#03 夢に見ること
親愛なるきみへ。
こんにちは。
最近、森では暖かい日が増えてきました。
冬のあいだ眠っていた動物たちも久しぶりに姿を見せて、訪れる鳥も増え、庭は賑やかです。
嬉しくて、眠っているのがもったいないくらい。
だから、最近のぼくはいつもより早起きです。
きみはどうですか?
朝、ゆっくり過ごしていますか。
それとも、できるかぎり眠っていたい?
このあいだ森に来たのは、眠るのが好きな女の子でした。
**
その子は、森の木陰で眠っていた。
おおきなリュックサックを枕にして、あまりにも気持ちよさそうで、このまま寝かせてあげたほうがいいのかなって迷った。
だけど、もうすぐ天気が崩れそうだから、声をかけたんだ。それがぼくたちの出会い。
「わたしはフローレンス。フロウでいい」
フロウの髪は、寝癖でぐるぐる。
好きなお茶はカモミール。
リュックの中身は、おおきな枕。
彼女はときどき森に来て、庭や屋敷のあちこちで眠って過ごす。
お気に入りは日当たりのいいサンルーム。
陽が落ちると、すぐに分かるから。
夜になれば家に帰っていくけれど、すごく名残惜しそうにする。休日、たまに泊っていく日もあるよ。それで、滞在するほとんどの時間は眠って過ごす。
普段眠れないのかと聞いたけど、そうでもないらしいんだ。でも、ここでなら、眠りたいだけ眠れるから。
目覚まし時計も、電話も、訪問営業もない。
お母さんの小言も、兄弟のはしゃぐ声もない。
夢の結末を見届けるまで目を覚ます必要はない。
「現実がイヤってわけじゃないんだけどさー。
いい夢を見るの、いつも。
目を覚ましたくない……。
このまま埋葬してほしいくらい。そしたら私は、ずっと夢のなかで暮らせるのかも……」
「そんなことできないよ。
でも、眠ってるフロウはいつも楽しそう。
ぼくもフロウの見る夢を見てみたいな」
そう言うと、フロウは嬉しそうに笑った。
ちょっと得意なかんじ。フロウは、自分が見る夢のことをとても気に入っているみたい。
フロウがくると、ぼくもたまに一緒にお昼寝をする。フロウの見る夢に遊びにいけたらいいのになって思うけど、成功したことはないと思う。
木陰の下で。芝生の上で。
日当たりのいいサンルームで。木の匂いのする鳥篭の部屋で。暖かい暖炉の前で。カーテン越しの日差しを受けて。
床で。ソファで。もちろん、ベッドでも。
いろんな場所で、夢を見た。
はっきり覚えていることは少ないけど、なんだか楽しい夢ばかり。
「ここにいると、すごく……夢がはっきりする。
街や家で眠るときとは違う。
小さい頃は、もっとこんなふうに嬉しい夢をいっぱい見ていたと思う。ほかになにも考えることはなくて……夢中でいられたんだと思うな……とても懐かしい」
「どんな夢をみるの?」
「それはね――」
フロウは内緒話を囁くみたいに、ぼくに教えてくれた。
「空を飛ぶ夢」
***
……もう眠くなっちゃった。
早起きしたからかな?
この手紙はここまでにするね。
フロウの分けてくれたカモミールはとても優しい味がして、よく眠れるんだ。
最近のぼくのお気に入り。
きみもよく眠れますように。
夢を見るとしたら、楽しい夢でありますように。
その話をいつか聞けたらいいな。
それじゃあ、また手紙を書くよ。
そうだ。
今夜、夢で会えたら嬉しいね。
ルクレイ
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