いつか貴方と出逢えたときに
葵
第1章
いつか貴方に出逢えたとき、私はどんな顔をしているかな。きっと満開の笑顔を咲かせていたい。
*
運命の人に出逢うのってやっぱり春なのかな、なんて期待をしながら毎年迎える春。今でも運命の人に出逢えなていない私、鈴木楓は今年で24歳になる。周りの大人からは「まだ20代前半でしょ?」なんて言われるけど、若干の焦りはある。だって結婚して子供を産むなら早い方がいい。うかつに「まだ大丈夫」なんて言ってられない。中学の同級生にだって、結婚して赤ちゃんを授かった人もいるのだから…
でも私はわかっていた。そんな焦っている私はきっと、傍から見たら「こじらせ女子」なのだということを。もっと余裕があって、デンッと構えている女性の方が魅力的だ。そんなことは重々理解できていてもやはり焦りはあって…という考えが、最近の私の頭の中を占める。
「仕事に集中しなきゃ!」
そうつぶやき自分を鼓舞した私は、グイっと飲みかけのアイスカフェラテを飲みパソコンに向かった。
私は4年制大学で心理学を学び、今はその知識を活かし心理学を基にした自己啓発本を書く仕事をしている。とは言っても一度だけ冊子形式の自己啓発エッセイ本を1万部作製しただけで、仕事はまだまだ小さいものばかりだ。夢である作家という職業とは程遠い。今だって大学時代にお世話になった教授が出版することになっている新しいビジネス本のほんの一部、数ページの執筆を頼まれているだけだ。しかし、本の表紙に自分の名前が書かれることは初めてなので、この話をもらった時は心が躍った。一生懸命頑張りたいと、かなり意気込んだのを覚えている。それとは裏腹に、パソコンに映る文字の数はなかなか増えていない。
仕事をするときは決まって来る行きつけのカフェで大好きなアイスカフェラテを飲んでいたが、仕事は思ったようにはかどらない。頭を悩ませていた私のアイスカフェラテはとうに底をついていた。お代わり買ってこなくちゃ…そう思って立ち上がろうとした瞬間、視線の右下にトールサイズのアイスカフェラテがそっと置かれたのを見た。ん?頼んでないよな?と頭の中がはてなマークでいっぱいになっていると、
「トールサイズのアイスカフェラテで合っていますよね?」
と声をかけられた。私は3秒くらい止まっていたと思う。何が起きたのかわからないままアイスカフェラテを見つめていると、
「もう無くなりそうだったので新しいのを作っておきました!いつもご利用いただきありがとうございます!」
と言ったのが、このカフェの店員さんだと気づくのに今度は何秒かかっただろうか。私は反射的に、
「あ、450円!」
とアイスカフェラテの値段を言っていた。いやいや、まずはお礼でしょ、なんて思った時にはもう遅い。
「ふっ…あ、お会計は帰り際でいいですよ!」
ん?今、鼻で笑われた?と思ったけれど、そこには構わず今度はしっかり、
「ありがとうございます」
とお礼を言って座った。一息して冷静になると、さっき反射で値段を言ってしまった自分が急に恥ずかしくなり下を向いた。めちゃくちゃ恥ずかしい…
「お仕事頑張ってくださいね!」
そう元気に声をかけてくれた店員さんを見上げたとき、私は初めて彼の顔を見た。
「ああ、こんなにクシャっとした笑顔、久々に見たなあ」
なんて思いながら、私は二回目のお礼を言って執筆に戻った。店員さんも軽く会釈をして、持ち場に戻って行った。
このときのことを私は忘れない。そしてもっと可愛い笑顔でお礼が言えてたら、とこの先少しだけ後悔することになる。
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