マジモンの人は大体それほどでもないと言う

星野谷 月光

異常者募集

「異常者募集」


そう、張り紙にはあった。

異常者。なるほど私もそういった趣味には一家言ある。

その私から言わせて貰えば、異常者とはなろうとして成る者ではなく気がつけばなっているものだ。

そして異常者とは自分よりも異常な者をよく知っている。

故に自らは名乗りを上げるほどの者ではないと思うだろう。


「そうたとえば……」


自らの記憶している異常者を思い出す。


たとえば。

夜な夜な全身タイツを穿いて女装して露出するのを二〇年ほどやっている変態、とか。

オーソドックスな変態だろう。

同じ事を偏執的に続けているのも気合いを感じる。


たとえば

マッドサイエンティストなんかどうだろう。

東西冷戦下では両陣営が倫理を投げ捨てて実験をした。

三ヶ月眠らせない実験。覚醒剤を用いた洗脳の臨床試験。

そんなことをすればどうなるかわかりきっているのに、無意味に無自覚に他者の命を踏みにじり他者の痛みを思ってやれない。

科学という真実を追究する学問そのものの価値を既存する唾棄すべき無知蒙昧の輩。


たとえば。

独裁者なんかどうだろう。

『敵の妻を敵の死体の上で犯す事こそ人生の喜びだ』と言ったようなことを言い放ったチンギスハン。

エリートへの憎しみをこじらせて、子供以外の全てを虐殺し尽くしたポルポト。

血に濡れたその姿は人でしかないのに魔王そのものだ。


思い返せば、いろんな異常者がいたものだ。

だが、それも全て懐かしい思い出だ。

私は、超巨大構造物の上を歩く。現在、地球から一二五万七千キロメートル。

無秩序に再現された過去の町並みを私は歩く。

いつかきっと、人に会えると信じて。

世界の破滅から、五億六千年の時を歩みつつ。

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マジモンの人は大体それほどでもないと言う 星野谷 月光 @amnesia939

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