第39話

「さっ、優斗そろそろ帰ろうか。」


「・・・うん。」


結局意気地無しなオレは美琴姉さんに美琴姉さんはミーシャさんなの?とは聞けなかった。


もやもやとした思いのまま家路につくのだった。


「明日は、マコトちゃんだけが遊びに来るのかな?」


オレは美琴姉さんが運転するコンパクトカーに乗り込んだ。


美琴姉さんは大学の時に合宿で免許を取ったらしい。


実は、美琴姉さんの運転する車にはあまり乗ったことがない。


真っ白な車はまるで聖女のようなミーシャさんに似ている気がした。


「ううん。明日はもう一人、友達?が来ることになってるんだ。」


「へぇー。学校の友達かな?」


「うん。そう。」


「・・・男の子の友達?」


美琴姉さんは少し間をあけて、そう問いかけてきた。


いったいこの間はなんだろうか?


「違うよ。女の子。」


「・・・そう。マコトちゃんの友達なのかしら?」


どうして、女の子の友達だとマコトの友達ってことになるのだろうか。


というか、高城さんにはマコトの友達になってほしいけど。


「うーん。二人はあまり話したことがなかったと思う。」


「え!?じゃあ、優斗の友達なの?」


「うーん。オレもあまり話したことがないんだよね。」


「ええ!?なんで一緒に遊ぶことになってるの?」


美琴姉さんの驚いたような声が上がった。


「美琴姉さん!前!前見て運転して!!」


「あ、ごめん。つい。」


美琴さんは驚きすぎて車を運転しているのを忘れてしまったのではないかと思うほど、オレの方を凝視していた。


ってか、余所見運転危ないし。


オレは慌てて美琴姉さんに前を向くように促した。


「でも、その子どうしてうちに来るのかとっても気になるわ。」


「なんか、教室でマコトとキャッティーニャオンラインのことを話していたのを聞かれていたらしいんだ。それで、一緒にやろうって声をかけられて・・・。」


「優斗、その子、優斗のこと好きなんじゃないの?」


「ええええええっ!?高城さんがっ!?それはない!それはないよ!!」


美琴姉さんの問いかけにオレは驚いてブンブンブンッと首を横に振った。


ありえない。


高城さんがオレのことを好きだなんて、あり得ない。


絶対にあり得ない。


「ふぅ~ん。優斗のことだから無自覚に女の子に好かれてるような気がするんだけどな。その子・・・高城さんだっけ?高城さんに優斗なんかしたんじゃないの?」


「え?オレ、何もしてないよ。ただ、学校の廊下でぶつかっちゃって。高城さんが読んでいた本が床に落ちちゃったから拾ってあげただけ。」


「えっ?(あれ?エリアルちゃんが好きになった人との出会いのシチュエーションが一緒・・・?え?まさか、優斗?)」


「ははは、漫画見たいな出会いかただよな。普通、そんな真っ正面から思いっきりぶつかることなんてないよな。」


美琴姉さんはオレと高城さんが友達?になった経緯を聞いて驚いたように目を瞬かせた。


そりゃあ驚くのも無理はないだろう。


今時、真正面からぶつかるなんてことは故意じゃなきゃあり得ないと思うし。


普通、その前にぶつかるって気づくだろうな。まあ、オレは気がつかなかったけど。


「ねえ、優斗。その子って名前に対してコンプレックスもってたりする?」


「ん?」


なんで、そんなに突っ込んで聞いてくるのだろうか。


「うん。名前にコンプレックス持ってたよ。」


「で?優斗その子に名前のことなんか言ったの?」


「え、いや別に。名前なんかでその子の価値が変わるわけないし、からかってなんかいないよ。」


美琴姉さんはオレが、名前や相手のコンプレックスを刺激するようなからかい方をすると思っているのだろうか。


そんなことはオレはしない。


だって、オレはコンプレックスをからかわれてとても嫌な思いをしたんだから。


オレがコンプレックスをからかわれて嫌な思いをしたんだから、オレは誰かにそんな思いをさせたくはない。


「・・・そう。(きっとエリアルちゃんが、優斗の言う高城さんって子みたいね。)」


キャッティーニャオンラインの話題で盛り上がっていると、オレの家に到着してしまった。


美琴姉さんと会話をしているとあっという間に時間が過ぎてしまう。


美琴姉さんはうちの車庫に器用に車を停車させた。


駐車スペースが狭い駐車場なのによくバックえ停められるなと思わず美琴姉さんの運転する姿に見とれてしまった。


「ただいまー。」


「ただいま。」


美琴姉さんとオレはそう言って家の中に入った。


「お帰りなさい。美琴に優斗。引っ越し業者から荷物を預かっているわ。全部、美琴の部屋に運んでもらったから後で確認してちょうだい。」


母さんがそう言ってオレたちを出迎えてくれた。


引っ越し業者はもう来ていて荷物を入れた段ボールはすべて家の中に運び込まれていた。


美琴姉さんは引っ越しを見越してから独り暮らしをしていた部屋には家具という家具をおいていなかったから引っ越し業者も楽だったのだろう。


「ありがとう。ねえ、優斗荷物をほどくの手伝ってくれるかしら?」


「ん。いいよ。」


オレは美琴姉さんの後について二階に上がる。


そうして、オレの右隣の部屋に入った。ここが、美琴姉さんの部屋なのだ。


「引っ越しの荷物ってさ、段ボールに仕舞うのも大変だけど、段ボールから出す方が大変なんだよね。」


そう言いながら段ボールを一つずつ開けていくオレたち。


オレが手にした段ボールには本のようなものががいっぱい詰まっていた。


「美琴姉さん。これ本みたいだ。どこにしまったらいいかな?」


荷物は全て美琴姉さんのものなので、オレが勝手にしまうわけにはいかない。


美琴姉さんはオレが持っている箱に視線を移した。


「ああ、それはアルバムね。あっちの本棚の一番下の段にいれてくれるかしら。」


美琴姉さんはそう言ってドア付近にある本棚を指差した。


「わかった。・・・って!うわっ!!」


段ボールにぎっしりと詰まっているアルバムを取り出して本棚の方に向かおうとしたら床に置かれている段ボールに足を取られてしまった。


「優斗!?大丈夫!!」


「ってぇ!・・・だ、大丈夫。でも、アルバムが散らばっちゃった。ごめん。すぐ直すね。」


つまづいた表紙にアルバムを床にぶちまけてしまった。


写真が何枚かアルバムから落ちてしまっている。


ドジったなと思いながら散らばってしまった写真を拾う。


「・・・ん?」


そのとき、一枚の写真が目についた。


そこには小学生ぐらいの美琴姉さんと2歳くらいのオレがいた。


そこまでは普通のなんの変鉄もない幸せな姉弟の写真だったんだ。


写真に書いてある一文を見るまでは・・・。




ーーー初めて優斗君がうちに来た記念にーーー





写真にはそう書かれていたのだった。

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