第16話
オレは着ていた服を脱いでから気がついた。
替えの服がないことに。
あー、せっかくシャワー浴びてもまたこの服を着るんじゃ意味ないよな。
先に服を買ってくればよかった。
って、そもそもこの臭いじゃ門前払いかな。
さて、どうしたものか。
やっぱり一度服を着て、事情を話して服を買ってくるか。
そう思ってオレはシャワーを浴びる前に、一度脱いだ服をまた着ることにした。
そして、シャワールームを出る。
「うわっ!?」
「きゃっ!!くさっ!!」
シャワールームを出た瞬間に人とぶつかってしまったようだ。
甲高い声が聞こえてきた。
「す、すみません。前方不注意でした。」
「あ、私も前を見ていなかったから。それにしても、あなたシャワーを浴びたのにくっさいですね。」
目の前に立っていたのは、銀髪眼鏡の胸が大きい少女だった。
眼鏡から覗く丸く大きな瞳がとても印象的だった。
「あ、いや。シャワーを浴びようと思ったんだけど、着替えを忘れたからシャワーを浴びる前に買いにいこうと思って。」
「あれ?あなたギルドのシャワーを使うのは初めてですか?」
オレが着替えがないと告げると、少女は不思議そうに首を傾げた。
「あ、はい。初めてです。」
「そうですか。では、私がシャワーの使い方を説明します。男女兼用のシャワールームてすので、裸になられても困りますので。」
「え?あ、ああ。ありがとうございます。」
男女兼用のシャワールーム?
そう言えば確かに入り口に男性用とも女性用とも記載がなかった。
男女兼用のシャワールームだったからなのか。
いや、でもそれならそれで男女兼用って書いてないとまずいような気がするが………。
「では、私に着いてきてください。」
少女はそう言うとシャワールームに入って行った。
オレはそれを慌てて追いかけた。
少女は個室の一つに入った。
そこからオレに手招きをしている。
ん?
あそこに行けってことか?
シャワールームの使い方を教えてくれるってことだから、そういうことだよな。
オレはいそいそと少女の元に向かう。
決して邪な心を持って近づいた訳ではないことを記す。
「こっちです。こっち。」
「あ、はい。」
「シャワールームに入ったら入り口の右側にあるこの赤いボタンを押してください。お湯が出てきて身体が綺麗になります。隣の青いボタンを押すと水がでてきますのでご注意ください。」
「は、はい。」
どうやらボタンを押すだけでシャワーが使えるようだ。
温度設定などはないのだろう。その辺の説明はなかった。
「以上です。では、私がお手本としてシャワーを浴びますね。」
「は?」
少女は何気なく言って赤いボタンを押した。
オレは思わず間抜けな声が出てしまった。
だって、彼女服を着たままなんだから。
「え?脱がないんですか?」
「え?」
思わず服を脱がないのかと素で聞いてしまった。
すると少女の顔が驚きに彩られる。
そうして、耳まで真っ赤にするとこちらを睨んできた。
「へ、変態っ!!」
目に涙まで浮かべている。
いや、確かに女の子に服を脱げなんて言ってしまったことは確かにオレが悪いけれども。
でも、シャワーを浴びるのに服を脱がないでそのままだなんて聞いたことがない。
「す、すみません。」
「服は脱がなくていいんです!服を着たままで赤いボタンを押すと服も身体も綺麗になります。そういう、仕様なんです!決して手抜きとかバグではありません!全年齢対象のゲームなんでそうなってるんです!」
少女は顔を真っ赤にしながら一気にそう叫ぶように言いきった。
「あっ!すみません。」
そうだった。
いくらリアルなように見えてもここはゲームの世界なんだった。
それでオレはそのゲームをプレイしていたんだった。
そっか。
このゲームのシャワーは服ごと入ってボタンを押せばすべて綺麗になるんだな。
理解した。
それにしても、「仕様です!」って、この少女このゲームの開発者か?
「わかっなら、そちらの個室でさっさとシャワーを浴びてください!」
「は、はいっ!」
照れているからか、それともオレが変態発言をしてしまったからか、少女の口調はきつかった。
オレは少女に言われるまま隣のシャワールームで赤いボタンを押した。
すると個室内に霧のようなものが立ち込めてきた。
「うを!!」
思わず驚いて声を出してしまった。
というか、こんなに霧が出てくるんだったら別に裸でもわからないのではないだろうか。
霧はオレの身体を一分ほど包み込んだ。その後、次第に霧が晴れていく。
霧が晴れると、自分の身体がお風呂に入ったかのようにさっぱりとしていることに気づいた。
それに、さっきまでしていた強烈な臭いも消えている。
「すげー。さすがゲーム。」
あっという間に綺麗になったことに驚いてからシャワールームを出た。
そして、先程の少女にお礼を言おうとしたが、すでにシャワールームには少女の姿はなかった。
「あれ?どこにいったんだろう?」
そう思って10個ほどあるシャワールームの個室を一個一個確認したがどこにもいなかった。
どうやら、先に出ていってしまったようだ。
オレはさっぱりとした身体でシャワールームを後にし、ギルドの受付に向かう。
ギルドマスターのガーランドさんに受付に行くように言われたからだ。
それにまだシャワールームのお金も払っていないし。
「………さっきより人が増えた?」
シャワールームを出て受付に向かうと先程よりも長い列がそこに出来ていた。
しかも受付が2つあるにもかかわらず、片方だけが異様に混んでいる。
気になるが、時間が惜しいので隣の空いている列にならんだ。
こっちの列は主に女性の冒険者が並んでいた。
もしかして、男女別に並ばなければいけないのだろうか。
オレは目の前に並んでいる女性に声をかけた。
「すみません。こっちの列の方が空いてたけらこっちに並んじゃったんですけど、この列に女性しか並んでいないのが気になって。この列って女性専用の列ですか?」
女性は声をかけられたことに驚いたのか、目を丸くした。
あ、この女性もやっぱり綺麗で可愛らしい。
「あなたこのギルドは初めて?」
「は、はい。」
「あっちの受付にはね、ニャーネルさんがいるのよ。男どもはニャーネルさんと会話がしたいがためにあっちに並んでいるのよ。この列に女性しかいないのはそういう訳。別に男性がこちらに並んでいたって問題はないわよ。」
女性はそう言って丁寧に教えてくれた。
そうか、そのニャーネルさんという人が男性に人気があるから、このような状態になっているのか。
そう思ってチラリと隣の受付にいるというニャーネルさんの姿を探すが、男どもがむらがっているのが見えるだけで肝心のニャーネルさんらしき人の姿はわからなかった。
ちょっと見てみたい気はするけれども、オレにはミーニャさんがいるからな。
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