くっころ大魔王
ガリュー
くっ…ころせッ…!
暗雲立ち込める森の奥
そこに魔王城は存在する。
「…そんな、ばかな…!」
地面に剣を突き立て跪く女騎士。
それを見下ろす魔王と呼ばれた黒衣の男。
女騎士の後ろには率いてきた大勢の兵士たちが
足を天に向け
まるで収穫を待つ根菜のように地面に埋まっていた。
もはや助けは誰も来ない―—
風化した石のように砕ける鋼の剣
女騎士の着ている鎧はすでにその機能を果たしておらず
露出した肌面積の多いこと多いこと
「—くっ…」
女騎士の悔しさ交じりのその呟きを聞き逃さない魔王
―— き た か ――
思わず口元がにやけてしまう
駄目だ、まだ狂喜狂乱の時ではない
笑うのはこの女騎士の次の言葉を聞いてからだ―—
「…こっ…」
―—きたきたきたきた――
手で口元を隠す魔王
もはやそのにやけ顔を冷静に制御できなくなっているのだ!
ようやく、そうようやく…
―—その時がやってきたのだ!!
「…こ、降参だ…」
「ちッがァアあああああああああああああう!!!!!!」
突然叫び散らす魔王に恐れおののく女騎士。
ヴぇちゃりと膝をついて両手を地につける魔王。
がっくりと頭をうなだれたその姿に彼女は困惑する。
「…さ、魔王様。帰りますよ」
スっと魔王の肩に手を添えて執事が声をかける。
「ああ…おいたわしや魔王しゃま…!
こんなメス豚に期待したのがそもそも間違いだったのです…!」
魔王の傍にさささと駆け寄るメイド。
呆然としている女騎士をジト目で睨みつけ
「いつまでそこにいるつもり?
お前はもう用済みだから失せなさい」
「…え?」
用済み?いったい何を言っているのだ?
てっきり殺されるかと思っていた女騎士だったが
状況がよく理解できていない様子。
「…なにがいけなかったというのだ…!」
額に汗を浮かべて拳を握り締める魔王―—
――時を遡ること数刻前——
途中までの流れは完璧だったはずだ。
魔王討伐に現れた女騎士率いる兵士達。
とりあえず野郎に用はないので
魔力を込めた指先で爆散させ、兵士どもを根菜にしてやった。
一人残された女騎士は果敢にも魔王に斬りかかってくる。
―—いいぞ!!
この時、あまりの恐怖に逃げてしまうようなら
『くっころ属性』はそのものにはない。
そう、くっころには強さを持った戦う女が必要なのだ!
ここで魔王は仕上げに取り掛かる。
相手の戦意を適度に削ぎ落とし
「くっ!」と「ころせッ!」というワードを引き出さなくてはいけない。
ある程度戦闘ができない状態まで攻撃を加えなければならないのだが
ここで重要なのは火力が強すぎると相手が気を失ってしまう。
そんなんじゃもう、くっころになんない!!
ああー!そうそう!
女騎士の格好もガッチリ鎧でおおわれているので
あられもない姿に持っていくことも忘れてはいけない。
これによりくっころ力が増す!!
『はあああああああああああ!!』
女騎士が渾身の力で剣を振りおろす!
それを片手で摘み取る魔王。
『ばかなッ!?』
自らの剣技を軽く防がれ絶望する女騎士。
その際、女騎士の長髪が魔王の鼻にふぁさぁあっとかかり
『ぶぇえっくしょォオイ!!』
くしゃみではじけ飛ぶ女騎士の鎧。
その剣には魔王の鼻水が思いっきりかかり
じゅわじゅわと煙を立てて腐りだす。
ぼろ雑巾のように吹き飛ばされた女騎士は悟る
―—こんなの勝てるわけがない―—
魔王は叫んだ。天を仰ぎ、両手を広げて―—
「何がいけなかったというのだァア!?」
「鼻水をぶちまけたからでしょうね」
冷静に答える魔王の執事。
魔王はちょっと鼻炎持ちだった。
「はい、魔王しゃま。鼻紙です、チーンして下さい」
すかさず魔王の鼻もとに紙を差し出すメイド。
ありがと。
「——撤収するぞ」
鼻をかみ終えた我らが魔王は
威厳たっぷりの声で執事とメイドに何事もなかったかのように言い放つ。
「「はッ」」
二人はそれに答えて魔王とともに闇の中へ消えた…。
「…な、なんだったの…」
唖然とする女騎士。
すると今まで魔王の城にいたはずだったのだが
気が付くとそこはただの木造二階建ての小屋になっていた―—
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