第46話 悪女にご注意 ACT1

ピコーン!

マリナさんからメッセージが来た。


浩太さんと夕食を食べた後、私は最近すぐに自分の部屋に戻ってこもっている。


浩太さんの熱はあれから劇的に下がって元気になった。

やっぱりあの特別特効薬は凄い効き目だ。


と、思っていたが、浩太さんはもっとすごい特効薬を貰っていたようだ。


「もう寝てる?」

「起きてますよ」

「今は浩太のとこなの?」

「自分の部屋ですけど」


「よかった。あのさぁ、私達のあの協定覚えている?」

「協定? ああ、浩太さんと何かあったら私達三人は隠さずに話す事っていう事でしたよね」


「そうそう、それでね、これはまだ裏は取れていないんだけどさぁ、水瀬さん浩太と大きな進展があったみたい」

「進展って?」

「んーとね……」アプリが通話に変わった。


「ごめんごめん、スマホで入力するのめんどくさくなっっちゃった。日本語って面倒なんだもん」

なははは、やっぱりマリナさんは英語の方が楽みたい。


「で、その進展って何ですか?」

「いい、繭ちゃんしっかりと気を持って聞いてね」


「ええッと……はい」

傍に置いていたジュースを一口口にして

「あのねぇあの二人、多分やったわよ」

思わず口にしたジュースを吹き出した。


「やったって!!! それってセックスしたっていう事ですか?」


「ぬふふふ、多分ね。私のこの観察力は伊達じゃないわよ」

ま、まさかあの浩太さんが水瀬さんと……


「な、何でそう言えるんですか……、だって浩太さん生身の女の人だと拒否反応出るんですよ。私が抱き着いただけでも物凄い拒否反応出てたんですから」


そうだよ、浩太さんはあの時、いきなりトイレに駆け込んで真っ青な顔して出て来たんだよ。

その時に初めて知ったんだ、浩太さんいはそう言う事は出来ない男性ひとだっていう事。


でも最近はちょっと進展してきたんだと思っていた。ちょっとだけ……。

私とキスが出来るようになった。でも軽くだよ!!


軽くのキスだよ。あんなベロベロじゃないよ!!


それが何でいきなりセックスするまで発展するの?


それが水瀬さんだから?

「でも本当なんですか? それってあくまでもマリナさんの推測なんですよね。その場にいた訳じゃないですよね。実際に見ていた訳じゃないですよね!!」


「ちょっと繭ちゃん落ち着いて。そうよ私も見ていた訳でもないし本人たちから訊いてもいないし……もしさぁ私がその場に居合わせたらゼッ――――タイに私も一緒に混ぜてもらってたわよ!! まったく私が迫った時はあんなに尻込みしていたのに……」


「えっ! 何だって? マリナさん……」


「あ、うううぅっ。な、なんでもないわよ」


「でも、それが本当だとしても、私には、か、関係なんか無いじゃないですか。浩太さんが水瀬さんとどうなろうと私の知ったことじゃないし、それに、私と浩太さんはそんな関係じゃないし……。でもああ、なんだかイライラするんですけど」


「わかるわぁ、その気持ち。でもさぁ繭ちゃんいいのぉ? 浩太がこのまま水瀬さんとゴールインなんてなちゃっても」



「関係ないもん!!」



何かが頭の中でブチっと切れたような。

通話を切ってしまった。


その後、マリナさんスタンプと一緒にメッセージが送られてきた。

「あらら、怒っちゃったぁ? 可愛い」


生身の女には拒否反応をしていた浩太さんが、もし本当に水瀬さんを抱いたなら、それは浩太さんが何かしら変化したというか、前進したと言うべきなのかもしれない。


だけどなんか無性に腹が立つのはなぜだ!!


水瀬さんからは何も言ってきていないし、あの協定が守られていればの話だけど、それにここ数日水瀬さんの姿を私は見ていない。


何となく避けられているような感じもする。


やっぱり本当の事なんだろうか……。





ポキ、ポキ、カチャカチャ

シャープペンシルの芯をおっては出しての繰り返し。

ここ数日授業なんか上の空だ。


今日の授業がようやく終わり、いち早く学校から抜け出そうと玄関に向かう途中、私は呼び止められた。


「あ、梨積なしづみさぁん」


帰ろうとした私をクラスメイトの、えーと誰だっけ? んー名前が思い出せない。まぁほとんど、クラスとは馴染んで……いない私だから仕方がないか。


「はい、何か?」

「えーとね、さっき先生が職員室に来るようにって言ってたんだけど」

「ええ、っと。先生が?」


「そう先生が……。えへ」ちょっと頭をかしげてニコット笑う。


えへ? えーとマジ誰だっけ? このぶりっ子丸出しの子は?


「あのぉ急いだほうがいいですよ」

「あ、そうなんだ」


まったく、こんなところには一秒たりとも長くは居たくないのに、しょうがないか。


「ありがとう、じゃ、ちょっと行ってくるね」

「はぁ―い!」


にこやかに手を振りながら私が職員室の方に向かうのをずっと見送っていた。

しかしだぁ、あんな子うちのクラスにいたっけ?


そんなことを考えなら、職員室のドアの前で足をピタリと止めた。

どうもこの職員室と言う空間は私は馴染めない、いや、拒否反応ありありなんですけど。


「はぁー」と、ため息を一つして「失礼します」と、遠慮気味に声に出して職員室のドアを開けた。


職員室ってさぁ、教師が集まる部屋だよね。つまりは教師と言う職業の仕事の場と言う感じがするんだよね。

一瞬先生たちの視線が一気に、私の方に集中している感じがする。


「おお、梨積よかった間に合ったか。もう帰ったかと思ったよ」


なら呼ぶな!


「なぁ、もうちょっとにこやかに行かねぇか? なんかここ最近いつも怒った感じに見えんだけど、なんかあったか?」


「何もないです」

「そうか、それならいいんだけど」


どうせ私の顔はいつも怒ったような顔していますよ。プンプン!


「ところで、鷺宮先生さぎのみやせんせい覚えているか? て、覚えているよな。前の学校でお前の担任だったんだから」


「忘れるわけないじゃないですか」


そうだよ忘れるわけないじゃない。だってずっと私の事心配してくれていた唯一の先生なんだもん。


「昨日偶然、街中で彼女と出会ってな。なんでも神奈川の高校退職してこっちに戻ってきているみたいなんだ。なんかここ最近体調がずっと悪くて、教師を続けられなくなったらしい」


「えっ、本当ですか」


「ああ、彼女の実家こっちの方だからな」


「でもどうして鷺宮先生の事知っているんですか?」


「ああ、大学同期なんだ。昔はもっとふくよかでナイスバディの綺麗な女性ひとだったんだけどなぁ。髪も長くて綺麗でいい感じだったんだけど、大分やつれてたなぁ。それにあの長かった髪もバッサリと切っちゃって感じ大分変っていたけど。お前がいたときも体調あんまし良くなかったのか?」


「ええまぁ、体弱い方だって言っていましたから」


「そうか、まぁ偶然だったんだけど、彼女のいた高校とお前がいた高校が同じだったから、お前の話題になってな。会いたがっていたぞ彼女」


「そうですか……」

「ほれ」

先生は一枚の紙に書かれたメモを渡してくれた。


「彼女の実家の住所。尋ねてみるといい、喜ぶぞ」


メモに書かれた住所。

そこは学校からそんなに遠くなかった。



会いたい気持ちもあるけど、会えば向こうでのことを思い出しそうで正直怖かった。


ようやく忘れかけていたあの頃の事を……。

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