番外編3 夏の思い出
「暑いなぁ……。」
毎日暑い日が続く夏。年々、夏の気温が高くなっているのは温暖化の影響だろうか。こうも暑いと溶けてしまいそうだ。クーラーをつけていても、一歩部屋から足を踏み出すとそこは灼熱の地獄かと思うほどだ。
でも、今日は外に出なければならない。
なぜならば、美琴姉さんと海に行く約束をしているからだ。しかも、美琴姉さんが車を出してくれると言っていた。二人だけで海でデートをするのだ。
楽しみすぎて昨日は夜なかなか眠ることができなかったことは言うまでもない。
「優斗ー?起きてる?」
「あ、うん。起きてるよ!今、行く!!」
美琴姉さんが部屋のドアの前から声をかけてくる。美琴姉さんの声はどんなに気温が暑くても不思議と暑さを感じさせないような声だ。
「お待たせ。」
「ん。じゃあ、行こうか。今日はちょっと遠出するから、朝ごはんは途中で食べようね。」
美琴姉さんは清楚な白いワンピースを着ている。美琴姉さんのスタイルに合わせたかのようなワンピースは美琴姉さんのスタイルの良さを際立たせているようだ。
どうしよう。この姿の美琴姉さんと海に行くのか。美琴姉さん、ナンパされ放題なような気がする。
「あ、うん。ねえ、なんか羽織らないの?」
「え?変かな?」
スタイルの良さが際立つ服装なので、オレは遠回しに確認する。
「いや。変じゃない。むしろ美琴姉さんにとても似合っているんだけど……。だけど、海に行くのにその恰好だと、他の男に美琴姉さんがナンパされそうで……。」
「あら?優斗が側にいるから大丈夫よ。守ってくれるんでしょう?」
美琴姉さんはにっこりと笑ってオレの顔を下から確認するように見つめてくる。長いまつ毛に彩られたキラキラと輝く瞳がまぶしくてクラクラしてしまった。
「そ、そうだけど……。」
「なら、大丈夫大丈夫。さ、行こう。遠くまで行くからね。早くいかないと着くころにはお昼になってしまうわ。」
美琴姉さんは上機嫌に笑うと、オレの右腕に美琴姉さんの柔らかくて細い腕を絡ませた。そして、そのまま玄関まで拉致されるオレ。
オレは美琴姉さんの車の助手席に乗りこむ。なぜ、助手席かって?まだオレは免許を取得していないのだ。だって、まだ高校三年生だからだ。誕生日が来れば車の免許を取得できる年齢になるが、大学受験を控えている。だから、大学受験がひと段落ついてから車の免許を取ろうと思っているのだ。まあ、大学に入学してからになるかもしれないが。
美琴姉さんの運転でオレたちは海に向かう。県内にも海はあるが、今日は県外の海に行こうということになった。なにやらオレたちが済む県の海よりも、とても綺麗な海があるそうなのだ。綺麗と言っても美琴姉さんほど綺麗ではないだろうとは思うけど。でも、二人だけで車という狭い空間で過ごすのはとても有意義なような気がした。
海じゃなくてもいいのだ。美琴姉さんと二人でいられるのなら。むしろ、海に着かなくてもいいかもしれない。このまま美琴姉さんと二人でいることができるのならば。
~♪~♪~♪
家から出て5分も経たないうちに、オレのスマホが鳴りだした。これは、LIMEの着信音だ。いったい誰から通話が来たのだろうか。オレはごそごそとスマホを取り出して確認する。
「……ゲッ。」
画面に映し出された名前にオレは思わず絶句する。
「誰からなの?出なくていいの?」
美琴姉さんが運転しながらも、器用にオレのスマホに視線を向けてきた。
「……マコト。」
「あら?マコトちゃんなの。なら、電話に出たらどうかしら?」
「でも……。」
「大丈夫よ。私は気にしないから。なんなら、マコトちゃんも海に誘ったら?」
「えっ!?」
「ふふっ。冗談よ。冗談。」
美琴姉さんの言葉は冗談に聞こえなかった。せっかく美琴姉さんと二人っきりで海でデートをするのにマコトも一緒というのは避けたい。いや、別にマコトのことが嫌いなわけではない。ただ、たまには美琴姉さんと二人っきりで楽しみたいのだ。
「ほら、出てあげて?」
美琴姉さんはオレに電話にでるように促しながらも、前を見て運転をしている。速度を緩める気配もないから、本当にマコトと一緒に行く気はないのだろう。もし、本当にマコトを誘うというのであれば、車を路肩に止めるはずだ。だって、マコトの家はオレたちの家のすぐ側なのだから。車を走らせていたら、マコトの家から離れていくばかりだし。
「うん……。あ、マコト、なに?」
『優斗ってば出るの遅いっ!!時間なくなっちゃうじゃん!』
電話に出るなり、マコトに怒られた。
「ごめんごめん。今から出かけるところだったんだよ。で、どうしたんだ?」
『えっ?優斗今日用事があるの?』
「ああ。ちょっとな。」
『そっかぁ~。残念。寧々子さんから海に連れてってくれるって連絡があったから優斗も誘おうと思って連絡したんだけど……。』
マコトの言葉にドキッとする。まさか、マコトと寧々子さんも海に行くとは思わなかったのだ。いや、でもまさか、同じ海に行くわけじゃないよな?海なんてあちこちにあるし。寧々子さんたちだったらきっと県内の近場の海だろう。オレたちと同じ県外の海にまで行くわけじゃないよな。
「優斗?電話終わったの?マコトちゃんなんだって?」
電話が終わったことに気が付いた美琴姉さんがオレに問いかけてくる。
「あー。うん。海に行かないかってお誘いだった。なんでも寧々子さんが車を出してくれるんだってさ。」
「今日?」
「うん。今日だって。でも、断ったよ。今日は美琴姉さんと海に行く予定だったし。」
「そう。寧々子はどこの海に行くのかきいた?」
「そこまでは聞かなかったよ。」
「たまには寧々子たちと一緒がよかったかしら?もし、そうなら寧々子に電話してみるわよ?」
「ううん。オレは、たまには美琴姉さんと二人だけがいいかな。」
「そう。よかった。私も優斗と二人っきりがよかったから。同じ気持ちで嬉しい。」
美琴姉さんもオレと同じ気持ちだったようだ。二人だけで海に行きたいと。よかった。美琴姉さんもオレと一緒に居たいと思ってくれていて。
「オレも、嬉しい。」
そうして、オレたちは寧々子さんに連絡することはなく予定通り県外にある海に向かったのだった。
続く。
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