第29話 雨宮マリナ ACT2
ピコン!
「あ、浩太さんからだ」
て、来るのは浩太さんか水瀬さんしかいないんだけど。
「夕食新任の部長の歓迎会で呑み会あるから夕食は大丈夫。水瀬もいらないから大丈夫」
あらま、今日は新任の部長さんの歓迎会ですか。という事で夕食はいらないと……ん、水瀬さんもいらないから大丈夫? この大丈夫ってどういう意味なんだろう。ま、でもそうなると夕食準備するのなんだかめんどくさいなぁ……。
ああ、私一人分作るのってホントめんどくさい。
確か浩太さんの所にカップ焼きそばあったなぁ。それで済ませちゃおう。
よし、繭にはちゃんと連絡した。
今日の歓迎会の場所もちゃんと予約してある。
さて、後は定時になってみんなを連れ出してと……。
「あれぁ、何そんなに真剣な顔してるんだよ。似合わないよ山田」
「あのなぁ、長野。真剣な顔して似合わないなんて言われると、いかにも俺っていつもへらへらしているように聞こえるんだけど。気のせいいかな?」
「んー、いつもはへらへらしてはいないけどね。顔の表情はころころ変わるから見ていて面白いよ」
「そうかそうか、俺の顔はそんなに面白いか」
「どうしたんだよ。なんかいつもと雰囲気違うよ。やっぱ、プロジェクトリーダーに昇格したから雰囲気変えたんだ」
「そんなことはないぞ! いたって俺はいつもの俺だ……ただ」
「ただどうしたんだよ山田」
「なぁ長野、今日の歓迎会俺の横に座ってくんねぇ」
「何で? 僕は水瀬さんの隣がいいなぁ」
「じゃぁ、その隣に水瀬を座らせるからさぁ」
「それって何か意味があるの?」
「防衛策」
「ええッと良く分かんないんだけど」
「いいから頼むぜ長野」
「分かったけど、僕は早めに切り上げるからそこんとこヨロシク!」
「よろしくって、彼女か?」
「ま、そんなとこかなぁ……」ニタつきながら部長の方をちらっと見て長野は俺から離れた。
長居は無用。突っ込まれる前に退散するという、この長野のスタンスは流石だ。
ガードは固めておかねぇと、あの部長何けしかけてくるか分かんねぇからな。
今日のあのミーティングの最後の一言。
「山田君、今日は楽しもうね……いろいろと」
そのいろいろって何だよ。しかもあのにんまりとした顔で言われると、逆らえねぇ。
と、さんざん警戒していたが、いざ歓迎会が始まるとなんのことはない、俺の単なる思い過ごしの様だった。
うちの課のオフィスの連中と、まともに飲む機会なんてほんと数少ない。まして新任のあの雨宮部長の歓迎会となれば、それなりにみんな身構えて参加しているのがありありと分かる。
始めは部長、部長と、よいしょで始まり酔いが回ってくれば部長のお相手は俺に回ってくる……と、思っていたが意外にも、こういう場での雨宮部長はみんなから引く手のあまたと言うか、いやいや、予想以上に盛り上がってよかった。
しかし雨宮部長がこれほどまでに酒に強いとは思ってもいなかった。
あの酒豪の長野が感心するほどだ。
「凄いねぇ、雨宮部長。あれでもう立て続けに7杯目だよ。でも日本酒が好きだなんて、意外だなぁ……このまま飲ませたら一升瓶飲み干すんじゃない?」
「ああ、俺には出来ねぇな」
ちびちびと生ビールを口に運びながらつまみをあさっている。
「先輩、私なんか物凄く気持ちがいいんですけど……この後ホテルいきませんか?」
そっと水瀬が耳打ちしてきた。
「馬鹿言うな、そんな気分……いや生身の女は受け付けねぇって知ってんだろ水瀬」
「なはは、生身でもコスしてたら受け付けてくれるかなぁ」
「はぁ、お前は黙って飲んでろ、ほれ、お代わりが来たぞ」
「ふぁぁぃ。了解しました。水瀬飲みま―――す」
「ぷはぁ、もう一杯!」
おいおい飲めとは言ったが飲み過ぎじゃねぇのか水瀬。部長よりも水瀬の方が心配になって来た。
そして部長を取り囲む集団からどよめきが起きる。
「おおお! 部長いけますねぇ! ささ、もう一杯。あれ、もう空じゃないか、ついにやりました部長一升瓶制覇です!」
「ああ、ほんとに一升瓶飲んじゃったよ。やるねぇ、可愛い顔して新任の部長様は」
長野はちらっと腕時計を見て
「山田僕はそろそろ姿を消すよ。あとはよろしく!」
「おいおい、長野。もう行くのかよ」
「そんな不安そうな顔すんなって、もうじきここもお開きの時間じゃないか。あと少しの辛抱だよ。それじゃ」
長野はそっといかにもトイレに行くようなそぶりで帰っていった。
まぁでもああやって、盛り上がり集団の中に部長がいる限り、俺の出番はないだろうな。良かった良かった。
ホッと安心したのもつかの間
「ねぇ先輩……ホテルがいやだったら私の所に来ません? 先輩好みの衣装着てお相手しますよ」
また水瀬が俺の耳にそっと語り掛けて来た。
「お前んとこ行くなら俺は自分の所に帰る」
「ええ、それじゃ私も先輩の所に行きます」
「こんな酒くせぇのが二人もいったら繭が嫌がるぞ」
「ええ、そうなんですかぁ、繭ちゃんの事心配してるんですかぁ、先輩。なんだかんだ言っても繭ちゃんなんですね」
「もういいだろここであんまり繭の事話すなよ」
「そうですよね秘密ですもんね。へへへ、先輩の秘密私握ってるんですよね……えへへへ。あ、済みませ―――ん、同じのお代わり!」
「おい、ペース早すぎねぇーか」
こりゃ部長より水瀬の方が本当に心配になって来た。
その時ふとあの集団の中心人物。つまりは……雨宮部長、多分そうだ俺を見つめる視線、その視線から感じる「うフフフっ」と言った言葉がテレパシーの様に聞こえてくる気がする。
背筋がゾクッと電気が走ったような感じが俺を襲った。
さながら、トラが目の前の獲物を捕獲しようと、じっと草むらに隠れているようなそんな感じがする。
来るのか。
俺の方に雨宮部長が来るのか?
じわりと汗がにじみ出てくる。なぜ俺はこれほどまでに彼女を意識しているんだ。
「きゃははは! ヤダぁ。そんなんじゃないですよう、皆さん」
いきなり部長が笑い出し、場の雰囲気がまた盛り上がる。
俺の気のせいだったか……。
「……せんぱ――――い!」と言いながら水瀬が俺に寄り掛かってくる。
その姿を一人が見て、「おいおい、山田、お前水瀬を独占かよ。まぁ先輩後輩の恋愛関係の中だからな、大丈夫だ。みんな知ってんからお前ら二人の世界はこのままそっとしてやるよ」
「何言ってんだ、俺と水瀬はそんな関係じゃねぇって」
と、言ったところで、この状況はどうにも否定しがたい状況だ。
もう水瀬は限界だ。
時間もちょうどいいころ合いだった。盛り上がってはいたが解散の時間だ。
店を出てから「部長、2次会行きましょうよ2次会。山田も来るんだろ」
俺も部長の取り巻きどもに誘われたが、水瀬がすでに限界を超えていた。
「わりぃ、水瀬もう限界だから俺送っていくよ」
「おお、ようやく山田も素直に水瀬の気持ちを受け止められるようになったんだ」
「だから、そうじゃなくて……」
ああ、オフィス内では俺と水瀬、完全に付き合っていることになってるぞ。
やばいなぁ……。
「ねぇ、水瀬さん大丈夫?」
部長が心配そうに言う。
「せっ、先輩、私きもち……」おえぇぇぇ!
ああ、やっちまいやがった。しかもよりによって俺のシャツめがけて発射させるとは……。
「ずみません……先輩のシャツ汚してしまいました」
「いいから、ほらタクシー止まったぞ」
俺と水瀬がタクシーの後部座席に乗ると、反対のドアから部長が乗り込んできた。
「え、部長。2次会行くんじゃないですか」
「いいから、いいから。それよりまずはあなたのそのシャツ何とかしないとね。水瀬さんのご自宅もあなたの近くだったでしょ。さっ行きましょ」
て、行先ってもしかして俺のアパート?
この状況……繭が見たらなんていうんだろう。
あ―暇だなぁ。
浩太さん帰り何時くらいになるんだろう。ベッドを眺めながら
ちょっとだけならいいよね。うんいいよ大丈夫。
ああ、この枕、浩太さんの匂いがする。
この毛布も……、浩太さんに包まれている感じがする。
「ああ、やっぱり私浩太さんの事、好きになっちゃったのかなぁ」
ドキドキが止まらない。こんな気分になるの本当に久ぶり。
いけないよね。やっぱり浩太さんを好きなっちゃいけないよね。
でも……今だけ、このモヤモヤすっきりさせて。
「あん……、ウっ、ああああ。…」
ぐちゃ。「もうこんなに……」でも30分も粘ったけど結局イケなかった。
「ああ、シーツまで濡らしちゃった。後で替えておこう」
でもこのムラムラなんだかまだ続いているのが嫌だ。
そうだゲームで……。エロイやつでもやってみますか。
で、その結果イロゲーに夢中になって。
「んー、この展開。もしかしてこれはレズ突入? ああ、どこでこういう展開方向に向けさせちゃたんだろう。でもこのゲーム百合系だったけ? 奥が深いなあ」
でも今の私のこの状態もろオタク?
ポテチ片手にドクペ飲んで、あぐらしてイロゲーに勤しむ女子高生。
ありえんわ!!
でも、実際にここにいる……。
シーツ替えるのまだ後でもいいかぁ。なんて事、もうとっくに忘れていたりして……。
あんなに恥ずかしい……、ついてんのに。
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