@jun_1u1

第1話

あの日のわたしは、3年後、5年後自分がどうなっているかなんて想像できてもたかが知れていることしか思い浮かべていなかっただろう。


同じように春が訪れるなんて確証もないのに、それは当たり前だと思い込んで日々を過ごす。


どんなに狂おしく誰かを愛そうとも、その愛が報われるかはわからないし、その感情なんてふとしたきっかけで簡単に忘れてしまうかもしれない。


この不確かで美しい世界の中で、私というちっぽけな人間が全身で感じた奇跡。運命的な瞬間。


結局全て、こじつけや結果論なのかもしれないけれど、あの時のわたしはどうしても運命だと思い込みたかったのだと思う。


そしてその鮮烈な運命という言葉さえ、時間と共に風化されいつの間にか忘れてしまい、感覚を思い出すことすら難しくなってしまう。


全ての出来事は偶然であり必然であるならば、あの時のあの行動が違う物だとしても、結果は変わっていなかっただろう。


しかし、時間は戻らない、やり直しがきかないからこそ、全てが必然であるということが証明されることは永遠にない。だから人は過去の行動を悔やんだり、未来の行動を悩んだりする。


生きているとは、そういうことである。


そして今という瞬間を一生懸命に生きていたわたしは、自分の身に起きた出来事は偶然が重なりあって起きた、奇跡。運命だと信じて疑わなかった。


しかし冷静になって考えてみると、全ての出来事はとある選択が重なり生まれた偶然の産物であり、つまり全ての出来事が運命ということになってしまい、私が運命と信じて疑わなかった出来事も、対した出来事ではないということになってしまうのではないか。逆に、全ての出来事が、運命的であり奇跡的な瞬間とも言えるのではないか。


だとしても、あれほど心に強く衝撃を受けた奇跡的な瞬間は他になかった。そしてふと思うことがある。


もしあの時あなたが、他の誰かの物でなければ、わたしはあなたのことが欲しいと思っただろうか。


答えは、わからない。一生解けない問題である。


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