第48話 悪女にご注意 ACT3

「えーと……経験ってどんな経験……つか、男の人知っているというか、なんと言うか。あれだよね……まぁ、人並みと言うかですねぇ」


「あははは、繭たん何動揺してんのよ。セックスの事に決まってんじゃないの。あ、もしかして繭たん、もう領域の外をいっているの?」

「あのう有菜さん! その領域の外って言うのはどんなことなんでしょうか」


「んっもう、「さん」なんてつけなくていいから有菜って呼んで繭たん」


「そ、それじゃ、有菜。あなたこそ、その経験ってあるの?」

「もち、あるよ」

有菜は平然と当然のように答える。


「だからさぁ普通のセックスってさぁ、なんだろうこの胸の中がキュンとなるよな感じがするセックスなんだけど、キュンじゃなくて、お互いに快楽を求めあう様な感じって言うかさぁ、多分アブノーマル的なものまでは、はまってはいない様な感じがするんだけど」


「ええええッとですね。ふ、普通ですよ。いたって普通。でも最近はずっとその……セックスなんてしてない」


「ええ嘘、してないの? たまらない、なんかこう体の中からモヤモヤしてくるの抑えきれなくならない? あ、そっかぁ。繭たん、一人エッチにふけっているんだぁ。そっかぁ、そっかぁ。で、どんなの使ってるの」


「はぁいぃ? どんなのって何の事でしょうか……」


「やだなぁ、一人エッチのお供だよ。おもちゃ、あるんでしょう。繭たん物凄いエグイの使っていたりして。なははははは!」


「ないよ。そんなもの」


「えええ、嘘でしょ。あるよ絶対に、恥ずかしがらなくっていいからさぁ。私も使っているよええーとねぇ」


「ちょっと待ったぁ! この先はやばいヤバイ、だから触れないでおこうよ」


「なははは、なんか私一人で突っ張しちゃったみたいだね。ごめんね」

有菜はにんまりとしながら頭をポリポリとかいていた。


「でさぁ、確か相談があるって言ったよね」


そうだ、相談があるって言うから一緒にいたんだ。何もこんな話をするために一緒に来たわけじゃない。


「ああ、そうだったね。相談ねぇ……うん、あるよ。多分繭たんだから出来る相談だよ。だってさぁ、今までの話で繭たん嫌な顔しなかったから」

なになに、て、言う事はそっち系の相談という事なの?


……「あのさぁ、私うまくいかないんだぁ」とか、何がうまくいかないのかはこの際突っ込まないけど。それとも「実は……あのぉ、出来てしまちゃってどうしたらいんだろう」なんてあまりにもリアリティ―ありすぎるんですけど。


「ねぇねぇ、繭たん。どうしちゃったの?」


「あ、いいえ、なんでもないよ」

「あのさぁ、じつわね。私……」


ほら来た、ほら来た。どうする? 私だって妊娠なんかしたことないよ。

それにセックスだって望んで好きでやっていた訳じゃないし……。


「……あのね。繭たん。……と、友達になってほしいなって」


「はへっ? えっ、友達って」


「だからさぁ私ずぅと繭たんの事気にしてたんだぁ。なんかさぁ、ほかのクラスの子たちよりずっと大人びていて、そのくせ、見た目可愛いじゃん。もしさぁこんな人が私と一緒にいてくれたらなんだか胸がキュンとなってしまうんだ。ごめん、なんだか本当に私の我儘わがままばかり押し付けちゃっているよなんだけど」


我儘ねぇ……。


ふぅ、でもさぁ繭。こうして、友達になってほしいって言われたの初めてじゃないの?

向こうの学校にいた時も友達って言える人なんかいなかったよね。

ずっと一人だった。


その方が気が楽だったから? ううん、友達作ってもあの頃の私には一緒に遊んだり、バカやったりする余裕がなかったんだよ。


でも……今は。


今はどうなの繭。今は余裕とかじゃなくて、本当は友達と言える人が欲しいんだよね。

なんでも話し合えて、バカみたいなこと平然と話し会えたり出来る友達。

でもなんかちょっと怖い気もする。


本当のこの私の事を知ったら、きっと離れて行ってしまうんじゃないか。

それなら始めからそんな友達なんか、作らない方が良かったなんて後悔するんじゃないのか。


水瀬さん。水瀬さんとは浩太さんの事で色々複雑なんだけど。でも友達だよって言ってくれた時、私は物凄く嬉しっかった。


でもさぁ、本当かどうかは分からないけど、浩太さんと水瀬さんが……。水瀬さんが浩太さんの呪縛を解いたんだとしたら、もう私は水瀬さんとは友達としては付き合えないんじゃないのかなぁ。


浩太さんの事は……。


そうだよね、高校生の私と浩太さんが、そんな関係になっちゃいけないんだよ。

何度も何度も、私は自分に言い聞かせていたじゃない。


……今さら。


「……あ、有菜。本当にいいの? 私ってこんなだよ、性格悪いし、人とはあんまり関わりたくないめんどくさがり屋だし。ぜっったい飽きるし後悔すると思うよ」


有菜はそんな私に抱き着いた。


「ううん、そんなことない。私だって同じだよ。クラスの子たちっとはあんまり関りは持ちたくはないし、めんどくさがりなのも一緒。でも、私、繭たんの事が好きなんだ。どうしても気になちゃってたまんないんだよ」


「有菜」

本当にいいの? 友達になって……


「繭……好き」


「えっ!」

有菜の唇が重なった。


「えへへへ、友達になった印」


「……あ、あのぉ有菜。友達ってそう言う友達も含んでいるの?」

「う――――ん。繭たんが許してくれるなら」

「出来れば私は普通の友達がいいかなぁ」

「あははは、じゃぁ、普通の友達からね。繭たん」


んー私の貞操は徐々に有菜に犯されるんだろうか? ま、いいかぁ。

……今さら。でもそっちの世界に足踏み入れて抜け出せなくなったらどうしよ。


なははは、そんなことはないよ……多分。きっと。


ふと時計を見るといい時間になっていた。

今日は浩太さん残業あるのかなぁ? 遅くなるんだったら、まだ余裕はあるんだけど、残業なかったらそろそろ夕食の支度始めないと。


浩太さんに連絡するつもりでスマホを取り出したんだけど、有菜がすぐに

「繭たん、登録しよ」

「あ、そっかぁ。いいけどちょっと待ってね」

とりあえず浩太さんに、残業があるかどうか連絡を入れてみた。


ピコーンとすぐに返事が来た。


「わりぃ、今日は2時間くらい残業になるなぁ」

「あ、そ。分かった」最近浩太さんへの私の返事はそっけない。


「なになに、彼氏?」

「そんなじゃないわよ。ただの知り合い」


「ふぅーん、ただの知り合いねぇ。繭たんの知り合いも知っときたいなぁ」

「えーとそのうちね」と言いながら、有菜がアプリに登録された。


「えへへ、これでいつでも繭たんと一緒だよ。私にはいつでも遠慮なく連絡していいから」

「フーン、じゃしている時でも返事くれるのね」


「えーとねぇ、実はさぁ……今その相手もいないんだぁ。だから大丈夫だよ」

あらら、なーんだ。


「でさぁ、今日うち親いないんだぁ。夕食外食でもしようかと思ってるんだけど、繭たんと一緒に食べに行きたいなぁ。一人だと寂しいし」


うーん外食かぁ。有菜と……


その時なぜか水瀬さんの事が頭の中に浮かんだ。


また浩太さんにスマホでメッセージを送った。

「今日、友達と外食することになったから、夕食外で食べてきて。……水瀬さんと一緒に」


どうして最後に水瀬さんを出したのかは分からないけど、無意識に彼女の名前を出して送ってしまった。


それから、浩太さんからの返信はなかった。



「な、なぁ水瀬……」

「なんですか先輩」


「これ繭からのメッセージなんだけど、彼奴何か感づいてるかもしんねぇ」

そのメッセージを水瀬に見せた。


「先輩、やばいですかねぇ」


「……んー。多分」


ちらっと部長のマリナさんの視線が、俺たちに注がれた。

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