生活保護者は幸せな老後の夢を見るか 第4話

「あのね、11地区はね、要するにね、駅の南なのよ! ぷしゅう」


なぜか声の高いオークが説明する。

なぜそんなに声が高い。

もしかしてオークハイとかに進化して、声もハイになったのだろうか。

くそ、自分で考えたのに、とてもくだらん考えで、すこしイライラする。

いや違う、このイライラは、自分の思慮に対するイライラではなく、狭い軽バンに、オークと2人で乗っていることからくるイライラだ。

きっとそうだ。

そういうことにしよう。


「それにしても、車、ボロいですねぇ・・・今時、ミッションですか?」


どうもオーク相手には、口調が軽くなる。

つまりオークという人物を軽く見てる他ならない。

ふっふっふ。

・・・人ではないか。


「ぷしゅう。入札だからね。オートマにすると高くなるからね」

「・・・管財課がオートマにさせてくれないということですか?」

「そうみたいよ。ぷしゅう。市役所だからね。税金だからね。少しでも安くすませようとするのさ。ぷしゅう」


税金か・・・お前はぜい肉を削れと言いかけてが、今から仕事を教わる相手。

自重しよう。


「・・・さすが、公務員・・・しかし、買い替えの時期じゃないっすか?」


明らかにボロボロの軽自動車のバン。

ギアチェンジのときに、がりがり聞こえるのが気になる。

クラッチ盤大丈夫か?


「いろんな人がのるからね。クラッチがすぐにいかれるのよ! ぷしゅう」


お前、オークのくせに、私の思考を読んだか?

やはり、ただのオークではないかもしれない。


「ところで、イタコちゃん、ミッション大丈夫? ぷしゅう」

「あ、はい、大丈夫っす」


しまった、イタコと呼ばれたのをスルーしてしまった。

ま、車に2人だからいいか。


「よかった。トグサ、オートマしか乗れないから、困っててね」

「・・・えぇ」


何がどう困っているのかさっぱりわからなないが、とりあえず民間の営業経験者としては、相槌を打っておくことにする。

トグサ、オートマ限定なのか・・・。タチコマは自動運転みたいなものだから、ミッションみたいな旧式は乗れないのかな?

車は市役所から、駅へ向かい、駅前を南に折れ、線路と並走しながら、そのまま南下。

いわゆる港湾地区と私が認識しているゾーンへ向かう。

実は通勤路だ。

私の住んでいる地区は、港湾地区を更に南に行った地区だ。

駅の南に港湾機能や工場が立地する場所があり、すなわち、海に近いのだが、その部分を抜けて更に南に住んでいる。

車は私の通勤路を走る。

このまま家に帰ってもよいぞ。

などとくだらないことを思う。

車は駅を抜け、港湾地区へ。

そして、白い巨大なビルの前に路駐する。

ん? 先日、白い巨塔と呼ばれていたビルなのか?

あれは、ナッパの担当地区だったと記憶しているが。

港湾地区というか、工場地区というか、そういう地区なので、道路も広く、駐車禁止ではないのだろう。

オークが、丸っこい指で、白い巨大なビルを指さす。


「あそこが、陸奥改良住宅。別名、九龍城」

「九龍城・・・」


踵のない獣人を、巫術で倒さないといけないのだろうか。

やばい、そのスキル、ゲットしていない。

車を降りて白いビルを見上げる。

工場地帯特有の巨大な何かを打ち付けるような音がする。

頭に焼き付いているシーンと、見ている方向は違うが、九龍城という呼称よりも、巨大人型決戦兵器に乗る少女が住んでいる場所のほうが、イメージとしてはぴったりのような気がした。

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