第95話 女子校。えちぃ漫画 ※シモ注意

 高級感漂う正門に白校舎が特徴的な加茂藤かもふじ女子学園。

 夏休み、その課外期間中のこと。

 この中高一貫の女子校では滝のような勢いでザワザワが広がっていた。

 その根源は朝の課外を集中して取り組めなかった学生も多く……学校一に話題性があった。


 それは——この学園の2トップ、学校では知らぬ者のいない美麗とひよりの様子があからさまに違っていたから。

 朝の課外が終わり、一時間目前の休み時間になる。

 

「ねえ、美麗ちゃんちょっとピリピリしてない!? なんか圧が出てるっていうか……」

「間違いなく出てる。あれは絶対男が関わってるね。『もっとあたしの気持ちに気づいてくれてもいいじゃん!』みたいな感じ」

「いやいや、『もうちょっとくらいあたしに構ってくれてもいいじゃん……』だって!」

「あー、わかるわかる。嫉妬してるっていうか拗ねてるっていうかそんな感じだよね」

「一組のひよりちゃんもなんかそんな風になってるらしいよ?」

「二人で喧嘩してるとか? あっ、でも今日も一緒に登校してたからそれはないっか。え、じゃあお互い男!?」


 そうして、先ほどの言葉通りひよりのクラスでも同様のことが起こっている。


「ひ、ひよりちゃん一体どうしたんだろう。しょんぼりしてるしいつもの元気がないよね……」

「もしかしてフラれたとか? ほら、前に一緒に登校してたでしょ? バイク乗りの男と!」

「いやいや、ひよりレベルなら相手が手放したりはしないでしょ。絶対痴話喧嘩だって痴話喧嘩。ほら、いつも通り手作りのおにぎり食べてるじゃん」

「そ、それはそうだけど……わたし不安だよ。あんなに静かなのはひよりちゃんじゃないもん……」

「まぁ、何かあったのは間違いないだろうねぇ……」

「みんなはダメだなぁ、様子見って。ウチが聞いてくるから待っててよ。相談内容によっては秘密にするけど」

「あっ!?」


 様子を見る。予想を広げる。これではなにも進展もないのは間違いない。少しでも真相を探るために気を利かせた一人のクラスメイトは落ち込んでいるひよりに接近した。


「ふぃ〜っと。朝課外お疲れひよりん。今日の課外は難しかったね」

「お疲れさま……。うん、そうだね……」

「それで一体どうしたのさ。普段の様子と全然違うからびっくりしたよ」

 そのクラスメイトはひよりの机にお尻をつけ、肩を優しく叩きながら励ますように促した。


「あはは……ごめんね心配をかけて」

「いや、別にそんなことは気にしなくていいって。それより何があったのか教えられる範囲で教えてよ。少しでも口に出せば楽になるし、おにぎり食べてるのに元気出てないってひよりのアイデンティティーなくなってるようなもんだって。相当なことがあったんでしょ?」

「うん……。心にぽっかり穴が空いちゃったっていうか、もうこの味のおにぎりも食べられなくなるんだなってそう思ったらまた悲しくなって……」


 普段からキラキラと活気に溢れたはちみつ色の瞳を持つひよりだが、今はうるうると潤ませている。口を強く結び『く』を右に45度回転させたような形をさせる。


「え? そのおにぎりってあの大きいバイクに乗ってる……確か寮の管理人さんが作ってくれてるやつだよね? って、その人に何かあったの!? 事故!?」

「ううん、そうじゃなくて……もうすぐやめちゃうの……管理人さんを」

「はっ!?」

「やめたらもう会えないかもって……。だから……」

「それはまた心にくるやつじゃん……。学校で言うところの転校ってことでしょ?」

「うん……。そうなる……かな」

 管理人という職を辞めたのなら入居者と接点がなくなるようなもの。転校ほどではないが、会う機会がなくなるも同然だ。


「えっと、答えにくいと思うんだけどひよりは管理人のこと好きなの? そんなに落ち込んでるってことはさ」

「……好きだよ。だってひよりのこといっぱい面倒見てくれて、わがままも聞いてくれて……。すごく優しくて……」

 これだけ聞けば誰もが誤解するだろう……。しかし、クラスメイトはニュアンスの違いを理解していた。


「いやいや、そうじゃなくってオトコ、、、としてどうなのかってこと。要は付き合いたいかどうかってこと」

「っ!? つ、付き合うってそんなのわからないよ……」

「自分のことなんだから『わからない』じゃないでしょ。別にウチには教えなくていいからしっかり考えて」

「う、うん……」


 ひよりは目を瞑って過去を思い返す。

 毎日のように甘えて、おねだりを聞いてもらって、相談にも乗ってくれて……と。じわじわと心が温まっていく。

 それでも、それが異性としての好きなのかはわからなかった。

『頼りになるお兄ちゃん』

 そのような気持ちもあるひよりだったのだから。


「…………」

 無言は1分も2分も続き、最終的にひよりが出した答えは、

「やっぱりわからない……」

 肩を落とし、ごめんなさいと含ませる。それでも幸運なことにクラスメイトにはまた別の確認方法が残っていたのだ。


「じゃあさ、ひよりはその人とエッチ——したい?」

「えっ、ええええっち……!? えっちってど、どんな……どんなえっちなの?」

「あー、それは恥ずかしいからウチの口じゃ言えないよ」

「そ、そうだよね……」

「だからスマホで調べみたら? あっ、そう言えば今日管理人と入居者ものの漫画が出てたっけな」

「そ、そうなの……?」

「うん。シチュエーションが似てるからわかりやすいかもねぇ。それで漫画に描いてある通りのことをしたければオトコとして好きってことだし」

「わ、わかった。えっちな漫画……だね」

「どちらかと言うとエロ漫画で検索かけた方がいいかも」

「え、えろ……漫画……?」


 いかがわしい漫画。学校で見るような漫画でないことはワードと響きで理解しているが、見なきゃ……と、素直な思考を作っている。

 顔を赤くしながら小声で聞き返すひより。


 そんな庇護欲を感じたクラスメイトは……興奮していた。そして応援していた。教室で声のボリュームをあげてしまった。

「そうそう! 好きだってわかったらひよることはするんじゃないよ! ひよりだけに! エロ漫画、、、、のようにガンガン——」

「——ちょ、あんたバッカじゃないのッ!!」

「——ひよりになんてもんを教えてんのさッ!!」

「あんたに任せたわたしがアホだったよッ!!」

 このワードを聞いた別のクラスメイトはすぐに動く。こればかりはひよりを守るための介入案件。


 バシッ! ベシッ! ガガガガ…… 。

 一人に頭を叩かれ、もう一人にも頭を叩かれ、最後の一人に引きずられ……。手慣れたコンビネーションにより一瞬で廊下に引きづられていったひよりの相談相手……。


「あはは、ごめんねひより! 気にしないでね!」

「う、うん……?」

 ここは高校3年のクラス。えっちなことに過剰になる年齢ではないがひよりは違う……。ひよりだけは違う。


 蒼太と初めてバイク登校した日のこと。

 彼氏だと知人に誤解された結果、この追求が入ったことがある。


『ひよりんはさ! 夜のテトリス体験したの!?』

『……夜のテトリスってなに? ひよりテトリスしか知らないよ』

『こ、これ伝わらないの!? じゃあウインナーVSアワビの夜戦!』

『なんで二つが夜戦するの? ウインナーは加工されてるからもう死んじゃってるし……二つが戦うなら先にひよりが全部食べる』

『そ、そう言う意味じゃなくて……じゃあこれは? ベッドが軋む上下運動!』

『あはは、そんなベッドでそんなことはしないよぉ』

『いい加減に伝わってくれぇぇい!』


 アレの言い換えに気づかなかったひより。それだけでなく、

『じゃあ、ひよりん! 赤ちゃんってどうやって作るのか知ってる!?』

『む、ひよりをバカにしてる?』

 不満げに瞳を細めたひよりはこんな回答をしたほど。


『ママとパパが仲良くしてたら赤ちゃんはできるの!』

『えっと、ひより? どのように仲良くしてたら赤ちゃんができると思ってる?』

『ど、どうやってって……二人のお家を買って幸せに仲良く過ごすでしょ? あとはカレンダーに丸をつけた日にできるの』


 ひよりは類いまれな純白さんなのだ。穢れを知らないのだ。クラスメイトが時間をかけてゆっくりゆっくり教えていくつもりなのだ。


 その計画が……あの漫画によって崩れてしまう。

 蒼太をどう思っているのか真剣に向き合おうとしたひよりだからこそ、すぐに調べた。授業中に禁断のサイトを覗いてしまった。


「……っっっ!?!?」

 服をはだけさせ、濃厚なキスを交わし、さまざまな箇所を弄り合い、腰を打ちつけ、卑猥な擬音語に溢れ、乱れ動く。そんな刺激的な絵を……。


「ひよりさんどうかしましたか?」

「にゃ、なななななんでもないですっ!」


 授業中、先生に指摘され急いで誤魔化したひより。

 顔はもうりんごアメのように真っ赤だった……。

 そして、今までに感じたことのない高揚を覚えてもいた。


(ほ、ほわ……ほわわわわ……)

 恥ずかしい。こんなのはもう見られない。そんな気持ちから片手で目を隠すが……好奇心が勝っていた。

 ひよりは指と指の隙間を開け、液晶を見ながら手を動き続けていた。次から次に関連のページに移動していたのだ。


(こんなことを……そ、蒼太さんと……)

 ひよりにとって救いは友達に教えてもらった漫画が純愛の、ノーマルな漫画だったこと。

 まだ、刺激の浅いものだったこと。

 それでも……漫画を読めば読むだけひよりは落ち着きがなくなっていく。

 股をもじもじとさせ始めていく……。


(なななっ……っ!?)

 そして、誰にも言うことのできない変化に気づく。下着が湿るどころか濡れていたことに。


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