ボックスシンドローム
泥飛行機
.
2020.8.8 00:01
ガラスの水――降り止まぬ――警報――
B0×SYNDR0ME
箱達は雪の形と、雨の形をしていた。
きっと最初は、蝉が、死んだ。
寝落ちして今日も昨日も一昨日も今まっくらな薄い箱の中で電源がつかないきっと明日も
きっと明日も
アルミホイルのなか
電磁波が包んで
落ちて い る
電源をつけたよ
しが
降りだす
八十億個の巨大な箱は空に満ちて
ガラスの水で充填した雪と雨の形で
その全てが落下しながら
呑んだ
僕を
僕らを
ヒトを
サルを
家を
街を
国を
大陸を
惑星を――
閉鎖24:00:00
更新12:00:00
――箱は確実な重量と強度でアーキテクチャを踏み潰してそれら全て警音に塗り替えてい く
すーっ、として。
らんら んら ん ら ん ら ん ら ん
あんなにみんなが待ち望んでた破滅なんだから
ね?
あまあまでざらざらな
やわらかい部屋はまっくらで
ねむれないのに、おくすりがないの。
「しなないとでられないへや。」
すいちょくにしてください――
すいちょくにしてください――
それ以外何も無いガラスの水の中に閉じ込められた僕たちはただ端末の画面を覗き込んで、サーバーは落ちていて、一人きりで、きっと最後の空中のコミュニケーションをしていた。
2020.8.8 12:00:00
『二度目の箱の群れが降る』
呑まれなかった人達が外から箱を叩いて、中にいる友達に何かを呼びかけようとしていた。その声も姿も電波も、僕らには何も届かなかった。
ミサイルよりずっとゆっくりで、核戦争よりずっとひとりぼっちで、放射能よりずっと濃くて、ぼーっとして、
垂直にしてください
「では証明しよう
世界に本当に希望が無いのか?」
(無いよ。)
2020.8.9 00:00:00
『オワタ』
『オワタ』
『オワタ』『オワタ』『オワタ』『オワタ』『オワタ』『オワタ』『オワタ』『オワタ』『オワタ
『オワタ』『オワタ』『オワタ』『オワタ』『オワタ』『オワタ』『オワタ』『オワタ』『オワタ』『オワタ』『オワタ』『オワタ』『オワタ』『オワタ』『オワタ』『オワタ』『オワタ』『オワタ』『オワタ』『オワタ』『オワタ』『オワタ』『オワタ』『オワタ』『オワタ』『オワタ』『オワタ
『全ての死語、全ての崩壊の世界線が、
単純な振動の組み合わせへと、
収束する回へ。』
数十秒をかけて、地上を覆う箱の半数が融解した。その中に含まれる物質は鮮明な痛覚と共に押し潰され、同じように融解した。数十秒をかけて、それはガラスの海になり、地表を泳ぎ、海のように沈殿した。
ひとつづつ、薄い箱の形をした端末だけを残して。
融解しなかった箱の半数の、内部の生命体の目は、それら死の光景を刻まれていた。
閉鎖率 52%
待機率 24%
生存率 2%
――巨大な箱の落下群は、最初に都市中枢、軍事中枢、大型兵器を確実に破壊した。これは偶然ではない。「敵」は、何一つ言葉を発しなかった。あるいは、その声は翻訳されなかった。
らんらん
あたし達はこの世界がゲームであることを妄想していた。
だけどそれは、現実にはなりえない。
彼らの認識の全ては、思考実験に過ぎない。世界の終わりに直面したとしても絶対に交わることはないのだ。
しんでもでれないへやが、
微弱な電流の遺言で、繋がっている。
雨に屈折していく。
――だって、これが希望なんだから。みんな死んで、誰も幸せになる人がいなくなって、雪が国境を溶かして、それが一番のハッピーエンドなんだから。ハッピーエンドで塗り替えて、全部、ハッピーエンドのためなんだって。
――バッドエンドでいいなんて陳腐なことは言わねえさ。人類が積み重ねてきた悪夢の結末が、こんなインスタントなクソコラであっていいはずがねえ。
「魔法少女が魔女になるならみんな死ぬしかないじゃない。みたいな話。」
この世界に犠牲なき希望などありはしない。パンドラの底にあるのは例外なく絶望だ。なぜなら主人公達以外の生命は、希望に辿り着く前に死に絶えるからだ。
でも、選ばれたヒーローだから。
私は、暴力装置のこの世界を、
変えたい。
2020.12.25
人は死ぬ。
ひとがさみしい。
ひとりがさみしい。
それだけ。
(今なら無性生殖で増えることができる気がする。)
大きな箱が12時間ごとにたくさん落ちてきて全部を潰して、飲み込んで、24時間ごとに中の人間ごと解けて、それを繰り返して壊すものがほとんどなくなっても、終わらなかった。
箱は開ける物だけど、内側からは開かないし、鍵がない。
雨は流れるけど、雪は解けるけど、今は鍵がない。
警報。
らんらん
昔、サンタさんになりたかった。今もだよ。プレゼント配る人、もういないけど。
最初に箱と箱の隙間で目が覚めた時、見覚えのない小さな箱を抱えていた。下には海が満ちていた。
ここがどこだかわからないけど、閉鎖的なあたしの家は壊れたんだ。
ちょっとすーっとして海を眺めてたら、薄い箱型の端末が流れてきた。手を伸ばして拾ってみたけど、電源はつかなかった。この海はぬるいみたいだ。
それがあたしの所有物じゃないことだけはリアルで、知らない小さな箱にその端末を入れた。それから端末を見かけるたびにそうした。なぜか入れても入れても重くならなくて、いっぱいになることもなかった。
中身の入っていない箱は融けたりしないみたいで、ガラスの水で満たされていて綺麗だった。積もっちゃうな。積み重なったまま少しずつ流れていく箱の巨人の上に乗ってあたしは歩いた。降ってくる箱はなぜかあたしを避けたし、水を飲めばお腹が空くこともなかった。あと、一度も人間を見てない。
敵の目的は分からないけど、たぶんあたしは選ばれたてひとりぼっちのサンタクロースになれたんだ。でも本当は、あたしが死んだと思っている人達は目覚めていて、あたしだけがまだ夢を見ているだけかもしれない。
目が覚めて、お母さんに叱られて、どうしようもなく頭の悪い弟がいて、学校に行かされて、お父さんはいじめて、ごはんがまずくて、そんな一日に戻るだけかもしれない。
らんらん
いつもと同じ警報が鳴ってる。今がいつだか忘れたし意味もないけど、なんだかジングルベルが聴きたくて、本物の雪が見たかった。
(ねえ、がいがーかうんたー。黒い塊がいっぱいの夢を見てたよ。)
垂直にし
てください
閉鎖率 77%
待機率 0%
生存率 0.00000002%
×××
【お前ら全部箱庭だよ】
僕らの世界を生み出したと思ってる誰かはきっと僕らの表層の一部をたまたま観測してしまっただけにすぎなくて、やっぱり僕はここに居て、全部の感情も行動も本物なんだよ。そういうことにしておこうね。
まるい偽物
向こうの世界の人間はみんな、肉体を捨てて電子の海に棲みたがっている。だけどその壁は決して壊すことができない。
さんかくの偽物
同じなんだ。そういうことにしておこうね。
しかくい偽物
【インターネット・シンドローム】
ハコ
ぼくは
きみを
とびこえる。
×××
箱は振り続けて、海になり続けて。
海に憧れて。雲の上に憧れて。
知りたいと願って。使い果たして。
ずっと、同じことだけを、繰り返して。
――Ecollo Starheart (17)
僕はいつまでも46億歳のままだ。
2021.3.10.5:17
かつての地上から20km以上高い場所空がもう透明みたいに黒くて太陽が熱いのでぷかぷか浮いてる箱の上をあたしはサンタクロースをやめたから歩いては立ち止まるのを繰返すくらいしかできなくて終わらない気がする鳴り止まない警報の中でいつかみんな腐った海になってそれがきっと地球を綺麗にする酸欠の空気を吸い込み続けられていたあたしはきっと歩き続けていればいつか空を飛べるようになってあたしはロケットになって月に辿り着いて火星を目指す宇宙がただの夢だとしてもきっとこの夢の作者はあたしだ――
『ラスボスさん、まだいる?
ちょっとお話ししたいなって、聴こえてる?
いないかなー。そっか。さよならだね。』
俺だけが方舟に乗っている。
終点に辿り着くまで、
俺が寝ているためだけの場所。
ボックスシンドローム 泥飛行機 @mud-plane
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