雑魚テイマーな僕には美幼女モンスターしか仲間になってくれない件
やすピこ
第一章 雑魚テイマーの嘆き
第1話 もこもこな相棒
『テイマー』
それは本来人類の敵である魔物共と心を通わせて契約を結び使役する職業。
有史以来連綿と続く人類と魔物との壮絶なる戦い歴史において、ある時一つの光明と言うべきパラダイムシフトが起こった。
人魔の戦乱に終止符を打つ希望の一手として、一人の魔導士が命を懸けて編み出した契約紋による魔物との交信魔術、後に従魔術と呼ばれる事となる新しい術の実験が行われたのだ。
幾度の失敗の果てにとうとう実験は成功し、人々は魔物との戦いにその魔物自身を武器とする術を手に入れた。
やがて人はその強力なる力により、とうとう魔王を封印するまでに至る。
そう、人類は魔物との戦いに勝利した。
それから、300年。
魔王を失い統率の取れなくなった魔物など恐れるに足らず。
人類を勝利に導いた従魔術もやがて廃れ、かつては強大な邪龍や悪魔でさえ使役した術の数々は危険だからと、悪用を恐れた時の権力者達によって封印され、その多くは歴史の闇に飲まれ失われた。
人類を平和に導いた栄光たる従魔術も魔法の系統の一つとして分類され細々と伝わるのみ。
そして人々はその術を使う者を『テイマー』と呼び、ある者は魔物に守られている臆病者と笑う者さえいる不遇職に成り果てていた。
そんな中、ある一人のテイマーが颯爽と歴史の表舞台に姿を現す事となる。
その者は失われた筈の数々の術を操って強力な魔物共を従え、やがて人々から英雄と呼ばれる事となる。
付き従うは あらゆる物をその拳で破壊する獣人。
大空を制する大怪鳥。
凶悪なブレスで敵を焼き殺すを邪龍。
数々の魔法を操り気候さえも変える大悪魔。
そして、あらゆる魔物の長であり強力無比たる力を持つ魔王。
しかして、その魔物共の姿は皆妖艶な美女ばかりであった。
それらを操る者の名は―――。
……………………
……………………
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……………………
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「むにゃ、むにゃ、それは僕マーシャルだ……。むにゃ」
僕は無敵のテイマーなんだ……Zzzzzz。
チュン……チュンチュン
突然誰かの手によって開かれた窓から聞こえる鳥の囀り声で、折角気持ち言い夢を見ていた僕の意識は少しばかり眠りの深淵から引き揚げられた。
「なんだい? 寝言かい? 早く起きなマー坊。もう朝だよ」
「ん? あれ? ここは何処? 獣人は? 邪龍は? 魔王はどこ?」
覚醒しかけた僕の意識は、僕を起こしてくるその声に、思わず飛び起きて辺りを見渡した。
だけど、どこを見ても魔王も邪龍も大悪魔は何処にもいない。
ここは見慣れた僕の部屋。
窓を見るとまだ日は射してないけど空はもう大分明るくなって来ていた。
そして声を掛けて来たのは母さんの妹のティナ叔母さん。
僕は故郷を離れてこの叔母さんの家に居候させて貰ってる。
「あはははは、何が魔王だい。それに獣人だったら、ほらそこであんたの相棒は寝てるじゃないか。使役している魔物は契約者に似るっているけど、本当だね~」
そう言って笑う叔母さんが指差した先に目を向けた。
僕は目に映ったそいつを見て思わずため息を吐く。
そうだよな、僕なんかが魔王を使役出来る訳がないじゃないか。
目を向けた先で、小さなベッドに寝転がってすやすやと寝息を立てているのは、犬? 狸? 熊? なんかそんな感じの魔物。
茶色い毛で覆われたもこもこほわほわの小さなコボルトだ。
いや、コボルト自身元々人間の子供くらい小さいんだけど、こいつは飛びぬけて小さい。
多分コボルトの子供だと思う。
あぁ~そっか、おばさんの言う通り一応こいつも獣人になるのかな?
夢で見た様な拳一つでバッタバッタと敵をなぎ倒し、鋼の様な爪で全てを引き裂く綺麗なお姉さんってのからは程遠いけどね。
と言うか、何で夢の中じゃ綺麗な女性の魔物ばかりだったんだ?
僕はもっとでかくてカッコイイ魔物を使役するのが将来の夢なのにな。
夢の中くらいは夢が叶ったらいいのに……。
現実はふわふわもこもこなんだよな~。
僕の名前はマーシャル。
職業はテイマーだ。
ちなみにそのふわふわもこもこが僕の従魔。
僕の先祖は高名なテイマーだったらしく、代々長子がテイマーになるのが家訓らしい。
悲しいかなその長男である僕は家訓に従ってテイマーになったんだけど、どうやらテイマーの才能ってのは全く無いみたい。
普通僕ぐらいの年齢ならワイルドウルフやオークなんかは当たり前。
中にはオーガなんておっかない魔物を使役している者もいるんだ。
でも僕はスライムにさえも無視されて、やっと使役出来たのが目の前でムニムニと鼻を揺らしながら寝ている子供のコボルトだけ。
聞いたところによるとコボルトの子供ってのはとても珍しいらしい。
滅多に人前に姿を現さず、つい最近まで生まれた時からコボルトはコボルトだって言われてたんだ。
大人になる成長スピードが速いってのも有るのだけど、コボルト達は子供を巣穴の奥の奥、隠し穴に閉じ込めて育ててたみたい。
それは何故かって?
決まってるよ、子供のコボルトは無茶苦茶弱いからさ。
魔物界最弱と呼ばれてるくらい。
……はぁ~テイマー辞めちゃおうかな~。
「すぴっ。ん? むにゃむにゃ。コボ~?」
叔母さんの笑い声に反応したのかコボルトはピクピクと身体を震わして頭を上げた。
けど、目はまだ瞑ったままだ。
か、かわいい……。
もこもこふわふわな子供のコボルトはまるでぬいぐるみみたいで本当にとってもかわいい。
テイマー辞めたらこいつともさよならか。
……もう少し続けようかな。
可愛いだけで役に立たないこいつだけど、一緒に冒険して鍛えたら強くなるかもしれない。
まぁ、どうあがいてもコボルトが夢に出て来た獣人のお姉さんみたいに強くなる訳はないけどね。
でも今よりかはマシになるかも……。
冒険? 冒険……。
う~んなんか引っ掛るな? 今日は何か有ったような……?
「昨日マー坊のパーティの子が言ってただろ。今日用事が有るんじゃないのかい?」
「あっ! そうだ! 今日は朝からギルドでミーティングする日だった!」
叔母さんの言葉でまだ少しばかり寝ぼけていた頭が再起動した。
僕は冒険者パーティーのリーダーとの約束を思い出して、慌てて飛び起きる。
なんか昨日の夜、突然家にやって来たんだよね。
なんでもこれからのパーティの方針な決定する重要な会議を行うとか言っていたっけ?
なんだろうな? もしかして拠点を変えるとか言うのかな?
う~ん、叔母さん家に居候させて貰ってるから家賃がタダなんだけど、他の街に移っちゃったら宿代が掛かっちゃう。
それは嫌だな~。
って、それよりも急がないと!
「おい! モコ! 起きろーー!」
僕は大急ぎで小さなベッドでいまだ寝ぼけ眼のコボルトに声を掛けた。
モコってのは僕の相棒である従魔の名前。
あぁ、見たままの名前だよ。
本来なら契約した魔物とは念波だけで会話出来る筈なんだけど、何故か僕達にはそれが出来ないようだ。
だから一々声を掛ける必要がある。
一応モコとは契約出来ている筈なんだけど、話せない理由はまだモコが子供だからと信じたい……。
モコは僕の声にびっくりして飛び起きた。
……そしてそのままベッドから転げ落ちた。
「大丈夫かモコ?」
「コボコボ~」
モコは少し涙目だけどすくっと立ち上がって手を上げた。
どうやら大丈夫みたい。
モコとは会話は出来ないけどこんな感じで意思の疎通はある程度出来てるから、まぁいいか。
いつかは色々と会話が出来る様になるでしょう。
僕達二人は大急ぎで着替える。
と言ってもモコは別に服を着るわけでもなく、こん棒ホルダーが付いた肩掛けベルトに手を通すだけだけど。
「朝食は出来てるから出掛けるならちゃんと食べてからにしなさいよ~」
「ありがとう。おば……ティナ姉さん!」
「コボコボーー!」
言い直したのは、叔母さんの事を叔母さんと言うと怒られるから。
そりゃ母さんより十歳以上若いんだから『おばさん』と言う年齢じゃないけど、僕に取ったら『叔母さん』だからね。
それで怒るなんて理不尽だよ。
僕はダイニングテーブルに用意されていた朝食を口の中に急いで放り込みミルクで流し込んだ。
モコも同じく両手でコップを持ってミルクを一生懸命ごきゅごきゅと飲んでいる。
「コボッコボッ」
あっ、むせた。
急いで飲み過ぎた為にミルクが気管に入っちゃったみたい。
「ごめんごめん。急かし過ぎたね。大丈夫?」
僕はむせて咳をしているモコの背中を撫でながらそう話し掛けた。
すると何とか治まったのか「コボコボ」と頷いている。
「じゃあ! 冒険者ギルドに行くか!」
「コボーーー!」
僕達は勢い良く扉を開き外に飛び出し冒険者ギルドを目指す。
約束の時間は日の高さが街の城壁を越えるまでだったかな?
う~んギリギリ。
少しだけ城壁の天辺が明るくなって来た。
急がなくっちゃ!
ドテッ。
と思ってスピードを上げた途端、背後から何かが転んだ音がした。
まぁ、それが何か分かるんだけどね。
僕が立ち止まり振り返ると想像通りの光景だった。
べちゃっと地面にへばりついたモコの姿。
さっきの音は勿論モコが転んだ音だ。
僕は溜息を吐きながら、モコを立たせてやり腰を落とし背を向けた。
モコを走らせるなら僕がおんぶして走った方が早いかも。
僕の考えが分かったのかモコはすごい勢いで背中に張り付いて来る。
落ちない様に後ろ手で支えながら立ち上がろうとした時、僕の耳に小さく何かの言葉が聞こえたような気がした。
「ぱぱだいちゅき」
気の所為かな? 背負ってるモコの方から聞こえて来た気がするんだけど、コボルトは大人になっても人間の言葉なんか喋れないし、今のモコだって「コボコボ」としか発声出来ないんだもん。
やっと念話が通じたのかとも思ったけど、しっかりと鼓膜が振動した感じがしたから違うと思う。
「モコ? お前なんか言った?」
「コボ?」
僕の問い掛けに不思議そうな声を出すモコ。
どうやら違うみたい。
周りを見渡してもまだ早朝なんで人通りは少ないや。
僕の近くには誰も居なかった。
気の所為かな? 鳥の声を空耳したとか?
まぁいいや、今は急がないと!
僕はモコを背負ったまま冒険者ギルドを目指して大通りを走った。
◇◆◇
やって来たのは馴染みの冒険者ギルド。
走った所為で上がった息を整えてその扉を開けた。
「う~ん、僕のパーティーは何処かなぁ~?」
街は人通りが少ないと言っても、基本的に朝が早い冒険者達には関係無い。
依頼先への出発の準備や仲間と待ち合わせをしている冒険者達でとっても賑やかだ。
そんな中、僕はパーティーの仲間達を探した。
「あっ、居た居た」
僕のパーティー達はギルド一階に併設されている食堂の一番奥のテーブルに座っていた。
ひぃふぃみぃ、どうやら既に全員揃ってるみたいだ。
僕が一番最後か。
「おーい、皆~!」
僕は声を上げながら皆が座っているテーブル目指して走った。
それに気付いた皆がこちらに目を向けた……?
その時僕は皆の顔に違和感を覚える。
あれ? なんか皆怒ってる?
リーダーは顔が真っ赤だし完全に怒ってるよね。
他の皆も眉をひそめて僕を見ている。
「遅いぞ! マーシャル!」
リーダーが不機嫌そうに怒鳴り声を上げる。
そんなに遅かったかな? ギリギリ間に合った筈なんだけど?
「ごめんごめん。皆どうしたの? いつもならもっとゆっくりじゃないか。遅刻常習魔のジャッジも先に来てるし珍しいね」
僕は怒っているリーダーに謝りながら努めて明るく振る舞った。
これからこのパーティーのこれからを決める大事な会議なんだもん。
楽しくやらないとね。
「チッ」
あれ? リーダーったらいつもはこれで機嫌を直して笑顔に戻るのに舌打ちしちゃった。
そんなに怒らしちゃったのかな?
「どうしたんだよ。何で機嫌悪いの? それよりさ、僕らの今後の方針を話し合うんだろ? 早く始めようよ」
そう言った途端、他の皆が目を反らした。
その雰囲気に僕は何故だか底知れぬ不安を感じる。
「ど、どうしたの皆?」
恐る恐る尋ねたけど誰も答えてはくれない。
僕がオロオロとしていると不機嫌そうなリーダーが口を開いた。
「じゃあ、お前が言った通りこれからのパーティーの方針を話そうか。ちなみにこれはパーティーメンバーの皆で決めた事だ」
パーティーメンバーの皆で決めた?
いつ決めたっけ? 僕知らないんだけど?
皆の方に目を向けても誰も目線を合わせてくれない。
「何を決めたの?」
僕の言葉に小さく溜息を吐いたリーダーは何故か顔をほころばせ笑顔を見せる。
機嫌が直ったのかなと思ったけど、その笑顔はそうじゃないと言う事が僕には分かった。
だって、その目には今まで見た事が無い僕の事を見下したような冷たい光が宿っていたから……。
「これからのこのパーティーが上の階級に伸し上って行くにはお前が邪魔だ」
「え? 邪魔? それって……どう言う?」
「本当に鈍い奴だな。要するにお前はクビって事だよ」
僕はリーダーの言葉に頭が真っ白になって暫くの間、その意味を理解する事が出来ずに立ち竦んだ。
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