第9話 三角関係とプラスαな関係。episode5

机の上にぐったりと体を伏せていると。


「あれぇ、”繭たん”どうしたの? 具合悪そうだね」

沢渡有菜さわたりありな。唯一このクラスと言うかこの学校での友達。

「ああ、有菜かぁ」

と、彼女の声に反応するのが精いっぱいだった。


「なんか見た目相当悪そうだけど、朝一から保健室いく?」


保健室……。ああ、そう言えば学校にはそう言うところもあったんだ。保健室ってベットがあって、寝てられるところだよね。


「行こっかな」

「うわぁ、こりゃ相当やばいんじゃない。”繭たん”が自分から保健室に行こうなんて言うの初めて聞いたよ」


そうなんだ。でもここでこうしているよりは、いいような気がして言っただけなんだけど。


「じゃぁいこう。一緒についてってあげるよ」

「ありがとう」

体がものすごく重い。動かすのがめんどくさい。

でも、動かさなきゃ。


何とか保健室のドアを開けて、有菜と一緒に部屋の中に入った。

保健室の中には誰もいない。先生もいなかった。

「あれぇ、先生いないんだ」

有菜がつぶやくように言う。


「とにかくベットに寝ようよ」

そうしたい。起きているのがものすごく辛い。

吸い込まれるようにカーテンで仕切られたベットへと体は向かう。横になり毛布を羽織って、深く呼吸をした。息苦しい。


「繭たん熱、結構上がってるんじゃないの?」

「かもしれない」いやいやかもしれないって熱上がってんだけど。


「どれどれ」寝ている私の額にかかる髪を手で寄せて、有菜の額が重なり合う。

もう顔と顔がくっついてしまう。額はくっついているけど。


「うぅ――ん。こりゃあるねぇ熱」


額をくっ付けたまま、有菜が言う。有菜の息が唇に触れているような感じがしたのは気のせいか? なんかこのままちょっと顔を浮かせると、そのぷっくりとした有菜の唇に自分の唇が触れちゃいそうなくらい顔近いんだよ。そう言う状態でしみじみとそんなこと言わないで。


余計に熱が上がりそうなんだけど。

……別な意味で。


で、有菜……有菜ちゃん。何時までそうしているの?

熱計るんだったら体温計探してきてよ。

でも、有菜はおでこをくっけたままピクリとも動かない。


「うふふ、弱った繭たんってなんかとっても色っぽいね。同じ高校生とは思えないよ。一つ年上なんだろうけどさ、もっとさ、なんかいろんなこと知っているような。悪い女って言うの感じちゃうんだけど」


「ちょっと何言ってんのよ」とは言ったものの。間違いではない。全否定は出来ない自分なんだけど。


「ねぇ、このままキスしちゃダメ?」

「ううううううぅ。駄目だよ、多分風邪だと思うんだけど、有菜にもうつっちゃうよ」


「繭たんの風邪なら喜んでうつりたいんだけど。……だってさ、繭たん最近ほんと私とはご無沙汰なんだもん」

ご無沙汰。その意味は今は深く掘り下げないでほしい。


「ねぇしちゃうよ」

「だめだってば」


「弱っている繭たんを襲っちゃう。いけない私を許して……えへへへへ」

ニまぁ―と笑う有菜の顔が目に映る。


やわらかい唇の感触が私の唇に触れるか触れないか。その時保健室の扉が開いた音がした。

「誰かいるの?」

保健の先生がやってきたんだろう。

その声に、バッと有菜は顔をはなした。


「あら、あなた達どうしたの?」

何事もなかったように、有菜は「熱があるみたいなんです。具合悪そうにしていたんで連れてきたんですけど」と、保健の先生に話す姿は。思わず、外張り作りのスペシャリストだと感心した。


「あらそうだったの。それじゃお熱計ってみましょ」

棚の引き出しから体温計を取り出し。先生は私に私、それを、脇に挟んで計ってみると。


三十八度九分。確かに熱あるわ。


その体温計を見て先生は「熱高いわね。これじゃ授業出れないでしょ。お家の人に迎えに来てもらった方がいいわね」

お家の人? て、言っても私誰もいないんだけど。

「あ、あなたに年の梨積さんよね。そっかぁ、あなた一人暮らしだったのよね」

そこ気づいてくれたんだ先生。


「どうしましょ。今日はこれから会議もあるし、私ついていってあげられないし」

「――――先生。私一緒に梨積さんを家まで送っていきます。家近いんで」

「でも、あなたは授業。どうするの?」


「わ、私も少し頭痛いかなぁって。それになんか寒気もするし、早退します」

「そうなの? そうねぇ、なんかあなたも顔赤いしね」

多分有菜の顔が赤いのは、別な理由だからだと思うんだけど。


「それじゃ、私、カバン取ってくるから」ちらっと私の顔を見つめる有菜の顔はニマリとしていた。


学校を出てから、家に着くまでずっと有菜は私の手握ったまま離さない。

「こうして繭たんとこんな時間に、一緒に二人っきりになれるなんて私幸せ」

いや、私は幸せと言うか、助かっているのは本当だけど、早く家に帰ってお布団に寝たい。


「お医者さんにもいかないとね。あっそうだ! 繭たんおなかすいてない? 何か作ってあげるよ。定番のおかゆでいいかな?」

「そ、そこまでしてもらわなくても……大丈夫」


それに私の部屋には食材は何もないんだから。浩太さんのところに行かないと食べるもの何もないんだよね。


あっ! それを思えば、浩太さんにご飯作って上げれないのかな。

多分今日は無理かもしれない。お家に帰ったら浩太さんにラインしておかなきゃ。

「ごめんなさい今日は夕食作れない」って。


ああ、なんだか頭がぼぅーとする。それでもこんなこと、ううん気になっちゃうんだよね。

私にとってとても大切なことだから。


「大丈夫繭たん?」

心配そうに私を見つめる有菜。


「うん、何とか」

「じゃぁさ、早く良くなるお薬私が繭たんに飲ませてあげるから、きっと早く良くなるよ。何せ汗一杯出るからね」

あのぉ――。それって、かえって悪くなりそうな気がするんだけど。それだけの体力今はないよ? て、私何考えてんの?


ようやくアパートに着いたとき、一台のタクシーが私たちの前で止まった。


降りてきた二人の男女。

その二人の姿を目にして私は、なんで? と思考がショートした。もといすでに思考は、ほんわかどこかに飛んでいたけど。


水瀬さんに抱きかかえられながら、タクシーから出てきた人。そうそれは浩太さんだった。


「あれえぇ! 繭ちゃんどうしたの?」


私の姿を見て、水瀬さんがびっくりしてた表情で言う。

その言葉に反応したかのように浩太さんが私の姿を目にして「どうしたんだお前?」と言った。


それはこっちが聞きたい。


そして私たちは二人口をそろえて。



「熱上がった」


と、言うのであった。

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