月下香

RUM

第1話 レドルフ学院魔法学校

「じゃあ学祭何やりたいか案がある人〜」


9月、夏休み明けのこの日、文化祭の出し物決めのため学級委員が前に出て黒板に何やら色々と書き込んでいく。

進学校で有名なここ森岡高校は制服を着崩す様なバカな生徒はいない。

親から期待され親の仕事を継ぐ者や大手企業へ就職することを目標に国公立を目指す人も多い。


俺、橘黒江たちばなくろえは大手食品メーカーの息子として生まれ、生まれた時から敷かれたレールの上を歩いてきた。

特に夢もなく、願望もなく、将来は親の仕事を継いで親が選んだ相手と結婚をするんだろうと疑いもなくそう思っている。


なんてつまらない人生。


「おい、橘!お前なんか案ないか?」


「別に、なんでもいんじゃねぇ?」


またそれかよ〜と隣に座る山田翔太やまだしょうたは笑う。


蝉の音とともに夏風がカーテンを揺らす。

ああ、このままどこかへ飛んで行ってしまいたい。

このどんやりとした気持ちと一緒に飛ばされてしまえばいい。


ゆっくりと瞼を閉じると風が優しく頬を撫でた様な気がした。


--

・・・・・は?


パッと目を開けるとそこは緑の芝生の上だった。


「え、は?なんっ、はぁあ!?」


先ほどまで目の前に広がっていた教室の風景から一変して、目の前には広大な芝生と様々な木々、そして所々に見たことのない色をした花が咲きほこっていた。


「え、ちょ、何が起きてんだ?・・あ、そうか、夢か」


夢にしてはこの芝生の感じもだいぶリアルに感じる。

ゆっくりと寝転んでいた体を起こすと、とりあえず人がいないか探して見ることにした。


どうせ夢ならいつかは覚めるんだし、できるだけこの空間を満喫してから帰ろう。それからでも遅くないだろう。

どうせ戻ったっていつもと変わらない教室で文化祭の出し物を決めるだけだ。


くるりと周りを見回すと大きな建物が目に入った。


とりあえずあそこに行けば誰かには会えんだろ。


なぜかいつもより重い体を動かして建物を目指した。


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