特別編 第22話 あのね本当は……。 鷺宮友香 ACT 1
「あああああああ、友香ぁ、ちょっとぉ―!」
「何そんなに息切らしてんのよ」
「聞いたよ。あんた、あの
「ええええええっと!」
額に汗がじわっとにじむ。
「な、何のことかなぁー。わ、私よくわかんないなぁ」
「またぁ、とぼけちゃってぇ。今その噂、もぉのすごい速度で広がっているんだけど。あの山田浩太だよ、よりによってあの『オタク』の山田浩太だよ」
私の親友であり、良き私の理解者でもある
「何か問題ある?」
「はぁ? 大ありよ! あんたみたいな天然大真面目の性格の人がどうして、……。あ、でもないか。よくよく考えてみたらあんた達って趣味は違うけど、向かう方向性ていうのかな。似た者同士かもしれない」
「何よその似た者同士って?」
「2次元オタクと花
「あのぉ、彼はオタクだっていうのはこの際、認めるけど。私もオタクなの?」
「そうじゃない友香ってばさ、花のことになると目輝かせて話止まらなくなるじゃん。それってれっきとしたオタクだよ」
「そうかなぁ、ただ花が好きなだけなんだけどなぁ」
「そうそうみんなそう言うの、オタクって。でもさ、自己中じゃないところはまだ救われているんじゃない。あんたも山田君も」
「自己中って?」
「そうねぇ、なんていうかさ、無理やり自分の意見を押し付けないことかな」
「まぁ、そうなのかなぁ。でも結構私、燈子には自分勝手に話しちゃっていると思うんだけど。いつも反省してんだよこれでも」
「あははは、そうなんだ」
彼女は少し冷ややかな表情で返した。
そうなのだ私はあの学内で『オタク』で名高い山田浩太とひょんなことから付き合うことになったのだ。
別に『オタク』であれどうであれ、そんなことは何も気にしていなかったが、山田浩太という人物はこの大学ではそれなりに名が通っている人物だ。
『オタク』として……。
でも、付き合ってみてわかったこと。それはみんなが、私も含めてだけど、想像していた感じよりも普通の人であるということだ。
『オタク』というイメージはなんとなく陰湿的なイメージを持つ人も多いかもしれないけど、彼はそんなことはない……と、私は思う。
彼曰く「俺は好きなことにのめり込んでいるだけだ」と言っているが。
その行動力をもう少し日常の生活にもむければいいんじゃないの?
と思う部分は多々。それを言われると私も人のことは言えないか。
私は花が好き。
花を育てることが好き。
多分この好きという部分については彼と同じ感覚なのかもしれない。
そう私は『花オタク』
その部分については同じ感性を持つ人間同士が寄り添っているといえば聞こえがいいと思う。
ま、そういうことにしておこう。
私の親に浩太と付き合っていることが知られると、以外にも喜んでいた。
「花しか興味を持たなかった、あなたがねぇ」と、母親はにこやかに言う。
どちらかといえば異性との交流は今まで本当に少ないほうだ。
いまだかつて家に、男の子。そんな人を連れてきたことなんか一度もない。
浩太を家に招いたときは、私よりも親のほうが緊張していたことを今でも覚えている。
それより、あの浩太の緊張したロボットみたいな動き方は、私の今までの生涯の中で一番面白かったよ。
「ねぇあんたたち、学生だけど、その気なら早く一緒になっちゃいないさいよ。孫の顔見てみたいなぁ」
「ちょっとお母さん! 何いきなりそんなこと言うのよ。まだ私たち付き合ってそんなにたってもいないのに」
「あら、いいんじゃない。あなたにようやく訪れた春なんだから。お花のこと以外にこんなことなんてもう起きないでしょうからね。浩太さん。この子を見捨てないでね」
「ぶっ! そ、そんな、こ、こちらこそよろしくお願いします」
「ほら、友香あんたも見捨てられないように、頑張んなさいよ」
「全く何を頑張れっていうのよ! もう知らない」
「なはははは」浩太はどうしたらいいのか困って、顔を赤くして笑っていた。
懐かしいなぁ。
涙があふれていた。
ものすごく遠い昔のように思える。
でも、つい最近までのことなんだ。
私と浩太は……ほんの少し前まで幸せに寄り添っていたんだから。
あの日は雨が降っていた。
家の窓辺から眺める庭の花たち。今日も元気だ。
静かに空から落ちる雨のしずくに濡れ、色褪せていた葉の緑がきれいに輝いている。
ふとその中にどこかくすんで見える一株の花
どうしたんだろう。
昨日まではとても元気そうに見えていたのに。
何か様子が変だ。
傘を差してその子のところに駆け寄る。
見た目は元気そうなんだけど、でもね。なんか違う気がする。
「どうしちゃったの?」
思わず声をかけた。
返事が返ってくるわけでもない。でもいつも私は花たちに声をかけている。
変だと思われてもいいんだけど。
でもね、植物と会話ができたら、どんなに素敵なことかと私はね思っているの。
ほかの子たちはみんな元気そうなんだけど、この子だけは何か生きるという力を感じてこない。
「ねぇ、本当にどうしちゃったの? 病気? それとも私のことが嫌いだから、そうんなことしているの?」
沈黙の会話。
まだ私は気づいてはいなかった。
この子は私であることに
……。
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