10話生きていることが罪の種

 緑が豊かな森が広がってる。小鳥が小枝で歌をさえずり、美しい花畑が広がり、蝶が羽ばたいている。


近くの小川は太陽に照らされ、硝子の破片のように美しく、反射されて輝いている。その場に立っていたソフィーは辺りを見回していた。


「 」


 脳みそに直接自分の名前を呼ばれたような気がした。後ろを振り向くと誰かの面影がある少年がいた。柳鼠のようなセミロングの髪をひとつに縛り、大きい排色のつり目に長いまつ毛、首までのタートルネックを着て手を振っている。


 ーー遊ぼうよ。


 少年はまるでテレパシーのように脳に語りかける


「ねえ、ーー 待ってよ!!」


 ソフィーは名前も思い出せないのにいつの間にか少年の名前を口に出していた。


 ーー待たないよ!待てないよ……だって…………


 少年がそう口にした瞬間美しい木々は枯れ果て、草花は燃えて灰になり、美しかった小川も赤黒く染まる。


 ーーお前はボクを見捨てた。


 ソフィーは目を大きく見開いてから、小さくため息を吐いてから、小刻みに震える。


 ーーお姉ちゃん!


 小刻みに震えていると、また後ろから声がした。

しかし、やはり脳みそに直接言われているような感覚だ。


恐る恐る誰か分かりながらもゆっくりと振り向くと、水色の髪をツインテールにボンネットを被り、赤のケープに白のドレス、ガーターベルトに平べったい茶色い靴を身につけている少女が居た。


「エリザベート!」


 エリザベート。忘れもしない。ソフィーの大切な妹であり、そして大さじ2杯の嫉妬を抱いた人。ソフィーとは性格も趣味も真逆だ、


 ーーお姉ちゃんは私と親友どっちが大切?


 エリザベートがそう言った途端、美しいエリザベートの顔が蝋燭のように溶けてゆく。そしてソフィーの首に白い手をかける。


少年も後ろからソフィーの首を勢いよく掴む


 ーーねえ、どうして生きてるの?多くの人の未来を奪ったくせに……


 ーーねえ、どうしてわたし達を見捨てたの?家族なのに……


 ソフィーは勢いよく飛び起きた。目の前にはミカエラが心配そうな顔で覗き込んでいた。


それから少し目を細めてからミカエラは『大丈夫?うなされていたよ?』と書かれた紙を見せる。


「うん、気にしないで……というか、いま何時?」


 ミカエラは手で8とジェスチャーをする。


「って言うことは4時間しか寝てないのか……畜生……アルキュミアめ……」


 昨日の帝都侵略者の様子を思い出しつつ、深くため息をついてから、大あくびをした。正直まだ寝足りなくて瞼が重い。今にもまた寝そうだ。


「眠いよ……もっと寝たい……」


 再度布団にもぐると、ミカエラに剥ぎ取られた。


『寝ないで。あと大佐から呼ばれてる』


 と、布団を窓に干すと、ミカエラはこう紙を見せた。


「はーい……起きます……」


 しょうがなく起きると、いつもの水色と白のドレスワンピースとポンチョ姿に着替える。


「眠いよ〜帰ったら寝る〜」


 ソフィーはそう言いながら目玉焼きの黄身をナイフでそっと撫でる。

黄身は破けてとろりとベーコンと白い皿の上を流れていく。ソフィーはそれをベーコンと白身に付けて食べる。


『いつもそう言って寝ないじゃん』


 対するミカエラは焼きたての食パンの上にバターを乗っけながら口を動かす。

香ばしく熱々のパンの上に乗っけられたバターは静かにゆっくりとパンの上を滑るように溶ける。



「そうだけどさ〜眠いんだよ」


 ソフィーはそう言いながら、大きく欠伸すると、そのまま口にベーコンを投げ込むだろう。




 朝食を食べ終わり、宿舎から少し離れた棟へ続く廊下を2人は無言で歩き進める。

 廊下は秋にしては冷たく、風で窓が揺れ、少し古い建物はキシキシと音が鳴る。

 大佐の執務室は棟の最奥にある。2人は部屋の前につくと、ノックを3回する。


「失礼します。ソフィー=ミネルヴァとミカエラ=レアです。」


 と、3回軽くノックをする。すると、ドアーの先から嗄れた声で「入れ」と聞こえた。


「失礼します……」


 そう言いながら部屋に足を踏み入れると、全体的に部屋は茶色いもので統制されている。ソフィー自身は、あまり来ることが無いので、田舎から上京した少女のように、キョロキョロと興奮したように当たりを見渡していた。


「ハハ……劣等人種とミネルヴァよく来たな。お前らに良い知らせがある」


 大佐は執務テーブルに両肘をつき、顎の前で手を組みながら、ニタニタと笑う。

 ソフィーは、ミカエラは劣等人種では無いと口から言葉が溢れそうになったが、グッと飲み込み、唇を噛み締めた。


「ミネルヴァ。お前を劣等人種の副官補佐に命じる」


「嘘でしょ?!」


 ミカエラに後ろを突っつかれて初めて敬語を忘れていることに気づき、直ぐに「本当ですか?」と訂正する。


「やっぱりお前らも野良猫の部下だなぁ。目上に対するマナーがなってない。」


 と大佐は呟いてから続けて


「補佐官に命じるが、茶だしやソイツの言っていることを伝えろ。戦闘に関しては女のお前なんかに任せられない。司令権なんてもってのほかだ!」


 そんなことは分かっている。この戦争はオトコだけのものであって、オンナがいくら入ろうとしても入る隙間さえ与えてはくれない。


しかし、今回はまさか上がこんなチャンスを与えてくれるとは思わなかった。これで復讐も進むだろう。


Jowohl, Herr Oberst了解しました大佐殿


 ソフィーは一瞬目を瞑ってから、敬礼しながら大きな声で返事をした。


「それとレア!明日昨日の件で会議がある。絶対参加しろよ!」


 ミカエラは返事の代わりに一歩進むと敬礼をした。


「俺からは以上だ」


 2人は同時に敬礼をしてから部屋から出ていく。


 部屋から出るとミカエラは何故だか納得いかなさそうな顔をしているように見える。


「どうしたのミカエラ?」


『ソフィーをあそこに連れていくのか……』


 ミカエラはポツンと呟いてから、顔を近づかせる。


その目は太陽に照らされてピジョンブラッド色に悲しく輝いている。


『あそこは地獄』


『ソフィーをこれ以上傷つけたくない』


「私は大丈夫だから。ね?」


 ミカエラの心配する気持ちは分かるが、ソフィー自身は実際暗殺やスパイ、市街地戦を通り抜けている。

地獄なんて何回も通り抜けている。

実際前々回の作戦時には、銃撃戦になり、ソフィーも防弾チョッキがあったから無事とはいえ、3発程撃たれている。ミカエラはその事を知らないのだが。


『それにソフィーばかりに世話をかけて申し訳ないしそれに…………僕の為に前線にいくなんて迷惑でしょ?』


「申し訳ないって何が?私はやりたくて仕方がないの!それにミカエラは故意にやってる訳でも無いのに、それを迷惑なんて思わないよ!」


 ミカエラはその場で足を止める。それからミカエラは頭を下げてから項垂れてから、口を動かす。


『……ごめんね……ごめんね……いつも君をばかり頼ってしまって』


 ソフィーはミカエラより1歩先に進み、後を振り返る。ミカエラは悲しそうな目をしたまま、こちらを見つめている、


「私はミカエラの……誰かの役立てるならそれでいいよ!それに人に頼られるのは嬉しいから……」


 ミカエラは困惑したような複雑な顔でソフィーを見てから『そう』とだけ口を動かし、また歩き始めた。






 正午頃、2人は珍しく私用で基地の外に外出していた。

昨日の攻撃によって基地がある南西部と中央は損害は免れたものの、焼夷弾が撒かれた北東部は炭の建物が多い。

ここで不幸中の幸いなのは、北西部はほとんど住宅街で、軍や国の機関がない事だった。


街のあちらこちらでは、主に死体の後片付けをする後方支援の姿がある。

その中でも黒く炭化した遺体が最も多い。周りに散らばってるドッグタグを見る限り、アルキュミア兵だ。


 ミカエラは目を背けて、そして悲しそうな顔を見せるだろう。


「しょうがないよ。倒さなければ私達が殺られるんだから。国が無くなってもいいの?」


「…………」


 悲しそうに真剣に祈っている、ミカエラの姿を勇気づけるたいのに、ソフィーにはその言葉は口から紡がれない。


大丈夫だよ。しょうがないよなんて無責任な言葉しか紡がれない。


「あ、……!ミカエラ!あそこにレストランがあるよ!ちょうどお腹空いたし何か食べない?」


 結局話を逸らすことしか出来なかった。

ソフィーは笑顔を浮かべながらも、胸の中には影が落ちていく。


 レストランへ入ると、軍人が数人いる。

 恐らく仕事中にお腹すいたのだろう。軍人達は一見にこやかな笑顔で楽しそうに話しているが、よく見るとその笑顔はぎこちない人が多い。


 ソフィーは軍人からミカエラを離す為に、奥の窓が無い席に座る。少し薄暗く照らす硝子の照明が今の心にはちょうどよかった。

ソフィーは明るく燦々と太陽が照らす窓側の席を少し眺めた後、メニュー表を開く。

ステーキなど、今はあまり食べる気にはなれないものばかりだったので、ソフィーはパンとシチューを頼み、ミカエラはクリームソーダとバタートーストを頼んだ。

 ミカエラは頼んだクリームソーダが来ると嬉しそうに飲みながら、偶に癖であるストローを噛む。


ストローは平に潰れ、鋭い歯型がついている。ソフィーはその様子を微笑ましそうな目でじっと見ていた。


『そういえばソフィー』


 食べ終わったあと、ミカエラは比較的真顔になり、めずらしく腕を組む。


『明日の会議着いてきて欲しい。僕だけでは周りに迷惑をかけてしまう』


 ソフィーはすぐさまに笑顔で頷いてから、アフターで頼んだ紅茶を口にする。


『それで守って欲しいことがあるんだ』


「ん?何?」


『明日は皇帝陛下がいらっしゃる。だから僕が言ったこと以外口にしないで欲しい。』


 ソフィーはテーブルを乗り越え、「え、皇帝陛下がいるの?」と少し大きめで言うが、ミカエラに目で静かにという目で見られ、座り直す。


『あまり大きな声出さないで』


 ミカエラは少し眉を釣り上げて、口に指を当てる。


「ごめん……」


『大勢に知られると色々と大変だし、君声大きいから……』


 ソフィーは「確かに」と呟いてから、もう一度口に紅茶を含む。紅茶の水面には、後ろで数名こちらを見ている人達がゆらゆらと見えている。

ソフィーは、それらの人を一瞬だけみると、嗚呼しくじったな……と思いながら、なんでもなさそうな顔で、再びミカエラを見る。


『明日は9○○きゅうまるまるから会議だからその10分前までに全ての身支度を整えて、時計塔の頂上の会議室に行くからね』


「了解」


 ソフィーはそう言うと、カップをソーサーの上に置いた。



 店を出ると、軍人達はまだ一生懸命後片付けをしている

。泥だらけになりながらも必死に一生懸命また元の美しい街へ戻そうとしている。

ソフィーはその様子に有り難さを抱いた。


『僕も後方勤務がよかったな』


 と、横でミカエラは伏せ目で桃色の唇を動かすだろう。


 そういえばミカエラは、能力と士官学校の成績を上から買われて後方勤務志望から、無理やり前線にいかされたんだよな……と、思いながらも、ミカエラの複雑な顔を眺める。


 少将以上なら軍全体を動かす後方勤務にはなれるが、戦場を遠くからのうのうと眺め、人の屍の上に立ち、獲得した地位なんて要らないとミカエラは昔ぽつりと語っていた。


『もう人を殺したくないから……』


 ミカエラはそう薄い桃色の唇を動かしてから、目を細めて口角を下げる。


『でもねソフィー、きっとこれで良かったんだよ。早く戦争を終わらせるには、僕が炎で焼き尽くすのが1番なんだよ』


 ソフィーはそれを読み解き、俯き唇をギュッと噛み締める。

もし、自分が強い能力があれば、身体が男性だったならば代わりに戦場に立てたのに、生憎ソフィーの体はふっくらとした胸があり、能力は千里眼と戦闘には使えない。

それが悔しくて悔しくて、少し目を細めながら「ごめんね……ミカエラ」と呟いた。


ミカエラは無言でただソフィーの頭を撫でるだけだった。


いつもなら嬉しいはずなのに、今はただ辛く、悔しかった。





 ✤

 深夜、ミカエラは隣で寝ているソフィーを見ながら、明日話す簡単なまとめを作っていた。自分が言ったことを話すとはいえ、話す流れや今の状況が分からなければ、分かりにくいだろう。


「本当にしっかりしてるよね」


 後ろから声が聞こえた。ソフィーでもアンドリューでもない。まだあどけなさが残る少年の声だ。

 後ろを振り返ると、そこには柳鼠色の髪を1つに結び、緋色の瞳の少年がいた。


 ミカエラは小さくため息をついてから、少し目を細めた。それから『少しでも分かりやすくしないとね』と、口を動かすと、少年はニコリと笑いながらこちらに寄ってくる。


「兄さんは本当にそういう所考えられて凄いね!」


 少年はそう言ってふざけたようにミカエラの肩をバンと叩くが、その手は肩をするりと通り抜ける。


「やべ……手が通り抜けた!超笑える」


 少年は大笑いしながら、ソフィーが寝ているベッドに座る。


『ルカ……そこに座るのは辞めな。死人……がそこにいると金縛りしているみたいだから』


 ルカはミカエラの実の弟だ。数年前にとある不幸によって死んでしまったが、彼は死後こちらの世界に残ることを決めたらしく、よく色々な場所をうろちょろしている。


「いっそう金縛りにして無理やりボクを見てもらいたいな……姉さんにはボクが視えないんだから」


「きっと姉さんは今でもを後悔してる。後悔しなくてもいいことを……」


 そう、ソフィーには全く霊感が無い。

ミカエラにとってはソフィーが余計な物を見なくても済むからいいが、親しい人の霊が見えないのは少し残念というか、寂しいと思う。


『でもね、ルカが夢に出てきて言ったとしても、僕が何度言ったとしてもソフィーには決して届かないよ。その心を動かす手伝いは出来るかもしれないけど、最後は自分の心次第』


 ルカはそれを聞くと悲しそうな顔をしてから、ソフィーの頬をそっと撫でるが、その手は虚しくもすり抜ける。


 その様子を静かに目を閉じてからミカエラは再び作業を続ける。


 そういえばソフィーはある時にポツリと悲しげに言った。


 自らが生きていることが罪だと。

 家族を、親友を殺した上に自らの目標の為に人を殺し、生き続けているのは罪だと。


いいえ、ソフィーは家族も親友であるルカも殺してない。

あれは不幸な事故のようなものだ。そうするしか無かったんだ。


ソフィーがその決断をしたからこそ、ミカエラは今、この場所にいる。


 ミカエラは横を見ると、ルカは悲しげに微笑みながら「姉さんは本当に正義の味方のようだったよ」と、呟く。


 ミカエラはその様子を目の奥が焼かれる思いを抱きながら、作業を終えると寝床についた。





 朝目が覚めると時計の針は8を指していた。ミカエラは急いで起きると、ソフィーを叩き起す。

ソフィーは寝ぼけているのか、「エビさんドリア……」と謎の言葉を言ったあと、目を大きく見開いて、「おはようございます」と起きる。


 ミカエラは少し微笑むと、寝起きで読唇術が出来ないだろうと、『おはよう』と書かれた紙を見せる。

ソフィーは元気よく頷く。それからソフィーは機嫌よく準備を始めた。


 軍の時計塔の頂上の会議室。

そこは軍の上層部がよく会議する場所だ。

横でソフィーが感動したような声を漏らし、キョロキョロと当たりを見る。


『ソフィーキョロキョロしないで』


 ミカエラは肩を突っつくと、その近くの空いた椅子に座った。テーブルは、長方形で上座には既に将官達が座って、腕組みをしている。


「レアくんはいつもギリギリだね〜」


 と、将官の1人が言ったが、開催時刻まで時間は10分あり、まだ数名来ていない。

右横にいるアンドリューがそれを聞いて、眉を顰め腕組みをした。

後ろに立っているソフィーを見ると、手を思いっきり握り締めていた。

ミカエラは少しため息のようなものをついてから、上座をみる。


上の玉座には、まだ誰もいない。


「皇帝陛下がもうすぐでいらっしゃる。貴官達は早急に準備せよ」


 と、の声がかかると同時に一斉にミカエラを含む軍人達は、全員立ち上がり跪く。

ミカエラにとっては当たり前のことだが、ソフィーは驚いたように、キョロキョロと辺を見ている。


『ソフィー跪いて!!』


 と、ミカエラはソフィーに顔を向けて言うと、ソフィーは急いて跪いて暫くすると、少し重めの足音が聞こえた。


「卿よ、頭をあげたまえ」


 頭を上げると、白髪混じりの濃紺色の髪に、白ひげ、恰幅が良く、仏頂面のした男性が玉座に座ってる。この人こそ第15代レヴァン帝国皇帝ハインリッヒ=ヨーゼフだ。


「皇帝陛下はますますご発展のこととお慶び申し上げます」


 とある大将が緊張した面持ちで、ピンと張った糸のような声を出して言う。


「卿達よ。さあ会議を始めようではないか」


 皇帝がそう言うと、ミカエラ達軍人は一斉に座る。


その様子は、ミカエラは見慣れていて当たり前の光景に思えたが、後ろを振り返ると、ソフィーは驚いたような表情を浮かべてた。


「……ん?今日は女がいるんだが……」


 ミカエラが唇を動かそうとした瞬間、大佐が「レア劣等人種が話せなくなったので、コイ……この女性が変わりに話されるそうです」と話す。

大佐に言われるのは、なんか胸がイガイガと痛くなる。


「そうか。御苦労だ。」


 と、皇帝は上から目線と感じてしまう、ゆっくりとした拍手をした。


「そこ!皇帝陛下にご挨拶をしろ」


 突然刺指されて、後ろで狼狽えたような返事が聞こえる。


「陛下、失礼します。わたくしの名前はソフ……」


 ソフィーの言葉を遮るように、大佐が「皇帝陛下の前だ!本名を名乗れ!」と、叫ぶ。


 ソフィー=ミネルヴァというのは、本名では無い。

とある事情で隠さなければ、いや、捨てなければ生きていけなくなった。


 後ろを振り返れば、少し俯いて、唇を噛み締めるソフィーがいる。

それを見ているミカエラの視線に気づくと、どうしても名乗らないと駄目?と瞳で訴える。ミカエラはその目線に駄目と返す。


「失礼致しました。わたくしの名前はゾフィー・シャルロッテ=ヘル・ユスティースと、申します。皆様の失礼にならないように努めさせて頂きます。」


 少しのざわめきが起きたが、やがて会議が始まった。




 会議が終わり、ミカエラ達は部屋に戻る。ソフィーは部屋に入った途端少し不満そうな顔でミカエラを見ている。


『ごめん……本名いわないといけないこと忘れていた』


「もう、……ってミカエラに言っても、どうしようも無いんだけどね……」


「私、どうもしっくりと来ないんだよね……ゾフィー・シャルロッテ=ヘル・ユスティースって可愛くて、賢い女の子らしい子って名前」


 ミカエラは確かに……と、思わず頷いてしまった。

この前は大股開いて座っていた人間が賢いとは思えない。

ただ、それよりも性別の特徴を示した名前は、ソフィーにとっては生きていく上で大変だから、せめてそれに囚われずに生きて欲しい。


「ねえ、そこで頷かないでよ!」


 と、ソフィーは目を細めてからからと笑うと、ベッドの縁に座り、腕を組む。


「……ねえ、ミカエラ……ミカエラはどうして女の子の名前にしたの?」


 ミカエラは少し考えてから、静かに唇を動かした。



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