第133話 書籍発売日10/20 美麗①
「
「ご、ごめんごめん」
琴葉とのデートが終わり、次は美麗の番となった。
時間は20時過ぎになり、人の多さも盛り上がりも一段と大きくなっている。
そんな中、細い腕を組んでほんのり不機嫌そうにしている彼女は、眉間にシワを寄せながら蒼太を睨んでいた。
「二人きりで遊ぶ的なのはあたしの案なのに」
「すみませんでした」
「ホント反省してんの?」
「反省してます」
管理人と入居者の立場とは思えないやり取りだろうが、謝るのは至極当然のこと。
「ふーん。なら遅れた罰としてこれからそーたがエスコートして。それで許してあげるから」
素っ気ない態度で『罰』と伝える美麗だが、ここには思いやりの気持ちが込められていることに蒼太は気づいている。
共に生活をしてきているからこそ、簡単にわかるのだ。
「本当優しいよね、美麗は」
「……はあ? なにがどうなってそう言ってんの?」
「俺に場所を委ねるのは小雪さんと足を運んだところと、琴葉と足を運んだところを被らせないようにするためでしょ? 美麗が連れていった場所が二人のいったところと被ったら俺が楽しめない、的な問題で」
「……」
「違う?」
「ふんっ、知らないしそんなの」
「あははっ、図星と」
「う、うっさい。わかってるなら言わなくていいでしょ。マジで」
ほんのりと頬を赤に染めながら鼻を鳴らしてソッポ向いた美麗。これほどわかりやすい反応はないだろう。
そして、これ以上からかえばパンチが飛んでくるだろう。微笑ましくなった気持ちを抑える蒼太は表情を戻した。
「……んで、どこにするのよ。あたしと二人きりでいく場所。時間ももったいないから早く決めて」
「じゃあ最初に話したお化け屋敷で」
「……は?」
途端だった。目を丸くした美麗は呆気に取られたうようにポカンとした。
「それ待ってよ。そーた苦手って言ってたじゃん。お化け屋敷」
「美麗は苦手じゃないんでしょ?」
「っ! そ、それはもちろんそうだけど? お化けなんか全然怖くないし。お化け屋敷とか言っても人間がただ驚かしてくるだけじゃん」
少し慌て、一度噛み、次に自分を諭すような口ぶりになった彼女。
強がっているのは美麗を知らない人でも察することができるだろう。
吹き出しそうな笑みを堪えながら再び誘う。
「じゃあいこっか」
この時、少しばかり悪戯心が出ていたのかもしれない。
「ほ、本気で言ってんの? そーた苦手って言ってたじゃん」
二度目のセリフである。
「確かに苦手だけど楽しめるアトラクションではあるしね。いい思い出作りにもなるし。って、おや? 実は怖いとか言う美麗じゃないよね?」
「あ、当たり前じゃん! 強がる意味もないし」
「じゃあいこ? お化け屋敷は小雪さんとも琴葉ともいってないから」
「……わ、わかったし」
少し口を尖らせながらコクリと頷いた。
「そもそもなんでそんなに強気なのよ。苦手なくせして」
「美麗となら楽しく回れそうだなって(もう怖がってるし、俺も普通に怖いし)」
お化け屋敷の楽しみ方はさまざま。
雰囲気を楽しんだり、驚かされることを楽しんだり、知人がビビる姿を見たりと。
今回は全て美麗に当てはまるのだ。
「な、なら一つだけ言っとくけど、そーたが悪ふざけで驚かしたりしてきたら本気で蹴るから。
「あはは、そんな悪趣味なことしないって。その余裕もないだろうし」
「ならいいけど……」
少しホッとしているが、お化け担当のスタッフ以外に敵がいれば蒼太だって参る。安堵の気持ちは同じであり、美麗は続けて要求する。
「あとお化け屋敷を進む時はそーたが前だから。あたしは後ろ」
「横並びじゃダメなの? 噂だと結構広いらしいからスペースは足りると思うけど」
「ま・え・う・し・ろ」
「はーい」
可愛らしい圧かけをしてくる。
組み立て式のお化け屋敷は前よりも死角を突ける後ろの方が狙われやすいことを美麗は知らないのだろう……。
「さ、最後にもう一つ」
「なに?」
「たまに、たまにだけどそーたの腕とか背中……使うから。別に怖いわけじゃなくて、中が暗くて危ないから、だから」
「了解。お互い怪我だけはしないように気をつけようか」
「ん」
ここだけは素直な美麗であり、『きっとほぼ使われるんだろうな……』予想しながら一緒にお化け屋敷のある店に移動する二人だった。
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