第10話 三角関係とプラスαな関係。episode6
「へっ?」
「浩太さんも……なの」
「繭、お前もか!」
「お前もかって、どうして」
私たちのこの会話を、あきれたように聞き耳を立てている水瀬さんと有菜。
「ほんと仲良しなんだから」あきれたように有菜が言う。
「ほんと、この二人何なんでしょうね。なんか心配しているのがあほらしくなってきた」
み、水瀬さんまで……。そんな。好きで熱上げているわけじゃないんだけど。
結局と言うか、浩太さんの部屋で私も布団を並べて寝ることに。
「もう、二人一緒にした方が効率いいでしょ」
水瀬さんの一言なんか
「ああ、せっかく繭たんと二人っきりで、今日はしっとりと看病にいそしみたかったのに」
有菜の落胆の声。
そんな有菜なんか関係ないかのように。
「さて、これからどうしたらいいもか?」水瀬さんが呟くように言った。
浩太さんはベット。私は水瀬さんと有菜が部屋から布団を持ってきて、浩太さんの寝るベットの隣に寝かしつけられた。
「絶景かな絶景かな」
有菜がにんまりとして言う。
「それじゃまずはお熱を測りましょうか」
一つしかない体温計をまずは浩太さんから……。ピッ。
「うぅ――――ん。こりゃ高いわ。三十九度二分」
続いて私に体温計が渡され……? あれ。「あのぉ、有菜。体温計くらい自分で測れるんだけど」
「だめです! 繭たんの体温は私が責任をもって測らせてもらいます」
うふふ、ニまぁ―。ゴクリ。とのどを鳴らし熱を測られるだけなのに、何か身の危険を感じるのは思い過ごしなんだろうか?
「うふふ、繭たんの生おっぱい」
はっ? あ、有菜あなた顔が……。怖い!
「繭たんのお熱はしっかりと奥深くで正確に測らないとね。いいころあいにこのやわらかくてしっとりと湿ってきている筋にこの体温計をゆっくりと差し込んであげるからね」
あのぉ有菜。あなたがそんなこと言うと、ものすごく誤解を生みそうな気がするんだけど。
体温計は脇で測ろうね。
浩太さんとこの体温計は、お口では計らないんだよ。
はっ! ま、まさか……。
「うへへへ。それじゃずぼっといきますか」
ニまぁとした顔に憎悪を垣間見た。そして有菜は押し込むように……私の、脇に体温計を押し込む。
すぐにピッ! と音を鳴らす体温計。
「うわぁ!! お熱高! 三十九度八分。すごいわぁ」
自分でもその熱。体温を聞いて一瞬クラッと来た。そこまで熱が上がっているとは思っていなかった。
浩太さんよりも熱高いじゃん。でもその高くなった分って、有菜。あなたのせいじゃない? まったくもう、こんな時にあんなこと言って、余計な熱上げさせるんじゃないの!
ああ、でも頭とのどが痛い。体もなんだか痛くなってきた。
「これはまずいわね」
水瀬さんがなんか勢いを得たように、仁王立ちになってこぶしを握り呟いた。
「今ここで一番の年長者である私が奮起しなくては……」動けるということで。
「先輩、もう一度起きれますか?」
「うううっお、もう体動かすの勘弁してくれ。こうして寝ているだけでも苦しい」
「繭ちゃんは?」
「な、何とか……。た、たぶんですけど。でも体中が痛くなってきたんであんまり動きたくはないんですけど」
「うーーーーーん。これはどうしたものか? クリニックはすぐ近くにあるんだけど、そこまでこの二人を動かすのは厳しいか?」
ああ、そうだ。そう言えば前にこんなことあった。
でもあの時は二人同時じゃなかったんだよね。
そこまで思い出すのはよかった。でもその先のことを思い出したのは、まずかったのかもしれない。
――――キス。しちゃったんだよ……ね。
キスごときで今更。と、思っていたけど、なんで? 浩太さんとだと、どうしてこんなにも苦しくなるんだろう。熱で苦しいのにもっと苦しくなってきちゃうんだけど。
ああああぁ! もうなんか苦しさマックスで意識が飛んでいきそう。
「繭ちゃん大丈夫!」
私の変化に気が付いたのか、水瀬さんが慌てて声をかけた。
「やっぱり救急車呼ぶ?」
「へっ? 救急車」
「おいおい、嘘だろ。繭そんなに悪いのか」
浩太さんが力をふり絞るように、私の方に体を向けてベットから見つめる。
その視線をこんなに具合が悪くても感じてしまう私。また苦しさが増してくるような感じするんだけど!
「ちょっとやべぇか?」
えっ! そんなにヤバイ顔してんの私?
「うーーーーーん。やっぱり呼ぼうよ。救急車」
いやいや。そこまでしなくても、もうじき治まってくるよ。少なくとも今よりはきっと落ち着いてくるはずだから。……多分。
結局、水瀬さんが近くのクリニックに電話して、往診をお願いしてくれた。
来てくれた先生が思わず。
「二人て聞いたんですけど、まさかお隣同士でこうなるとは……何かありましたか?」
そう聞かれても何があったという訳でもないんだけど、ただ、先生の診察が終わって帰った後に、水瀬さんから「ねぇ、せ・ん・ぱ・い・。間違っても夜中に裸で二人しているようなことはぜっ――――たいにないですよね。念のために!!」
「ある訳ねぇだろ!!」
「ほんと繭ちゃん?」
「うんうん。ないない。あったら大変だよこんなことしてられない」……どうしてこんなことしてられないのかは分かんないけど。
それにしても水瀬さんがいてくれてほんと助かった。
もし、私と浩太さんだけだったら多分二人とも、だめになっていたかもしれない。
往診してくれた先生が「熱高いねぇ。レントゲン撮らないとはっきりとは言えないけど、たぶん二人とも肺炎になりかけていると思うよ。このまま何もしなかったら大変なことになっていたかもしれないね」なんて言われてしまった。
だからかもしれないけど。まだ、水瀬さんの目つきは疑いの眼でギンギンしているんだよ。
「こんばんは私ここに泊まり込みますからね」
多分ダメって言ってもいるだろうな。水瀬さん。そうしてくれると本当は心強い。でも、なんか……何か……。薬が効いてきたのかな。
眠い。
とても眠くなってきた。
視界がぼやけてくる。……。浩太さん。
もう寝ちゃっているみたい。私も寝よう……。起きた時には多分今よりは良くなっていると思う。
そうあってもらいたい。
そっかぁ。明日……。一緒に買い物いけなくなちゃったね。
ごめんね。浩太さん。
ふわふわとしてとても気持ちい。
ついこの間まで。私は……。
自分と言うものを見失っていた。
もう死んでもいいとさえ思っていた。楽しいことなんて何もないんだって。
苦しみと、哀しみ。その苦痛も感じなくなって来ていた自分がいたんだ。
今は?
寄り添ってくれる人がいる。私を心配してくれる人たちがいる。
ねぇ、繭。あなたはまだ自分を消しちゃいたい。なんて思っている?
ううん。今は私は消えたくない。
こんなに熱でうなされていても、とても心地いいんだ。あの頃の苦しさをもう二度と味わいたくはない。
苦しさ。
そっかぁ。何か引っかかることがあるんだよね。浩太さん。
浩太さんも、もしかして何かに苦しんでいるんじゃないのかな。
お茶碗。割っちゃってごめんなさい。
「いいんだよ」てあなたはそう言っていたけど、やっぱり何かあるんだよね。あのお茶碗には。
それがもしかしたら浩太さんの苦しみの一つだったのかな。
私が割っちゃったけど。
だとしたら、その苦しみが一つ減った? そんなわけないか。
どんなことなんだろう浩太さんの苦しみって。どうしてあなたはそんなにも優しく私に接することが出来るの?
その優しさとあなたの温かさは、どこかあの人に似ている気がします。
私の恩師。
そう……。
なぜかは知らないけど。
温かい。
この温もりを私はずっと。感じていたい。
それが今の私の幸せなんだと思う。
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