ミラー・フード

ユアキ

ミラー・フード 8(終)

母を失ってからどのくらいの月日が経ったのだろうか。


私は遂に、愛おしい彼を取り戻した。

彼は遂に、愛おしい作品を取り戻した。





「おっ、またあのお客さん居るのかい。相変わらず此処の料理が好きなんだねぇ」


カウンター席の一番端に座る男性に目を向けながら、少し顔を赤らめたビール腹の中年男性が笑う。

「えぇ、私の料理無しでは生きれませんからね」

「そんな冗談言っちまえる程、母ちゃんの代から此処はうめぇもんなー」

ガハハと笑いながら、男性は予約していたテーブル席へ向かった。


カウンター席に座る男性は、料理人の彼女にだけ聞こえる声で「冗談では無いけれどね」と呟いた。


そう呟くお客様の全てを彼女は愛おしく、幸せに感じる。






彼にとっての作品は、貴方にとっての何ですか。

彼女にとっての彼の存在は、貴方にとっての何ですか。

貴方はそれらを失ったとき、どのように喪失感と向き合いますか。



偶然、彼は愛情が込められた料理を愛しただけのこと。

偶然、彼女は料理を愛する彼を愛しただけのこと。




(終)

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ミラー・フード ユアキ @yuaki

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