第15話 植物も例外ではないようです
リューが冬眠してしまう前にと、早速、建設作業がスタートした。
木を切り倒し、余分な枝葉を取り除いて表面を削ったり、長さを整えたりして、大量の丸太を作り出していく。
どうやら新しい家はログハウスみたいにするつもりらしい。
場所は今の家のすぐ隣だ。
生きる重機とでも言うべきリューがいるので、木の伐採も運搬もそれほど大変ではない。
問題は丸太の加工だ。
丸太をそのまま乗っけていくだけかと思っていたけど、それだと安定しないので、窪みを入れないといけないらしい。そりゃそうだ。丸いもの同士だと普通に滑っちゃうよね。
もちろん丸太を交差させる部分にも加工が必要だ。
しかしリューはこの手の作業は苦手としている。
そこで役に立ったのが獣人くんたちだ。
リューよりも力がない。レオルくんほどの器用さもない。
だけどリューよりは器用だし、単純な体力や腕力ではレオルくんに勝っている。
そんな彼らにとって、加工作業は適任だった。料理と比べれば繊細さも必要ないしね。
え? 私? 訊いてくれるな。
どうにか面倒な加工作業が終わると、丸太を組み合わせていく。
ここではやはりリューが役立った。
……デブになったせいで、空を飛びながらの作業がちょっともたついてたけど。
そして、作り始めて僅か一週間。
「「「できたーっ!」」」
「クルルーっ!」
レオルくんたちが声を揃えて叫んだ。
そこには子供だけで作ったとは思えない、見事なログハウスが完成していた。+ドラゴンだけどね。
中に入ると、意外と広かった。
面積は今までの家とあまり変わらないけど、たぶん天井が高いから広く感じるんだろう。
ていうか、よく見たらロフトまであるよ!
入り口もちょっと広く作ったらしく、おデブ化したリューもすんなり通ることができた。
さらに暖炉まである。
「すごい! これで冬も越せるね!」
「クルル~」
「リュー?」
リューが「これで思い残すことはない」みたいな顔をして外に出ていく。
そして家の裏手に穴を掘り始めた。
どうやら冬眠するときが来たらしい。
きっと家づくりが終わるまで待っていてくれたのだ。
「リュー、おやすみ。春にまた会おうね。その頃には痩せてるかな?」
「クルルルルルル~?(いなくなったりしない?)」
「しないしない!」
「クルル~♪」
鼻面を撫でてやると、リューは嬉しそうに鳴いた。
「リュー、おやすみ!」
「ばいばい!」
「またね!」
子供たちからも見送られながら、リューの大きな身体は土の奥へと消えていった。
冬の空気と相まって、何だかすごくもの哀しい気持ちになった。
翌日、新しい家にお引越しした。
といってもすぐ隣だし、物も少ないのですぐに終わった。
一番大きかったリューがいなくて寂しいけど、ともかくこれで冬を迎える準備はほとんど整ったはず。
「サオリおねーちゃん! ちょっと来て!」
温かい暖炉の前でまったりしていると、外からレオルくんたちの呼ぶ声が聞こえてきた。
何だろうと思いながら外に出る。
う~、今日はまた一段と寒いね。すっかり冬だ。
家のすぐ前にレオルくんとケモミミーズ三人が集まっていた。
「おねえちゃん、これ見て。これこれ」
そう言ってライオくんが指差しているのは、地面から生えている苗だ。
最初はごく普通の木かと思い、でもこんなところに生えてたっけ? と首を傾げていると、あることに気付いた。
「う、動いてる……?」
昔、おもちゃ屋で見たことがある、サングラスをかけた謎のヒマワリを思い出した。
あんな感じで、くねくねと不気味に身体を揺らしている。
風の仕業というだけでは説明できない動きだ。
レオナちゃんが言った。
「たぶん、トレント」
「トレント? って、人面樹の魔物の?」
「うん。その子どもだと思う」
今度はレオルくんが言う。
「このあいだ、木を切ろうとしたらトレントだったことがあったから、そのとき種がついてきたのかも」
誰かの身体に付着し、ここまで運んできた可能性があるという。
「今のうちに倒す?」
「~~~~ッ!」
ライオくんが言うと、トレントの子供は危機を感じ取ったのか、慌てて逃げようとした。
でも根っこが地面に縛られているようで移動できない。
うーん、うーん、って感じで頑張ってるけど、無理だよね。
何だかちょっと間抜けだ。コントでもしてるみたい。
ようやく逃げられないと気づいたのか、今度は、どうかご容赦を、ははーっ、って感じで思いきり頭(?)を下げてきた。
随分と人間味があるなぁ。
「なんかちょっとかわいいわね」
ヒューネちゃんが呟くと、そうです、私は無害なトレントなのです! とでも言うかのように、枝を広げてアピールした。
「可哀想だし、そのままにしておいてあげたらどうかな?」
私はそう提案した。
すると、おお、あなたが神か! みたいに枝を合わせて拝んでくる。
新たに変な仲間が加わった。
トレントの苗に名前を付けてあげた。
トット。
ヒューネちゃんの案だ。
チタくんからは不評だったけど、可愛くていいと思う。私が賛成すると、なぜかチタくんはあっさり折れた。
「トット、お水だよ!」
「~~♪」
レオナちゃんが水をかけてあげるとすごく喜ぶ。
どうやら彼女が魔法で生み出した水が一番好きなようで、川から引いてきた水のときとは反応が全然違った。
そのため二番目にレオナちゃんによく懐いている。
一番は私だ。
近づくと犬のようにぶんぶんと枝を振って嬉しそうにする。
私がここにいるのを許してあげたからかな? それとも〈子育て〉スキルの効果?
植物も対象なのか……。いや、トレントは魔物かな? 両方?
トットの成長は早かった。
最初は私の膝下くらいだったのに、ぐんぐん伸びてすでに腰ぐらいの高さになっている。
「大きくなったら木材にできそうだね」
そう言ってみると、ひえー、ご勘弁をー、とオーバーリアクション。
「冗談だってば、冗談」
ちょっとあねさん、さすがに今の冗談はキツイでっせ~! とばかりに枝でばしばし叩いてくる。
木なのにコミュ力高いね、ほんと。
成長が早いと言えば、シャルもそうだ。
猿って人間よりも成長が早いらしいしね。
ほんの少し前まで手のひらに乗るような赤ん坊だったのに、今ではあちこち走り回れるようになっている。
牙も生え始めていて、可愛かった顔もちょっとずつあの猿たちに似てきちゃって、少し残念だったり。まぁ仕方ないよね。
性格まで狂暴にならなければいいけど。
たまに物を隠したり摘まみ食いをしたりと悪戯はするものの、今のところ無邪気なものだ。
あと私に甘えてよく背中にしがみついてくる。
「お、おねえちゃん……シャルって、もしかして……」
そんなシャルのことで、ライオくんたちが心配そうに訊いてきた。
「バトルエイプじゃない……?」
「バトルエイプ?」
ライオくんたちが言うには、ニャー族の村で最も恐れられていた猿の魔物だという。
一度敵を見なした相手には、たとえ仲間がやられようが、最後の一匹になるまで戦いを挑み続けるという、非常に好戦的な性質を持つ。
それゆえ見かけても決して攻撃してはならず、むしろ食べ物を与えていなくなるのをただただ待つ、まさに天災のような存在だったのだとか。
うん、それだ。
あいつらめっちゃヤバかった。
「だ、大丈夫大丈夫。シャルは人間に懐いてるから。たぶん」
「キキィ」
「そもそもバトルエイプって、子どもでも人になついたりしないはずだけど……」
「そうだよね」
「でもサオリおねえちゃんだし」
「そっか、サオリおねえちゃんだもんね」
なぜか私だからということで納得された。解せぬ。
まぁこれも〈子育て〉スキルの力だよね。
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