琥珀色の涙

まきや

第1話



 夕陽が沈み、町に暗闇の足音が聞こえ始めた頃。


 人気の消えた公園にひとりの会社員がやって来た。彼の名はケイジ。年齢は三十代後半といったところか。


 ケイジは機嫌の悪そうな顔で周囲を見渡し、公園に備え付けられたベンチのひとつに腰を下ろした。


 椅子の残りのスペースに置いた鞄に手を突っ込むと、出てきたのはビールの缶。すぐにプルタブを開け、とりあえず半分ほど飲み干すと豪快にゲップをした。


「やってらんねえ!」


 足をダンッと踏み鳴らした。餌を貰えるかもと期待して忍び寄ってきた野良猫が、慌てて逃げ去っていく。ケイジはいらいらと頭をふった後、物思いの不毛なループに沈み込んだ。


 入社した時からやつら・・・との差は明確だった。新入社員の中で俺だけが三流大学。コネで入ったに違いないと真っ先に疑われた。まあ否定はしないが。


 最初は横並びの評価も、年月と経験が積み重なるにつれて、少しずつ差がついてくる。特に優秀な同期たちの肩書きは、どんどん立派になっていった。


 俺は運が良かっただけだよ、お前もすぐに声がかかるさ。同僚からそんな慰めをもらったのも今は昔。時が経つにつれ、同期のケイジを見る目が『仲間』から『厄介者』に変わっていった。


 今日は特に酷い日だった。皆のいる前で同期の上司に、仕事の成果をマイナス扱いされ、恥をかかされた。トドメに『技術者なんて代わりはいくらでもいる。得意分野に固執すると、すぐに老害になるぞ』とまで言われた。


 技術屋をナメるな! ケイジの手の中でアルミ缶がメキメキと音をたてた。ちくしょう……同僚たちあいつらのPCに細工してやる。マルウェアを仕込んで、社外秘の書類を山ほど外部へ送信したことにしてやろう。そうすれば会社から懲戒をくらって、空いた席に俺が滑り込める。最高のシナリオじゃないか。


 ケイジはほくそ笑み、ベンチに背を預けると空を見上げた。


 そこへ――。


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