第17話

ニャーネルさんに会うのはやめて、オレは普通に空いている方の受付に並ぶ。


しばらくしてオレの番がきた。


「あの、シャワールームを使用させていただいたのでお代を払いにきました。」


ガタンッ。


ん?


なにやら隣の受付の方で何かがぶつかるような物音がした。


ニャーネルさんだろうか・・・?


「あ、ギルマスから聞いてます。えっと300ニャールドになります。見たところギルドに登録されていないようですが、これを気にギルドに登録されますか?登録されるとシャワールームが150ニャールドで使用できるようになります。」


隣の受け付けで物音がしたのにも関わらず、受け付けのお姉さんはにこやかに微笑みながらギルドへの勧誘をしてきた。


ふむ。


どうやら仕事に忠実のようだ。


「ギルドに登録するには職業についていなければダメなんじゃなかったでしたっけ?」


たしか、初めてギルドに来たときにそう聞いたような気がする。


「そうですね。ですが、この世界で職業についていない人はおりません。そのため、誰でもギルドに登録することができます。」


にっこり笑ってお姉さんは言った。


あ、あれ?


やっぱり無職なんてあり得ないってことか?


「えっと、オレ、無職なんだけど・・・。」


「ええっ!?そ、そんなはずは!!」


ガタタタタタンッ。


受け付けのお姉さんが驚くのと同時に隣のニャーネルさんがいる方の受付から大きな物音が響いてきた。


それと同時に野太い声で「ニャーネルさんっ!!」「大丈夫ですかっ!?」という声まで聞こえてくる。


どうやらニャーネルさんが何かしたようだ。


「ステータスを見せていただけますか?」


このお姉さんはニャーネルさんが心配にならないのだろうか。それとも、仕事を優先しているだけなのだろうか。


「あの・・・。先程から隣の方から物音がするんですが、大丈夫なんでしょうか?」


「大丈夫です。気になさらずに。では、ステータスを見せていただけますか?」


お姉さんは良い笑顔でそう言ってきた。


これ以上オレからなにか言うわけにもいかず、ステータス画面を受け付けのお姉さんに見せる。


「あら。本当に無職なんですね・・・。これは、ギルマスに報告しなければなりませんねぇ・・・。」


「ひぇっ・・・。」


ガッターーーーーンッ。


「あの、今、隣から悲鳴とものすごい音が・・・。」


「気のせいですわ。」


なんだか隣の受付が騒がしいが、受け付けのお姉さんはにっこり笑って否定した。


気のせいにしては、ちょっといや、かなり大きな物音だったんだけどな。


しかもなんか騒がしいし。


「すみませんが、ギルマスに連絡いたしますので少々こちらでお待ちください。」


「あ、はい。」


オレは受け付けの横に少しずれる。


どうやらギルマスのガーランドさんが来てくれるらしい。


そう言えばさっき話を聞きたいとか言ってたしな。


オレはおとなしく受け付けの脇で待つことにした。





☆☆☆



「おう。待たせたな。」


しばらくしてガーランドさんが受付にやってきた。


「先程はありがとうございました。」


ガーランドさんにはシャワールームに案内してもらったので、改めてお礼を告げる。


「おう。気にするな。臭いはちゃんとにとれたようだな。」


「はい。お陰さまで。」


ガーランドさんは鼻をヒクヒクさせて辺りの臭いを嗅いだようだ。


そこに先程の強烈な臭いが残っていないことを確かめてにっこりと笑った。


「シャワールームの使い方を説明していなかったんだが、問題なく使えたか?」


「ええ。親切な女性が教えてくれたので大丈夫でした。」


「ひぇぇぇぇええっ・・・。」


ドタッ。


また、隣の受け付けで悲鳴と物音が。


いったい隣の受け付けでは何をしているのだろうか。


「あの・・・。先程から隣から悲鳴と物音が聞こえるんですが・・・。」


ガーランドさんにそう訴えかけてみる。


「ん?あ、ああ。まあ、気にするな。」


だが、気にしないようにと言われて終わってしまった。


いや、とっても気になるんですが・・・。


もしかして、ニャーネルさんてゲテモノとか苦手で、冒険者がそれを持ち込んで悲鳴をあげているとかじゃないよな?


「まあ、心配するな。あれは、自業自得というやつだからな。それより職業のことを聞いた。話がしたいので、上の個室に来てくれないか?」


「え?あ、ちょっと待ってください。その話、長引きますか?」


「ん。そうだな詳しく聞きたいからな・・・。」


エリアルちゃんとミーシャさんにシャワーを浴びたらもう一度エリアルちゃんのお店に戻るっていってしまったんだった。


30分もガーランドさんの話を聞いていたら二人とも心配するだろう。


「えっと、少し待ってもらってもいいですか?実はエリアルちゃんとミーシャさんという方にすぐ戻ると言って出てきたので・・・。」


「あ、ああ。そうだったか。エリアル様との約束を反故するのはまずいな。うん。非常にまずいな。」


オレがエリアルちゃんの名前を出したら、とたんにガーランドさんの顔が青くなった。


ガーランドさん。エリアルちゃんに何をしたのだろうか。


「なので、一旦二人に知らせに行きたいんですが・・・。」


「な、なあ。ちょっと聞くが・・・いや、そんなことはないとは思うが・・・。」


「はい?」


なんだかガーランドさんが言いにくそうに言葉を口にだす。


「ちゃんづけで呼んでるから、まさかと思って聞くんだが・・・エリアル様と友達登録あんてしてないよな?」


「えっ。友達ですけど・・・まずかったですか?」


ガーランドさんの言葉に不安になって聞き返した。


まさか、友達登録してはいけない人がいるなんて思っても見なかった。


オレのその言葉をきいた瞬間、気のせいかギルドの中から音が消えたような気がした。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る