ミラー・フード
ユアキ
ミラー・フード 8(終)
母を失ってからどのくらいの月日が経ったのだろうか。
私は遂に、愛おしい彼を取り戻した。
彼は遂に、愛おしい作品を取り戻した。
□
「おっ、またあのお客さん居るのかい。相変わらず此処の料理が好きなんだねぇ」
カウンター席の一番端に座る男性に目を向けながら、少し顔を赤らめたビール腹の中年男性が笑う。
「えぇ、私の料理無しでは生きれませんからね」
「そんな冗談言っちまえる程、母ちゃんの代から此処はうめぇもんなー」
ガハハと笑いながら、男性は予約していたテーブル席へ向かった。
カウンター席に座る男性は、料理人の彼女にだけ聞こえる声で「冗談では無いけれどね」と呟いた。
そう呟くお客様の全てを彼女は愛おしく、幸せに感じる。
□
彼にとっての作品は、貴方にとっての何ですか。
彼女にとっての彼の存在は、貴方にとっての何ですか。
貴方はそれらを失ったとき、どのように喪失感と向き合いますか。
偶然、彼は愛情が込められた料理を愛しただけのこと。
偶然、彼女は料理を愛する彼を愛しただけのこと。
(終)
ミラー・フード ユアキ @yuaki
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