第21話 ごめんね、うちの子たちチートでして…
「クルルルー?」
「大丈夫だって。この子、いいドラゴンなので。ほらこの通り」
私がリューの頭を撫でてみせると、カイザくんたちが信じられないという顔でこっちを見てくる。
「ドラゴンが人間に懐いている……?」
「もしかしてお姉さん、テイマーっすか……?」
「でもこんなドラゴンを手懐けるテイマーなんて、見たことないわ……」
勝手に懐いてきただけですけど。
ていうかこの世界、魔物使いもいるのね。
「キィキィ!」
リューの背中からシャルが降りてくる。いないと思ってたら一緒だったのね。バトルエイプの本能か、最近よく狩りに行っているのだ。
「ば、バトルエイプ!?」
カイザくんたちが青い顔をして身構えた。その慌てようはリューのとき以上かもしれない。
「あ、この子も大丈夫。うちで飼ってるので」
「キキキ?(だれ?)」
私の背中に乗っかると、肩ごしに見知らぬ人間たちを観察するシャル。
「バトルエイプって、超ヤバイ魔物なんすけど……」
「一度敵認定されたら、群れ総出で襲ってくるっていう……」
「だ、大丈夫だよー……ははは」
……確約はできないけど。
「それよりさっき言った桜竜王って何のことです?」
家に戻りながら、先ほどから気になっていたことを訊いた。
「ご存じないんすか? 桜竜王は、世界に七体いるって言われてる伝説のドラゴン――竜王の一体で、ピンク色の鱗からその名が付いたって言われてるんすよ。もちろん実物を見たことはないんすけど、目撃者が書いたっていう絵を見たことがあるんす。それとよく似てたので、一瞬本物かと……」
「だが、さすがに大きさが違うだろう」
「そうね。本物は軽く二十メートルを超すって言われてるもの」
なるほど、そんなドラゴンがいるのか。
「実はその子供……って、さすがにそれはないっすね」
「ははは、ないない」
……ないよね?
ニックくんの予想を一蹴したけど、リューの出自なんてまったく分からない。
稀少な種族だから奴隷商に狙われたのか、それとも単に見た目が綺麗だったからなのか。
でもどうやってリューを捕まえたんだろ?
「クルルルー(わかんなーい)」
本人も分からないそうだからお手上げた。
……いや待って。もしかして分からないのはまだ生まれてなかったからなんじゃない?
つまり卵の段階で捕まり、その後あの商館にいるときに孵化。
そしてここはどこやねんと暴れ回っていると、偶然私たちに出会った。
逃げることができたことや、あのときの奴隷商の人たちの慌て具合を考え合わせると、孵化後の対策を取る前に、つまり予想外に早く孵ってしまったのかもしれない。
憶測でしかないけど。
その後、彼らには寝床を提供した。
隣の古い方の家でいいとのことだったので、そちらで休んでもらうことにした。
こっちだとガヤガヤうるさいだろうしね。
汚れていたので、お風呂に入ったらどうかと提案すると、すごく驚かれた。
やはりお風呂の風習はないらしい。
とにかく早く寝たいということで断られたので、身体を拭けるよう水とタオルだけ提供した。
◇ ◇ ◇
三人は提供された寝床で横になると、落ちるように眠ってしまった。
色々とこの村(?)について気になることも多かったが、それ以上に疲労が激しかったのだ。
もちろん助かったという安心感もあっただろう。
目が覚めたのは、翌日まだ日が昇り始める前のことだった。
「二人とも、どう思う?」
「……まさかこんな村があるとは思ってもみなかった」
「俄かには信じられないことばかりだわ」
ニックの問いに、カイザとミルアが応じる。
ここには人間の女性が一人、子供が二人、そして獣人の子供が三人しか住んでいないらしい。
……あと魔物だ。
「親子……ってわけでもなさそうだし、一体どんな関係なんだ?」
「それを言うなら獣人の子供がいるのもおかしいわ」
「あの子供たちがハイオークを倒せるってのは本当なのか?」
「いや、さすがにそれはないだろう」
カイザの疑問に、ニックは即答した。
「まだ冒険者になれるかなれないかって年齢の子じゃ、オークにだって歯が立たない。ましてやハイオークなんて、伝説の英雄じゃないんだしね」
それに、と彼は続ける。
「彼女……確か、サオリさん、だったか? 彼女がドラゴンやバトルエイプを従えてんだ。ハイオークなんて瞬殺だろう」
「それはそうか」
「手伝いくらいしてるのかもしれないけど、どうせ誇張して言ったのだろう。十分弱ったところへ、トドメを刺しただけとかね」
ニックの意見はもっともだった。カイザとミルアは納得したように頷く。
「なんなら後でちょっと剣の使い方でも教えてあげたらどうだい、カイザ?」
「うむ、そうだな。お陰で体力も回復してきた」
カイザは剣士だった。
とある剣術大会で優秀な成績を修めるほどの腕前で、騎士にならないかと誘われたこともったくらいだ。
「じゃ、俺はシーフのイロハでも教えてあげるかな。狩りにも役立つだろうしね」
ニックは罠などの察知や、搦め手での戦闘などを得意とするシーフだ。
とりわけ彼は、気配を消して行動する〝隠密〟を最大の特技としている。
「魔法は……さすがに習得までに時間がかかり過ぎるわね」
ミルアは魔法使いだった。
魔法は幼少期からの特別な訓練が必要とされ、本来なら彼女はそうした環境とは無縁だったのだが、運よく師と仰げる人物に出会い、その手解きで魔法を使えるようになった。
現在は他パーティから誘いを受けるほど、名前を知られている。……冒険者には珍しい美人だからでもあるが。
ともかく、Bランクパーティの冒険者直々の指導なんて、なかなか受けられるようなことではない。
きっと子供たちも喜んでくれるだろう。
……しかし彼らはこのあと痛感させられることになる。
この村の子供たちが、いかに異常なのかということを。
◇ ◇ ◇
冒険者くんたちはすっかり元気になったようだ。
助けたお礼にということで、お金をくれようとしたけれど断った。
だってこんな森じゃお金なんて使い道ないしね。
でもそうすると彼らはちょっと困ったように顔を見合わせた。
どうやらそれ以外にお礼ができそうなものがないらしい。一番価値があるのは武器の類いだけれど、さすがに商売道具を渡すことはできない。
いやいや、別にお礼とか要らないって。
そう言って固辞したけど、向こうとしてはそれでは気が済まないという。
「ではこの森を踏破できるだけの実力を身に付けた暁には、何らかの品を持って、再びここに参りたいと思う」
「じゃあそれで」
なかなか律儀な若者たちで、お姉さん感心しちゃう。
でも無理しないでね?
その後、それとは別にということで、カイザくんがうちの子たちに剣の稽古を付けてあげたいと言い出した。
んんん……?
君って、ハイオークにも苦戦するくらいなんだよね? 大丈夫?
「おれたち、剣はつかわないから」
ということで、レオルくんだけが剣を習うことになった。
「剣を習った経験はあるのか?」
「ないよ! 剣もやりも自分で覚えた!」
「なるほど、我流か。……変な癖が付いていなければいいのだが」
二人は剣を持って向かい合う。
「随分と不思議な剣だな?」
「リューの爪で作ったんだ! よくきれるけど、お兄ちゃん大丈夫?」
「ど、ドラゴンの爪か……まぁ、問題ない。当たらなければいいだけだからな」
「そう?」
「まずは実力を確かめさせてもらおうか。好きなように攻撃してきていいぞ」
「ほんと? じゃあいくね。えいっ」
レオルくんが可愛らしい掛け声とともに地面を蹴った。
「……なっ?」
カイザくんが目を見開いた。
ていうか、レオルくんめっちゃ速っ! 一瞬で距離が詰まったし! 縮地?
驚くカイザくんだったけど、さすがは冒険者、ギリギリでレオルくんの剣を受け止めた。
パキーーーンッ!
剣が折れちゃったけどね……。
「「は?」」
私の隣でニックくんとミルアさんがあんぐりと口を大きく開けていた。
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