メトロポリタン・インシデント
@tekerutekeru
プロローグ 『西暦2982年』
「......現在、エリア4ーUD53の首都高速環状線は事故の為、一時封鎖されています。ご利用の方はUD47をご利用下さい。繰り返します、現在、......」
雪の降る寒空の下、高い高架の上にある小さなパーキングスペースに一台の車が猛スピードでやって来る。
後部座席のドアが開き一人の男が降りてきた。
車から降りた秋斗は肌を刺すような寒さに身を震わせ、慌ててコートの襟元を閉めた。
空を見上げると、厚い雲が渦巻き、そびえたつ摩天楼が煌々と光を放っている。
耳に付けた無線機には先ほどからひっきりなしに報告が入り事態のひっ迫さを伝えていた。
停車している車のウィンドウが開き、青年が顔をのぞかせる。
「それじゃあ秋斗。わかってるとは思うが事故現場はちょうどこの真下の中央環状線だ。下に行っても指示があると思うが、よろしく頼むよ」
秋斗が目で了解の意を伝えると、青年は小さく頷いてアクセルをいっぱいに踏み車を急発進させる。
車はあっという間に見えなくなった。
秋斗は高い高架に支えられた道路の淵に立つ。眼下を見下ろすと、300メートルはあろうかというその先にランプを赤赤と照らした警察車両がひしめいているのがわかった。
ふっ、と誰にも気づかれないくらいの小さな息をつく。
そして秋斗は一歩足を踏み出して……
煌々と輝く街明かりに吸い込まれていった。
ここは2982年。東京。
第3次世界大戦を経て国土が荒廃した日本では、極度の人口集中に見舞われ、東京は今や人口1億人を抱える世界屈指の巨大都市になっている。
500メートルを遥かに超えるビルがひしめき合い、複雑な交通網が縦横無尽に張り巡らされるその場所では、日夜、新しい文化や最先端の科学技術が発信され続けているのだ。
1000年前と変わらず……。
そう。
月城秋斗はこの時代の人間ではなかった。言うなれば2010年の現代日本からやってきたタイムトラベラーである。
ーーーあの日、当時10歳だった秋斗は家族で東京駅にやってきていた。
見渡せば珍しい品々、ごった返す人々。
秋斗の興味を引くものは尽きない。
そうして幼い秋斗は周りに目を奪われ、夢中で見物にふけっていると……
いつの間にか迷子になってしまう。
都会の真っ只中でたった一人、孤独な秋斗。不安に駆られ彷徨い歩いていると、存在しないはずのホームに迷い込み……
そして、次に気づいたときには、
-ーー1000年後の東京に居たのだ。
その後紆余曲折があり、辛酸を舐め、今こうして特殊警察組織、公安局・特殊制圧部隊の保安官としてその身を立てているわけだが……
そんな彼は今、あろうことか高い高架の上からその身を投げたのである……。
ーーメトロポリタン・インシデントーー
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