第64話
「はぁ。寧々子さんと約束しちゃったし、今日はキャッティーニャオンラインにログインしないとなぁ・・・。」
「あら。寧々子と約束したの?」
「うん。不本意ながら。」
今現在、多数のプレイヤーからプレゼント攻撃の嵐を受けている最中である。
そのため、ほとぼりが冷めるまでキャッティーニャオンラインにはログインしないようにしようと思っていたのだが、寧々子さんに待ったをかけられてしまった。
まあ、ログアウトしていても他のプレイヤーからのプレゼントはどんどん溜まっていくのだからログインしなかったところで何かが変わるってわけではないのだけれども。
ただ、直接受け取らなくて良いというところが唯一のログインしないことに対するメリットだろう。
「ふふっ。悪だぬきのぬいぐるみいっぱい受け取ったのかしら?」
美琴姉さんが笑いながら問いかけてくる。
「・・・。オレの周りにプレイヤーが集まるのが慣れなくって。それに、プレゼント持ってやってくるんだよ。できれば、ほとぼりが冷めるまではログインしたくないと思ってたんだけど・・・。」
「そう。私の方にはあまり来ないんだけどな。」
美琴姉さんはそう言って小さく呟いた。
まあ、美琴姉さんは運営側ということもあって、ひっそりとキャッティーニャオンラインをプレイしている。
決して目立つことのないように他のプレイヤーに紛れ込みながらひっそりとプレイしているのだ。寧々子さんと違って。
だから、美琴姉さんのキャラであるミーシャさんの知名度ははっきり言ってあまり高くはない。
「美琴姉さん。オレ・・・今日、キャッティーニャオンラインにログインして、例え悪だぬきのぬいぐるみが100個溜まってようが、ミーシャさんとは別れる気なんてないから。」
「優斗・・・。でも、破局イベントが発生するのよ?」
「そんなイベント、オレは絶対乗り越えてみせるから。」
「ふふっ。ありがとう。優斗がそう言ってくれるあら心強いわ。」
「うん。この破局イベントを乗り越えることができれば、誰もオレたちの仲を引き裂けないようになるらしいんだ。」
そう。破局イベントを無事に乗り越えることができればミーシャさんとは別れなくてすむ。
そして、その仲は強固なものとなるのだ。
是非とも破局イベントを無事に乗り越えないと。
「でも、悪だぬきのぬいぐるみが100個集まった瞬間に破局イベントが発生するのかしら?それとも、悪だぬきのぬいぐるみを100個集めてしまったプレイヤーの恋人もキャッティーニャオンラインにログインしてないと破局イベントが発生しないのかしら。寧々子は何か言っていた?」
美琴姉さんに言われてハッとする。
てっきり、破局イベントは悪だぬきのぬいぐるみを100個集めたプレイヤーが対象になるのだと思っていたが、そのプレイヤーの恋人も対象になるかもしれないのか・・・。
寧々子さんは何も言っていなかったけど・・・。
寧々子さんはいったい何を狙っているのだろうか。
オレとミーシャさんを破局させたいだけならば、わざわざ全プレイヤーを巻き込んだ破局イベントなんて実装しなくてもよさそうなものなんだけど。
「あー、そうだ。寧々子さんに勉強を教えてもらったんだけど、ごめん。美琴姉さんがせっかく寧々子さんにお願いしてくれたのに・・・。オレ、まったく寧々子さんの説明がわからなかったんだ・・・。」
「えっ・・・。」
キャッティーニャオンラインのことも気になるけれども、寧々子さんと言えば今日は寧々子さんに勉強を見てもらったんだった。
美琴姉さんが寧々子さんに頼んでくれたのだから、その報告をしなければいけないことに気づいたのだ。
良い報告だったらよかったんだけれども、生憎、オレには寧々子さんの説明が全く理解できなかったのだ。
そのことを告げると、美琴姉さんは驚いて口をぽかんと開けた。
「・・・たぶん、頭のつくりそのものがオレと寧々子さんだと全く違うんだと思う。寧々子さんの説明はところどころ飛躍しすぎててよくわからなかったんだ。せっかく美琴姉さんがお膳立てしてくれたのに、ごめん。」
「あー、うん。そっか。そうだったわ。忘れてた。寧々子ってば頭良いのに何故か割の良い家庭教師のバイトをしてこなかったって言ってたから不思議に思ってたんだけど、そっか。そういうことか。」
「はい。そう言う事です。」
「んー、そっかそっか。まあ、仕方ないよね。じゃあ、マコトちゃんに教えてもらう?」
美琴姉さんは納得したように何度も頷いた。
でも、なんで美琴姉さんは教えてくれないんだろうか。
確かにマコトも頭がいいけどさ。
オレとしては美琴姉さんに教えてもらいたいのにな。
「えっと・・・。美琴姉さんは教えてくれないの?」
「えっ!?わ、私っ!?私はダメよ。私、優斗より成績悪いもの。教えることなんて出来ないわ。」
「そうかな?結構成績よかったって聞いているんだけど・・・。」
「うーん。成績が良かったのは数学だけで、後は全くダメだったのよ。」
「そうなんだ。でも、じゃあ数学を教えてくれるかな?」
「ふえっ!?」
数学以外ダメだったのはわかった。
でも、数学だけなら美琴姉さんでも教えてもらえることができるのではないだろか。そう思ってお願いしてみる。
すると、美琴姉さんは目を泳がせて動揺しだした。
「いや・・・。でも・・・。む、無理ぃ・・・。」
「どうして?」
「だ、だって・・・。教えられないんだもの。」
美琴姉さんは目に涙を浮かべながら、そう言ってくる。
教えられないというのはどうしてだろうか。
「だって。だって・・・皆、私のことおかしいっていうのよ。理解できないって言うのよ。」
「どういうこと?」
美琴姉さんがおかしいっていったいどういうことだろうか。
「す、数学は公式さえ覚えちゃえばいいから成績が良かっただけなのよ。他の学科と違って覚えることが少なくてすんだから・・・。」
「へ?」
どういうことだ?
公式を覚えちゃえば良いって・・・。
理解に苦しむ。
その公式をどう当てはめるかとか、どの公式を使えばいいかとかその辺が難しいのではないか。
それなのに公式を覚えちゃえば良いって・・・。
「ね、理解できないでしょ?うん。わかってる。みんなからそう言われるから。」
「こ、公式を覚えても応用しなきゃならなかったり、どの公式を使えばいいかわからなかったりしないの?」
「しないの。全く。全然。」
「あー、うん。」
「問題見るとひらめくのよ。ああ、この公式を使えばいいんだって。」
「う、うん。」
オレは問題見てもひらめかないけどね。
「だから、私教えるのには向いていないのよ。」
「そ、そうかもしれないね。ははは。」
うん。
美琴姉さんにきかなければよかった。
この人、寧々子さんとある意味同類かもしれない。
勉強のことは美琴姉さんに教えてもらうのを諦めてマコトに教えてもらおうかな。
それとも、父さんと母さんに言って、家庭教師をつけてもらうか、もしくは塾に通うか・・・。
今更かもしれないけど。
でも、進路も決まってないのに家庭教師をつけろとか、塾に通わせろだなんて言い辛いなぁ。
もしかしたら・・・ってか確実にオレはこの家の実子ではないのだから。
まあ、父さんも母さんもその辺は気にしなさそうだけれども。オレが気になるし。
「ひとまず、マコトに相談してみるよ。有難う。美琴姉さん。」
「どういたしまして。って、私なんの役にも立ってないよね。ごめんね。」
「そんなことないよ。ありがとう。美琴姉さん。」
「ん。」
☆☆☆
「はあ・・・。キャッティーニャオンラインにアクセスしないとなぁ。寧々子さんとの約束だもんなぁ。」
その夜、オレは憂鬱な気分でキャッティーニャオンラインにログインしたのだった。
美琴姉さんには破局イベントなんて乗り越えてみせると見栄を切ってしまったが、正直不安な気持ちもある。
だって、あの寧々子さんが組み込んだイベントなのだ。
通常では考えられない難易度のイベントの可能性も否定できない。
ま、まあ、他のプレイヤーがいるからそこまで難易度を上げてきてはいないとは思うのだけれども思わず手に汗を握ってしまう。
「えいっ!!ままよ!!」
オレは勢いのままプレゼント画面を確認した。
「・・・やっぱり。」
そこには受け取り拒否ができない大量の悪だぬきのぬいぐるみが届いていたのだった。
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