お砂糖令嬢は監獄の夢を見るか?

@takimari1005

プロローグ

公爵家の令嬢を、平民が突き飛ばした。

その事実だけで野次馬はこちらに視線を向け、ざわつき始める。



「ふざけないで!!」



私は目の前の女性になにかしてしまったのだろうか。今日は長かった休みが明けて、念願だった寮生活が始まるというのに。突き飛ばされた私を庇うように従者が前に出る。


私の従者に睨まれても彼女は叫び続けた。



「全部知ってるのよ!イーサン様を陥れようとしているんでしょう!?貴方さえいなければ、国が滅ぶこともなかったのに!なにが大災害の予言よ……!貴方が黒幕のくせに!」



周りのどよめきが強くなる。私が黒幕だと泣き叫ぶ見知らぬ彼女に対して、従者のアランが珍しく怒りを顕にしながら何かを言っているが頭に入ってこない。視界の隅で、助けに入ろうとしたのかイーサンが腕を伸ばしたまま驚いた顔で動きを止めているのが見えた。



ああ。嫌な親から解放されて、素敵な寮生活がはじまって友達もたくさん作る予定だったのに。野次馬たちの目の前の平民の女性を非難する声は、たちまち私への疑念の声に変わる。


立ち上がり、制服のスカートの埃を払って女性に向き合った。


「……黙りなさい」


「主人を突き飛ばした挙句、みっともなく吠えるだなんて。野犬でももう少し賢い振る舞いをしてくださるわよ」



私の一声に、あれだけ騒がしかった周囲が静まり返る。野次馬からまるで私に怯えているかのような小さな声が聞こえた。突き飛ばされたのは私なのに、まるで私が加害者のようだ。



…………窘めるつもりで放った一言は彼女が言う通りなんとも黒幕のようだったらしく、このあと私は学園で有名な悪役令嬢となってしまった。原作の乙女ゲームには悪役令嬢なんて登場しないのに、こんなことをしている場合ではないのに。




10日ほど前、前世を思い出したことが全ての始まりだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る