アステリズムの恋

四季

アステリズムの恋

第1話 サラとの馴れ初め

 ふたご座はポルックスとカストルと呼ばれる2つのとても明るい1等星と、さらにいくつかの恒星こうせいで構成されている星座である。

 星座の中の星達をさらに細かく見た時、いくつかの明るい星をまとめてアステリズム(星郡せいぐん)と呼ぶ。ふたご座の中にあるアステリズムはポルックスとカストル。日本やいくつかの国の伝承ではこれを一組の眼にみたてることがある。

 ポルックスとカストル、複数の星をまとめて1つ、それがアステリズム。


 ⁑

 

 俺は三崎みさき 御波みなと 大学二年生。とても俺には釣り合わないくらい可憐な少女サラとゲームでの出会いを経て、初めて現実で出会ってからは人生の春を謳歌おうかするように幸せな日々を過ごしていた。年下の彼女のとの恋にここまで夢中になるなんて大学に進学した時は思っても見なかった。

 高校までは同級生で幼稚園からの幼馴染である藍沙あいさに恋をしていた。ただ彼女へは、大学進学までに自分の想いを伝えられず、何のアクションも起こせなかった。

 その後、彼女は自分の夢を叶えるためにあっけなく海外の大学へ進学してしまい、その後は音信不通。俺からのメッセージには何も返事は返ってこない。


 大学生活も別に悪くはなかった。ただ、女の子と付き合うなんて浮かれた話は何もない。そんな俺にもついに人生の春がやってきたと今日までは思っていた。

 MMOゲーム内で出会ったサラは高校3年生の女の子で、彼女からのアプローチでオフ会をした。正直に言うと一目見ただけで彼女に夢中になってしまったくらいに可愛い。容姿だけでなくて彼女の性格にもこの半年の間に何度で好きになっていしまった。幾度化のデートの間に手をつないだり、お互いを意識してきた。でも、さすがに高校生に手を出すわけにはいかないので正式な男女交際まだできていない。そう――……キスもまだしていない。


 ⁑

 

 今日は10/29サラの誕生日。このタイミングを見計らってプレゼントを用意した。生活費にも使っているアルバイト代を工面して必死にためて買った3万円のペアリング。

 これを送って彼女が高校を卒業したら付き合って欲しいと伝える。これまでの感触からきっと、おそらく、多分、OKを貰えて幸せな大学生活が始まると思っていた。

 ……だけれども。


【10/29 午後7時 @とある海辺の夜景スポット】

 星空のように輝く夜の港と月にきらめいた光が反射する海の波。それらが一望できる丘の上。周りを見渡すと恋人達が等間隔にこの景色を楽しむように身体を寄せ合って眺めている。その丘の一段と奥側で俺はサラと二人きりになっていた。

 俺はサラに必死に告白した。高校卒業の時みたいに想いを伝えられずに後悔をしないように精一杯せいいっぱい。心を込めて相手に好きだと伝える。


「サラ、誕生日おめでとう。俺はサラが好きだ。もしよかったら……。サラが大学生になったら付き合ってほしい。」

 相手の眼をみて、しっかりと言えたと思う。彼女が驚いた顔をしたあとに、いつものとびきりの笑顔で応えてくれる。

「みーくん、誕生日プレゼントありがとう。――私もみーくんのこと好き。ずっと付き合おうって言われたかったからとっても嬉しい。」

 サラが頬を夜の暗がりでもわかるくらい桜色に染まる。彼女の大きな目は女の子らしい可愛い上目使いをしていた。

 彼女のこの表情とこの応えが聞きたくて、今日まで頑張って考えて、必死にアルバイトをしてプレゼントを用意した甲斐があった。俺は嬉しさを噛みしめるようにぐっと両目をつむった。…――その刹那せつなにもう一度彼女の声がする。


「みーくん。私もみーくんのこと好き。私へ先にプレゼントくれるんだよね?だって、初めて手を繋いだのは私だもんね。卒業まで手を出さないのは、とってもしっかりしてて素敵。でも……――キスくらいならもうしてもいいと思うなー。」

 サラが2度も同じ様なセリフを言う。さらにはキスしてもいいなんて惑わせるような言葉をつなげてくる。そんなことを好きな女の子から言われたらどうしても抗えそうにもない。


 でもなにかおかしい。目を開けるといつの間にか鏡写しのような2つの同じ可愛い顔が並んでいる。

「「私達の二人のどっちに先にプレゼントしてくれるの? えへへ。」」



【5/2 午後9時頃 @ゲーム内】

[L. M : よし、ラストフェーズで全員デバフなしで超えられてるぞ!]

[S. A : 油断しないようにしないと~。]

[K. M : サラちゃん、軽減けいげんバフ後5秒で貼って。こっちのバフとちょうど合わせられる。]

[S. A: はーい。ちゃんと覚えてますよ~!]


 流行りのMMOゲーム。その最難易度コンテンツレイドをクリアするためにこれまで旧来の仲間やフレンド達と一緒に幾度いくどと挑戦をしてきた。今までにこのラストフェーズに何度も到達しているが、いつもは全滅か挑戦時間切れをしてしまいクリアはしたことがない。


 Lala Miller(ミラー)が俺のハンドルネーム。ジョブはメインアタッカー。このキャラはHPが0になってヒーラから蘇生そせいを貰ってしまうとしばらくの間は攻撃力が低下してしまう。

 ラストフェーズが始まり、敵が猛攻を仕掛けてくる。それを掻い潜りながら徐々に最後のHPを減らしていく。フェーズが順調に進んでいく。ただ、ラストフェーズのその更に最後、レイドへの挑戦時間の終わりを告げる敵の大技ラッシュが始まっていく。


[K.M: あ、もう無理。これ最後の無敵、後4秒。1.5%―! 御波みなみ、削りきって。]

 男らしい声。彼は、いや実は彼女は桐山きりやま みなと。ハンドルネームは Kiriyama Minato(ミナト)。メインタンクとそのアバターの容姿らしくしっかりとした男らしい指示俺に出す。仲間同士の絆ゲージをつかって最後の大技を発動させる。この技と他のアタッカーと力を合わせて敵のHPを0まで削れなかったらまた負けてしまう。


[S.A : お願い、お願い!]

 ヒーラジョブのSara Airish(サラ)がボイスチャットで可愛い声を出しながら懸命に祈りを捧げる。アバターのキャラクターも同様に癒やしの祈りを捧げる。

 メインタンクの無敵バフが切れたら最後の頼みはこのキャラの特殊全回復技で1秒程度だけ稼ぐしか余裕がない。

 湊のキャラのHPがほとんど0になる。サラが丁度に合わせこんだ回復技で狙い通り少しだけ時間が稼げる。その間、1秒以下の隙間で俺が発動していた大技が直撃する。さらに他のアタッカーの最後の攻撃が加わりボスの体力ゲージが駆け込みで0になる。


[L. M : ああ、終わった……]

 ゲーム画面が真っ白な光に包まれて、何度も挑戦したレイドのボスキャラクターが空からちて地面へと倒れこむ。その姿は光の欠片になって霧散むさんしていった。数秒の静寂と欠片がさらに散りゆくムービーの後に、フィールドへ立つ仲間のキャラクター達を写し出し景気がいい勝利のファンファーレが鳴り響く。画面をよく見ると湊のキャラだけは最後のボスの攻撃でやられたのか倒れている。


[K.M: よっしゃー!]

 湊が大きな歓声をあげる。同調して他のボイスチャットメンバーも盛り上がる。

[S.A : え、倒せた?倒せた?]

 サラはまだ信じられないようだ。ボイスチャットをしていないメンバーも文字チャット欄で喜びと驚きを分かち合っている。もうこのレイドに2ヶ月以上時間を費やしてきただけあって苦労と喜びも一言表せるものではない。


[K.M: 御波みなみ、サラ、ミスらなかったね~。やったじゃん。]

 ラストフェーズまでに俺が倒されてはいけない。さらにサラのヒールミスがあっても倒すことはきっと出来なかった。ただ、一番の功労者はみなとのリーダシップな気がするが、おめいただけるならありがたく頂戴ちょうだいしておく。


[S.A: やったー!皆で写真とっておこうよ~。]

 戦いが終わったフィールドで集合写真みんな集まってとる。多分、メンバーはこの写真を使ってSNSへと自慢の投稿をするだろう。みなとと俺はSNSをしていないのでその間ゲームキャラでエモートをして遊んでおく。

 湊は同じパーティだけではなく、同じ大学で学んでおり、同じ店舗内で働くアルバイト仲間でもあった。彼女は本名をそのままハンドルネームにする猛者もさだ。

 俺の本名と同じく中性的な名前なのでまだいいのかもしれない。ただ、女ばれがうっとおしいようでボイスチャットではエフェクトをかけて男声にしている。元来がんらいの喋り方も割と男っぽいのでとりあえずは女バレはしていないようだ。



 ひとしきり喜びを噛み締めて、他のプレイヤーへの自慢も散々済ませた。ふと気がつくと時刻は午後0時がもう近い。とても遅くなってきていた。それに気がついたメンバーが別れの挨拶をしてパーティをつぎつぎと抜けていく。

 このレイドをクリアするまで少し時間を使いすぎた。

 ヒーラのサラは話によると高校生3年らしい。受験の勉強が本格化するためこのレイドからは当分はお休みすると言っていた。オンラインゲームで珍しい若い女の子。しかも高校生であることを隠さずにプレイする彼女は、それはもうお姫様のように大人気だった。大抵は性格がダメなことが多いのに彼女は大変に天真爛漫な性格をしている。

 容姿まではさすがに教えてもらったことはない。ただ、ゲームの中で出会う女の子に期待してはいけない。大抵はなにか嘘を付いているし、下手したら人妻なんてこともザラにある。もしも間違いでもおかしたら人生が終わりだ。まあ、そんな心持ちと線引きはちゃんと持っているつもりだった。


 ⁑


 ログアウトする直前にいつも使っているボイスチャットツールに着信があった。サラからのプライベートコールだ。すこし驚きながらも応答ボタンを押して通話を始める。

「サラ?なにかあったか?」

「えへへ。ごめんね。みーくんともうちょっと話がしたくって。」

 時刻は午前0時過ぎ。本当に彼女が高校生だとしたら起きているにしてはちょっと遅い時間帯になる。

「もう遅いだろう。大丈夫か?」

「ゴールデンウィークだから大丈夫だよ~。」

 彼女は時折ときおりこうしてプライベートチャットを寄こすことがあった。元々、彼女との出会いは彼女が一人でプレイをしているところ、みなとと一緒に誘ったことだった。コンテンツの入り口で困ったようにウロウロする彼女のキャラクターへメッセージを送ったのだ。


 その後は順調に仲良くなり、ボイスチャットも初めた。彼女が女性だったことには驚いたが、湊のような事例もあるのでそこまで珍しくはないかと納得した。

 彼女が女性であることを知った厄介なプレイヤーに絡まれて悩んでいたら、みなとが呼び出しをして追い返していた。まったく本当に男らしい。俺と言えば彼女の話し相手になって、みなとと一緒に対処について話し合ったくらいだ。

 プレイヤースキルがなければこのレイドにまで誘うことはなかったが、彼女は十分に腕をメキメキと伸ばしていっていた。若さの故、飲み込みがとても柔軟なのかも知れない。俺達の2か3歳下なだけだけれども。


「なら、ちょっとだけな。……お母さんにまた怒られるかも知れないぞ。」

「あははー。静かに喋らないとねー……。」

「今日も何か面倒に巻き込まれたか?」

 今日はレイドしていたので何か知らないプレイヤーに絡まれる事もなさそうだが。

「いや、大丈夫。ミナトさんとみーくんにいっぱい良くしてもらっているから最近は何もないよ。」

 それはよかった。本来、ゲームはリフレッシュするためにするのが良くて、でもそれが原因で人間関係の面倒事が増えてストレスになるのもおかしな話だ。

「湊、呼ばなくていいのか?」

「ミナトさんには別でメッセージ送っておいたからいいの。みーくんには直接声でお礼が言いたくって。」

 こんなこと言われたらモテない俺は勘違いしそうになる。彼女が厄介事やっかいごとに巻き込まれるのはこの声と態度のせいじゃないかなと思い、みなとに相談したことがある。ただ、湊の回答はそっけなかった。

「サラがみーくんなんて親しげに呼んでいるの、御波だけだからね。いいじゃない?」

 と、一蹴されてしまった。それ以来、このことを相談するのは止めた。


「お礼って、今日のプレイについてか?」

 ぶんぶんと首を振るような音がマイク越しに聞こえてくる。

「ううん。今までいっぱい私達と遊んでくれたからそのお礼かな。最初にみーくんが私のことパーティに誘ってくれたでしょう?めちゃ楽しかった。ううん、いまもずっと楽しい。」

「そりゃ、よかったよ。俺もサラと遊べて楽しいよ。」

 天真爛漫な彼女の声に、人柄に惚れ惚れする。申し訳ないがこんな甘い声や言動に勘違いする男がいるのもわからなくはない。


「でも、これからこのゲームは暫くお休みにするの。お母さんともちゃんと約束したしね。」

「ああ、頑張れよ。志望大学入れるといいな。」

「うん。まあ、そこまで判定も悪くないし大丈夫、かなー。」

 勉強ができるのは素直に羨ましい。俺が大学に入る時は必死だった。さらに、好きだった相手が留学に行くなんて知った時は頭が爆発しそうだったがギリギリなんとかなった。


「そうか。じゃあまた大学生になったらゲームでもしような。」

 そう伝えておけば彼女も余計な心配もなくなるだろう。元々、彼女が少しの間いないからってこの関係が崩れるとは思っていないが。

 

 ――ただ、その気遣いはどうも的外れだったようだ。

「……。私ね、桜ヶ丘さくらがおかに住んでいるの。だから近くの横澤大学よこさわだいがくに進学したいって思ってて。」

「……え?」

 桜ヶ丘はこの横澤よこさわのほんの近所の地名だ。俺がここに住んでいることは公然にしていた。男にすり寄ってくるような変なプレイヤーもいないし適当な雑談で仲がいいフレンドには伝えていた。

 ただ、彼女が横澤よこさわ近辺に住んでいるなんて初耳だった。

「それ、言ってもいいのか?大丈夫?」

「みーくん。横澤よこさわ大学生だよね。」

「そう…だけど……。」

 雑談で余計なことを話しすぎた。みなとに迷惑がかからないか心配になる。


「みーくんがよかったらね。今度、大学へ連れて行って欲しい。あとね、できたら勉強も教えてほしいの。」

 二人きりで会いたいという提案だろうか?びっくりして頭の中が真っ白になる。

「……俺がもしかしたら悪いやつかもしれないのにか?」

 警戒心がなさすぎるのでは無いかと思って心配になる。

「多分大丈夫。もしも変な事されたらミナトさんに助けてもらう。」

「その釘刺しは……効くねえ……。」

「だから今度、二人でオフ会しよ!ね?」

 トントン拍子で話が進んでいく。崖から転がり始めた石が何かにぶつかるまで止まりそうにないように。頭が真っ白になっている間にとめどなく話が決まっていく。

「俺が……100kgのデブかもしれないんだぞ……。もしかしたら高校生にでもすぐ手を出すダメなやつかもしれない。」

「みーくんは違うでしょう?あと、私別に顔とかそんなに気にしないしー。」

 女の子は外見を気にしないなんてよくそんなことを聞くが外見を気にしないでくれることなんて本当にあるのだろうか?長年の疑問だった。

「じゃあ、わかったよ……。俺の写真送っておくから、もしも嫌だったらこの話は忘れていいよ。俺も忘れるから。」

「絶対、大丈夫だよ。」

 彼女は確信を持ったような芯の通った声で返事をくれる。

「やったー。えへへ、楽しみー。明日からはゲームチャンネルは反応できないからプライベートチャットに送ってねー!」

 別にレイド仲間に俺の顔面を晒す勇気はない。ネタにされるだけだ。

「なら精一杯カッコいい写真、頑張ってとるから、ちょっとまってね……。」

「うん!」

 マイクをミュートにして立ち上がって身体の伸びをする。これは一度落ち着かないといけない。


 自分のことをそこまでひどい見た目ではないと思っているが、何分女の子と付き合ったことがないのだ。残念だがイケメンだと思い込んだり、ナルシストにはなりきれない。彼女へ送る写真をどうやって撮るか腕を組んでじっと悩む。

 ただ、あまり良く撮りすぎて現実で幻滅されるのも申し訳ない。フォルダの中からバイトのメンバーで取った集合写真を選ぶ。みなとも映っているのでトリミングして俺だけが映るようにした写真を彼女のチャットへ送る。もしも、これで反応がなかったら忘れよう。ブロックでもされたら2晩くらいは泣こう。そうしたら忘れられる……かな?

 

 高鳴る胸を意識しながら送信ボタンを押して、メッセージの既読が付いてから数秒後にサラから写真のメッセージが届く。サムネイルだけで可愛い女の子なのはわかったが、恐る恐るそれを拡大表示してみる。もしかしたら開くと男みたいなドッキリかも知れない。


 写真を見てから語彙力が低下しているので申し訳ないが、一言で言えばありえないくらい可愛い。

 綺麗なロングヘアにパッチリとした2つの目。彼女はたしかに桜ヶ丘高校の制服を身にまとっていて、両手をそっと前で組んでいる。そしてカメラ目線でレンズの向こう側から、こちらを真っ直ぐと見てきている。

 自室だろうか、白の漆喰しっくい風の壁には色とりどりの小物が飾ってあって。綺麗な空の風景写真がコルクボードのあちこちに貼られている。部屋まで理想的な女の子とでも言える素敵なデザインだ。



 美人局だろう。間違いない。ありえない。

 マイクのミュートを解除する。すると俺が言葉を発する前より一番にサラからの声が届く。

「みーくん、カッコいいじゃん。やっぱりー!」

「サラ、俺のこと騙そうとしてない?え、本当?」

「私のこと、気に入ってくれた?」

 ちょっとだけ伺うような声音で彼女が問いかけてくる。

「可愛すぎる。まだ、信じられてない。」

「えへへ、じゃあ信じてもらえるようにもう一枚送るね。」

 次の写真はヘッドセットを付けて、ゲーム画面とチャット欄が映り込むように撮られている。髪はそっとまとめ上げられていて、寝間着ねまき姿なのか少し首から上だけが映り込むように調整してあった。ピースをして笑顔でこちらを見ている。この今のチャット画面まで写されているのだ。これは信じるしかない。


「――信じます……。」

「じゃあ、早いけど明後日の午後からでもいい?もしかしてアルバイトあるかな?」

「いや、その日はないよ。……。」

 ゲーム内で可愛い女の子に出会うなんて隕石にわざとぶつかるような確率だと思っていた。今日からは改めないとダメらしい。今までゲーム内結婚システムなんて鼻で笑っていたが、あれだってもう馬鹿にできない。


「あ、そろそろ切らないと。ごめんね。じゃあ、駅で待ってるね。着くまえにみーくんの服装教えてねー。私も写真送るから。」

 親に注意されたのだろうか、そそくさと彼女が伝えたいことを連続で話してくる。

「ああ、おやすみ。また。」

「明後日、約束だよ。またねー。」


 通話を終えて一息付く。さぁ湊になんて言おう。サラがすごく積極的で、これまでの人生疑うぐらい可愛くて、もしかしたら俺に好意を持ってくれているかもしれなくて……。これは頭の心配をされて外科にでも連れて行かれそうだ。

 

 メッセージで貰った写真を2度見ても3度みても何度みてもまだ心の底から信じられない。可憐かれんに微笑むサラの笑顔を見て、自分も気持ち悪いくらいほほえみが浮かぶ。

 夢の中で出られなくなったか、妄想から抜け出せないくらいに過去の恋愛を引きずっていたのか、これが現実ならもうなんでも良かった。ただ、明日のバイトは絶対に集中できない。それだけははっきりとしていた。


 だけれども、これはちゃんと現実で夢じゃなかった。代わりに現実は小説よりもずっと奇怪であることは身をもって知ることになる。


 ⁑


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