第75話

 


 


「母さん。父さん起こしてきたよ。」


オレは父さんを起こして一回のリビングに連れて行った。


正直父さんを起こすのは簡単だ。


地震が来ても起きないような父さんだが、耳元で一言「美琴姉さんに彼氏ができたよ。」と囁けばいくら深い眠りについていようが一発で起きる。


もちろん今日もその方法を取らせてもらった。そのため、父さんの顔色は悪いがそれはしょうがないことだと諦める。


「あら、ありがとう優斗。」


母さんはにっこりと笑顔で振り向いた。その瞬間、父さんの顔が真っ青を通り越して真っ白になる。


「うふふ。旦那様、おはようございます。よく眠れましたか?」


「え・・・は、はい。」


父さん相手に敬語になる母さん。目を泳がせる父さん。


「では、旦那様にとっても良いお知らせを二つお知らせいたしますね。」


「いや・・・あの・・・仕事から帰って来てからじゃダメかな?」


「美琴と優斗のことです。旦那様。」


父さんは冷や汗をかきながら、母さんに対抗するがすっぱりと母さんに切り捨てられてしまった。


まあ、朝っぱらから嫌なことは聞きたくないのはわかる。オレも同意する。


ちなみに、美琴姉さんは朝食の用意をしていた。今はキャベツを千切りしているようだ。寧々子さんも帰らなかったようで、美琴姉さんの隣で泣きながら玉ねぎのみじん切りをしている。


キャベツの千切りと玉ねぎのみじん切り・・・今日の朝食の内容がまったくわからなくて不安になる。


「ふぁっ!?美琴ちゃんと優斗くんのことっ!?うぅ・・・聞きたくないけど、聞かないと仕事にならない気がする。」


父さんは母さんの話が美琴姉さんとオレのことだと知って焦っている。


「旦那様、聞きますよね?」


「ふぁい・・・。」


母さんがそう言い切ったので、父さんは頷くしかなかった。母は強しである。


「ふふっ。流石は旦那様ですわね。では朝食にしましょう。美琴、用意はできたかしら?」


「あと、目玉焼きを乗せるだけ。ちょっと待ってて。」


美琴姉さんはフライパンの中の目玉焼きを千切りキャベツが敷き詰められたお皿に乗せようとしているところだった。どうやら今日の朝食は千切りキャベツ添えのハムエッグらしい。


ん?じゃあ、寧々子さんはなんでみじん切りなんてしているんだろうか。


目玉焼きに合わせてオニオンスープでも作るのだろうか。でも、まだ玉ねぎをみじん切りしているってことはオニオンスープは間に合いそうにないし・・・。


疑問に思いながらも食卓に着く。


するとそこには既にオニオンスープが置かれていた。


あ、あれ?じゃあ、寧々子さんがみじん切りにしている玉ねぎは何に使うんだろうか。


疑問に思っていると、美琴姉さんが目玉焼き乗ったお皿を目の前に置いていく。


「トーストは自分で焼いてね。」


「うん。わかった。」


いつも通りオレは自分の分と美琴姉さんの分の5枚切りのトーストを焼く。母さんと父さんは朝は白米派なので、母さんがご飯をよそう。


準備が出来たところで皆揃って着席して朝食を食べ始めるのだが・・・。


オレたちは席に座ったが寧々子さんはまだ玉ねぎのみじん切りをしていた。


「あの・・・寧々子さんは?」


オレが思い切って母さんに尋ねると母さんはわざとらしくパンっと手を叩いた。


「そうだったわ。すっかり忘れてました。寧々子さん、もうよろしくてよ。」


「うぅ・・・。はぁい・・・。」


寧々子さんはそう言って涙に濡れた目で弱弱しく頷いた。


ってか、母さん。寧々子さんが一生懸命みじん切りにしていた玉ねぎは本当にどうする気なのだろうか。


「寧々子さんも座って朝食を一緒に食べて行ってくれるかしら?優斗の隣がいいわよね。美琴、優斗の隣の席を譲ってくれるかしら?」


母さんはそう言って、美琴姉さんに席を譲るように言ってくる。


いつもオレと美琴姉さんは並んで座っていた。その前に母さんと父さんが座っているのがいつもの食卓だ。


今日はオレと父さんの間に席のお誕生日関に食事が用意されていたので、そこに美琴姉さんが座ることになるだろう。つまり、寧々子さんは母さんの正面に座ることになる。


「えっと。私、空いてる席でいいですぅ~。」


寧々子さんは母さんの目の前の席になるのが抵抗あるのか、オレと父さんの席の斜めに位置する席を所望した。


「いいのよ。寧々子さんは優斗と結婚したいのでしょう?なら、遠慮することなく優斗の隣に座るといいわ。」


うを・・・。母さんったらこのタイミングで言う!?


父さん驚いて「ブッ」って息を吐きだしたんだけど。下手すると唾が食卓に飛ぶよ。


「ちょ、ちょっと母さん。何を言っているんだい。優斗クンが結婚するのはまだ早いじゃないか。」


父さんは慌てながら母さんに向かって言う。


だが、母さんはにっこり笑顔のままだ。


「優斗はね、その気はないらしいんだけど、寧々子さんが乗り気なのよ。ねえ、美琴?美琴は寧々子さんが義妹になることは反対かしら?」


ちょっと!!母さん今度は美琴姉さんに振るの!?


思わずオレは、真横にいる美琴姉さんの方に視線を向けた。


「ダメっ!優斗と結婚するのは私よ。寧々子じゃないわ。」


ちょ。ちょっと美琴姉さんいきなりなんてこと言うの!?


確かに母さんたちにオレたちの関係を言おうって話にはなったけど、今じゃないよね!?


見てよ。父さんってば完璧にカチカチに固まっちゃったじゃないか。


今日は平日なんだよ!?オレは夏休みだけど、母さんと父さんは仕事なのに。


 


 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る