルっていうんだっけ?そこでやっても面白くないと思うのよね。外でするから楽しいと思うの。それでね、なんで、外だと楽しいのかってことなんだけど、」

桜の木はじっと僕を見つめる。そして、花びらのような柔らかな笑顔になると言った。

「あなたたちのおかげよ。」

ぼくたちの?おかげ?そんなこと言われたことがなかった。

「勿論あなた達だけのでは無いわよ。ただ、あなた達の柔らかで強い体の上にシートをひくから人間達はあんなに楽しめるのだと思うわ。おしりもいたくならずにね。それに私たちのピンクとあなた達の緑、相性バッチリじゃないかしら?」

うふふ、と桜は嬉しそうに笑った。


「お花見での人間の笑顔は、私達桜だけがつくりあげているのではないわ。あなた達や、鳥、お日様、虫、他にもたくさん。私たち自然の共演で生み出されるのが人間達の笑顔なの。人の言葉を、借りると『縁の下の力持ち』ってやつね。」


気づいたらぼくは泣いていた。桜の木は、あらあらと言って軽く枝を揺らす。僕の前には、ひらりと1枚の花弁。まるで、それで涙を拭きなさい、と言っているようだ。にんげんたちに伝えたい、いらない存在なんてないよ。ぼくでも誰かの役に立てているのだから。桜みたいに広い視野と優しい心でせかいをみれば世界はもっと美しくなるんだね。


これは、お花見に来る人が少なかったある年の午後のおはなし









-----------------------読んでくれた方ありがとうございます。

初めての短編でしたが、いかがだったでしょうか?

ふと思いついて、いてもたってもいられなくなり書いた作品ですので、間違いなどありましたらご指摘頂けると幸いです。


来年のお花見たのしみですね。

ご覧いただきありがとうございました。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

雑草と桜 弓波 葵衣 @aoi_yuminami

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ