第13話 俺とおっさんと娘さん
遂に、馬車はルルゥカ村に到着した。
箱から降りると、優しい風が俺の頬を撫でる。
「おおぉ……!」
視界に広がるのは、爽やかな青空と鮮やかな緑色の草木。
そこにぽつりぽつりと建てられた、雰囲気のある木造建築の家々。
少し大きめの家は、石造りが多い。仔犬と元気に駆け回る少年少女が、村の中心にある大樹の近くで笑い声を上げている。
少し離れた場所には畑も見える。村の男性達が、農具を手に農作業に励んでいた。
昼前だからだろう。あちこちの家から良い匂いが漂ってくる。食事の用意をしている真っ最中なのだろう。
ああ……これだよ、これ! こういう穏やかな場所こそが、俺の求めていた安息の地なんだよ‼︎
「ようこそ、ルルゥカ村へ!」
ジンさん、オッカさん、バーモンさんが声を揃えて俺に言う。
彼らの笑顔の歓迎に、思わず涙腺が緩んでしまったのはここだけの秘密である。
それからすぐ、俺はジンさんに案内されて村を回っていた。
オッカさんとバーモンさんは、一足先に実家に戻って家族に顔を見せに行っている。久し振りに帰って来たんだし、家族に安心させてあげたいのだろう。
「うちの村は比較的に王都から近いから、村の端の方に教会があるんだ。村の誰かが結婚するって時は、そこで式を挙げるんだぜ」
そう言ってジンさんが指差した先に、綺麗な建物が建っていた。あれがその教会なのだろう。
そこは民家からは離れた小高い丘の上で、景色も良さそうだった。
「で、北の方には集会所がある。何かあった時は大抵皆あそこに集まってるから、お前も困ったらひとまずあそこに行ってみろ。それから夜はあそこが酒場と化してるから、皆で酒が呑みたかったらいつでも来いよ!」
他にも色々と説明されながら、次に訪れたのは村長さんの家だった。
やはり村長の家というだけあって、建物の造りがしっかりとしている。広さも結構あるようだ。
すると、ジンさんが家の扉をノックする。少し間を空けて、「はーい!」という女性の声と共にドアが開いた。
姿を現したのは、活発そうなショートヘアの少女だった。外側に跳ねた毛先が特徴的な、綺麗な栗色の髪をしている。年頃は十五、六ぐらいだろうか。
「よっ! 帰って来たぜ!」
ジンさんが片手を上げてそう言うと、少女は大きく目を見開いた。
「ええっ⁉︎ お父さん、帰って来るなら前もって連絡してっていつも言ってるじゃないの!」
「すまんすまん、手紙を出すのが面倒でなぁ」
「もう〜! 何度言っても約束守ってくれないんだから!」
……ええと、今なんて?
オトウサン……とか何とか聞こえたような……。
え、お父さんって、あのお父さん? パパとか父上とかお父様とかの、そういう意味のお父さんですか?
えっ……オッカさん達も言ってたけど、本当に美人な娘さんでいらっしゃいますね……⁉︎
「……ところで、後ろの人ってお父さんの知り合い? お仕事関係の人?」
無言で脳内大混乱中だった俺を見た娘さんが、ひょっこりと顔を覗かせてそう言った。
「ああ、コイツは王都で一緒になったレオンってんだ! んで、こっちはオレの娘のジュリだ」
「ええと……レオンと申します。初めまして」
「ジュリです! こちらこそどうも初めまして〜。お父さんと一緒にってことは……もしかして、レオンさんも魔物ハンターだったりするんですか?」
人懐っこい笑みを浮かべた、ジュリという少女。
笑顔が明るくて、自然と周囲に元気を振り撒く女の子。それが、俺の抱いたジュリへの第一印象だ。
「いえ、俺はただの……元使用人、みたいなものですよ。仕事で身体を壊したもので、しばらくどこか空気の良い所で療養しようと思いまして」
「ええ〜っ⁉︎ 身体壊したって、それ大丈夫なの⁉︎ ……って、あわわわ! ごめんなさい、初対面なのに友達に話すみたいな言い方しちゃいましたよね……!」
ジュリは自分がタメ口を使って話していたのを失礼に思ったようで、大慌てで俺に謝罪の言葉を述べ、頭を下げる。
さっきまで笑っていたかと思えば、急に深刻そうな顔をして……そして今度は申し訳無さそうに眉を下げるジュリ。
こんなに短い間にコロコロと表情が変わる彼女に、どこか遠くに『彼女』の面影を重ねてしまう。
「いえ、構いませんよ。ジンさんの娘さんに親しくして頂けるのは光栄ですから」
……そんな自分の未練じみたものを振り払うように、俺は笑ってジュリを励ました。
「ほ、ほんとですか……?」
「ええ。ジンさん達には、とてもお世話になっていますので」
「レオンもこう言ってることだし、そんな細けえことは気にすんなよ! とりあえずジュリ、爺さんに話があっから呼んできてもらえるか?」
「お爺ちゃんに?」
こてん、と首を傾げるジュリ。
そういえば二人の関係性が判明した驚きのあまり、ここが村長さんの家だというのをすっかり忘れてしまっていた。
ということは、ジンさん一家はルルゥカ村の村長の家族になるのだろう。彼の口振りからして、そのお爺さんというのが村長さんに違いない。
「まだ空き家が残ってんなら、コイツに使わせてもらえねえかと思ってな。ほら、こういう件に関しちゃ村長様のお許しが必要だろ?」
「ああ、そういうことね。分かった、お爺ちゃんにすぐ伝えて来るね」
そう言い残して、ジュリは家の奥へと姿を消した。
「そんじゃ、俺らも中に入ろうぜ」
「はい。お邪魔させて頂きます」
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