第241話◇防壁
ヤクモ達に魔力を放った直後、アカツキは魔力を足場に空へと転身。
『アカツキ』
パートナーのミミが不機嫌そうな声を出している。
『楽しそうだけど、今日ちょっとかっこ悪いよ』
「手厳しいな」
思わず苦笑が漏れる。
アカツキたちが『彼女』と呼ぶ人物の配下には、二種類いる。
アカツキやミミのように、人間の都合で『汚らわしいもの』『役に立たないもの』といった烙印を押されたもの。そういった人間。
もう一種類は、ランタンやその他の魔人のように、普通の魔人とは異なる価値観を持つ者。
いつの世もいる、普通から弾かれた者達。
そういった者達を
ミミとしては、アカツキが『普通の枠に入れた者』に好意的なのが気に入らないのだろう。
魔力もないのに、他都市への移動まで許される立場にまで至るとは。
そんなことが叶うなら、まるで自分達の努力が足りなかったと言われるようで。
なのにアカツキは、ヤクモ達と楽しげに話していた。
そればかりか、後れを取るとまでは言わないまでも、選択を迫られるような戦い方をした。
パートナーが気分を害するのも仕方がない。
『いつものアカツキはかっこいいのにな~』
責めるような口調。
「分かったよ」
空を駆け上がるアカツキが目指すのは、今しがた死した騎士を灰に変えたアークトゥルス。
空中からだと、門の前で美しい光の柱が幾つも立つ姿が視界に映った。
「いい葬儀だ」
言ってから、皮肉みたいに聞こえただろうかと思う。
「もっと早く決断すべきだった」
独り言のつもりだったが、アークトゥルスが応えた。
表情を一切変えず、ただこちらを見据える《騎士王》。
だがその目尻から、涙の線が走っているように見えた。
「心には傷を負うのか」
何かを確認するように呟いたアカツキを、アークトゥルスが睨みつける。
「……貴様、何を知ってる」
ピンポイントで死者を灼き尽くしたばかりだというのに、彼女の魔力炉はまだまだ膨大な魔力を生み出している。
「伝説だけだ。それが現実か知りたい」
アークトゥルスの魔力は凄まじい。
だが安易に揮うことは出来ない筈だ。
アカツキとてそう何度も捌ききれるものではないが、一度は成功させた事実が重要。
自分の魔力を知っているからこそ、それがそのまま都市に放出されることを避けようとする。
次に彼女がとる手段はおそらく――魔力防壁の展開。
《騎士王》の魔力を最大限込めた防壁を展開すれば、再度魔力を溜めてアカツキを攻撃しても都市に被害が及ぶことはない。
少なくとも一度は。
『吸収』するには、対象が剣に触れている必要がある。
だからといって大規模な防壁の端まで行って剣を触れさせる余裕なんてないだろう。
防壁を展開させるのは面倒だ。
アカツキはそれを阻止する為にも、適宜魔力を消費させる必要があった。
その分の魔力はヤクモ達に放ってしまったが、アークトゥルスもまた防壁展開の為でなく仲間の弔いに使ってしまった。
こちらを接近させぬように、アークトゥルスは『風』の刃を発生させ、四方からこちらを狙う。
回避にかかる僅かな時間でさえも、アークトゥルスには魔力を練る貴重な時間。
そのことに――気づかぬヤクモではなかった。
◇
走っては間に合わない。
「いいの、おにーさん。結構衝撃強いと思うけど」
「急いでくれ」
「りょーかい」
ツキヒは迷わず、グラヴェルの身体で魔法を放つ。
瞬間、ヤクモの身体が凄まじい勢いで空中に飛ばされた。
嵐にも匹敵する『風』魔法によって、空中に吹き飛ばされたのだ。
その刃には、『両断』を纏っている。
そんなヤクモに、彼も当然気がついていた。
「次は負けてやれないんだ、ヤクモ」
アカツキの微笑みに、先程までの温かみは無い。
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