第27話
「なぁんだ。驚いたわ。エリアルさんの冗談だったんですね。」
「ふふ。エンディミオン様の驚いた顔がとっても面白かったわ。それに、私、好きな方がいるんです。現実の方でですけれども。」
「まあ!そうなんだ。」
「ええ。だから、エンディミオン様のことは好ましいと思っておりますが、実際の恋人にしたいとは思っていないので安心してください。」
オレがエリアルちゃんのお店のドアを開けようとすると中からミーシャさんとエリアルちゃんの話し声が聞こえてきた。
中に入ろうとしたが、どうやらエリアルちゃんとミーシャさんとで話が弾んでいるようなので安心する。
どうやら修羅場にはならなかったようだ。よかった。
・・・この分だとオレは中に入らなくても大丈夫そうだな。
「それで?エリアルさんが好きな方というのはどういう人なの?」
「優しい人です・・・。今日、学校でぶつかった人なんですけど、こんな私にも普通に接してくれて・・・。」
「普通に接してくれるという人は貴重だよね。」
「はい。ぶつかったことに対して謝ってくれましたし、落としてしまった本も拾ってくれました。私、名前と容姿にコンプレックスがあるんですけど、そのことでも優しく接してくれて・・・。」
「それで、好きになってしまったのね。」
「・・・はい。だからエンディミオン様のことは安心してください。疑似恋愛を楽しんでいるだけだから。」
ん?エリアルちゃんの言葉でオレは今日のことを思い出す。
そう言えば今日、オレも学校で高城さんにぶつかったな・・・。
高城さんも容姿と名前にコンプレックスがあるみたいだし・・・。
まさか、エリアルちゃんって高城さん?
いやいやいや。
オレちょっと考えすぎだよね。
高城さんがエリアルちゃんな訳ないって。
それに、高城さんってゲームには興味ありません。って顔してるし。
エリアルちゃんの言う学校だってエリアルちゃんの見た目からすると高校ではなくて、小学校か中学校という可能性の方が高いもんな。
いやあ、偶然ってあるもんなんだな。
オレは、恋バナを繰り広げているミーシャさんとエリアルちゃんに悟られないようにそっとエリアルちゃんのお店の前から移動をした。
そうして、マコッチと別れた場所に戻る。
まあ、いつマコッチが帰ってくるかもわからないけれども。
ここでミーシャさんのことも待たないといけないしね。
でも、ただ待っているのも暇だし。
ゴミでも拾うか・・・。ってゴミは全部エリアルちゃんが拾ってしまっていたんだった。
じゃあ、何をしようかなと辺りを見回していると、一匹の犬が辺りを見回しながら「くぅーん。くぅーん。」と鳴いていた。
キョロキョロと頭を動かしている犬を見てオレは首を傾げる。
このゲーム内では犬は放し飼いなのだろうか。
それとも、もしかして野犬が普通にいるのだろうか?
ただ、犬の様子を見るとあきらかに困ったというような感じに見える。
オレは犬が怖がらないようにそっと犬に近づいた。
えっと・・・。
お茶犬だろうか。
犬の体毛は緑色をしていた。
生きている犬で緑色をした犬は見たことがない。
やはりこれもゲームの中だからあり得ない色ということだろうか。
ジッと見る限り、染めた色というわけでもなさそうだし。きっと地毛だろう。
「どうしたんだ。お前。こっちにおいで。」
犬の視線と同じ高さになるように腰を落として犬に向かって声をかける。
すると、オレが呼んでいるということがわかったのか、緑色の犬はこちらを見た。
そうして「わんっ!」と嬉しそうに一声鳴いて、オレの方に走ってきた。
「うわっ!?」
犬は走ってきた勢いのままオレに飛びつく。
そうして、顔をペロペロと舐めてくる。
なんか、えらく歓迎されているような気がするんだけど、オレなんかしたか?
疑問に思っていると、
ピロンッ
という電子音が頭の中に響いた。
「迷子の犬です。飼い主を探しますか?」
という問いかけが頭の中に響き渡る。
どうやら運営側が用意したクエストのようだ。
飼い主を探すか探さないか選べるようだけれども、迷子の犬を放っておけるはずもなくここの選択肢は飼い主を探すの一択だ。
すぐさま飼い主を探すを選択すると、追加の情報が流れてきた。
【飼い主は女性です。】
うん。どうやら飼い主は女性のようだ。
しかし、女性というだけならば特定するのは不可能だろう。
【飼い主は銀髪です。】
銀髪の女性か・・・。
そう言えばギルドに一人銀髪の女性がいたな。
分厚い眼鏡をかけていたけど、もしかして彼女か?
その他に銀髪の女性はこのゲームでは見かけていないけれど・・・。
もしかして、クエスト独自のキャラなんだろうか。
そうすると今まで会っていない可能性もある。
だが、まずはギルドに行ってみるか。
ダメだったら聞き込みをしてみよう。
そう思ってオレはエリアルちゃんとミーシャさんに犬を探すクエストを受注した旨のメッセージを送った。
二人の恋バナに巻き込まれたくないしね。
そうしてオレはひとまずギルドに向かって足を進めるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます