第30話 雨宮マリナ ACT3
「部長、どうして水瀬と俺のアパート近所だって言うの知っているんですか?」
「あら、部下の身辺調査はもう全部調査済みよ。何か?」
「そこまで調べ上げていたんですか」
「当たり前じゃない。私の大切な部下なんですもの。それくらいの事はちゃんと調べておかないとね」
「はぁ、そんなもんですか」
「そうよ」
と言っている間に俺のアパートの前でタクシーは止まった。
「ほら水瀬着いたぞ」
「ふぁぁい、先輩……先輩……だぁい好き」
水瀬を抱えてようやく部屋の前に行くと
「山田さん電気ついてますよ。消し忘れていたんですか?」
部長が何気なく指摘する。
あ、繭いるんだ。
こんな状況彼奴が見たらなんていうだろう。
はじめてあった時みたいに
臭い! なんていうんだろうな……ははは、仕方がないか。
ドアを開けた。
と言うよりもドアが開いた。
繭が中から開けて来た。
「おかえり浩太さん……あれまぁ、水瀬さんどうしたの?」
「ああ、水瀬のみ過ぎて潰れちまいやがった」
「ああ、繭ちゃん……繭ちゃん私大好きぃぃ!!」
繭に抱き着きながら顔をすりすりとする水瀬。
「ちょっと水瀬さん、……うぁわ、お酒くさっ!」
「あれあれ、山田さんどうしたんですか? こんなかわいい子が山田さんの所にいるなんて、確か山田さん一人暮らしのはずでしたよね」
「ええッと……そのなんと言うか」
「オゥ! 山田さん実は同棲していたんですね。こんな可愛い子と」
ど、同棲って言うかなんというかその……。いい訳が思いつかん。
「あのぉ……、誰?」
繭が部長の事を不思議そうに見つめている。
それもそうだろ、なにせハーフの顔立ちにあの長い金髪。目立つわなぁ。
「申し遅れました私、山田さんの上司の雨宮マリナと言います」
「はぁ、
「うっ……。吐きそう」
「やばい!繭水瀬をトイレに」
「え、あ、分かった」
何とか水瀬をトイレに突っ込んで、吐かせるだけ吐かせてやった。
気が付けば俺と部長は部屋の中に入っていた。
「わぁお、山田さんにこんな趣味があったんですね。私、日本のアニメとても好きなんですよ。でもみんな女の子キャラばかりですね」
「あ、ええ、っとなんと言うかその……、まぁそう言う訳でして……」
「何も恥ずかしがることはないですよ。オタクは文化です。特に日本のオタク文化は高水準です。あ、山田さんゲームもいっぱい持っていますね。それも……いやらしいのぉ!」
なまめかしく俺を見つめる部長。
「オゥー、これ私も持っています。とてもいやらしいですよね、このゲーム」
おっとと、この部長なんなんだ。いやこの人か? 持ってるってやっぱこれか『お医者さんごっこ』このゲーム意外と俺の周りに影響あるんだ。
「ふぅ……」
「水瀬さんお水飲む?」
「ごめんね繭ちゃん」
何とか出せる物出し切ったようだな。
「ああ、浩太さんシャツ汚れているじゃない」
「あ!」そうだすっかり忘れていた。水瀬に直撃くらわされたんだった。
「どうりでで匂うと思ったよ。早く着替えて、それよりもシャワー浴びてきてよ。もうこの部屋の中匂い充満しているよ」
んー繭の奴ご機嫌斜めだな……、だよな。酒飲んできて、女性を二人も連れ込んできたんだから……。んーでも初めての時よりはまだいいか。あの時はぼろくそ言われたからな。
で、繭の視線は雨宮部長の方を向いている。
部長は床にペタンと座り、ゲームのパッケージを手に取ってみていた。
「んー、さすがにこれだけエッチなゲームばかりだと、なんだか山田さんのセックスライフがとても心配です」
「あはは、あんまり見ないでくださいよ部長」
繭が台所に俺を連れ込んで耳元で
「何で会社の部長さんが一緒なの?」
「ええ、っとなんて言うか、成り行きで……」
「もうそれに浩太さんが一緒にいながら、水瀬さんにあんなに飲ませたら駄目でしょ」
「面目ない……」
なんとも胸が痛い。
「ねぇねぇ、山田さん。えーと確か繭さんって言ったかしら。繭さんは山田さんの彼女なの?」
「ええ、つっとですねぇ。彼女と言うかその……」
返事に俺が困っていると繭が
「いいえ違いますよ、私はただの隣の住人です。ちょっと訳あって、山田さんと半共同生活していますけど」
「なぁーんだそう言う事なんだ。それじゃ水瀬さんとしか付き合っていないんですね」
「ですから部長、俺は水瀬とはそんな関係じゃないですって」
「いいの、いいの。私物凄くそう言うの理解あるから。それに私好きになったら彼女がいても大丈夫。彼女が許すならなんでも出来ちゃうから」
なんでも出来ちゃうって? おいおい、何を言っているのかなぁ部長は。
「ねぇ山田さん。私あなたの事好きよ。会社では上司だけどプライベートでは
Loverって、恋人?
「ちょっと、ちょっと待ってください部長、そんないきなり」
「駄目ですよ部長!! 先輩は私と繭ちゃんの共有物なんですから」
水瀬がむくっと起き上がって叫んだ
共有物って……、俺はの物か?
繭の視線がさすように貫く。そんな繭を見て部長が
「ああ、やっぱり繭さんも山田さんの事好きなんですね。さっきからジェラシーもろ出しでしたからね繭さん」
「そ、そんなことないですけど……。もう知らない」
ああ、マジで繭をスネらかしてしまった。
生身の女を愛せない俺の部屋になぜか生身の女が三体、いや、三人もいる。
どうしたものか?
水瀬の告白も唐突大胆だったが、部長のはそれを上回る究極展開だ。
「部長それは困ります。俺、実は生身の女苦手なんです」
「???? それはどういう事? 山田さんってもしかしてゲイ?」
なんか誰かに同じようなこと言われたなぁ。
「いやぁゲイじゃなくて、なんていうかそのですね。これにはいろいろとありまして……」
「ねぇねぇ、浩太さん。部長さん寝ちゃったよ」
えっ!
さっきまで普通に話していた部長は、糸が切れた様にぱたんと床に寝入ってしまった。
「なんか物凄い極端な人だね。やっぱ外人さんってこんな感じにドライなのかなぁ」
「いや俺にも分からん。さっぱりわからねぇ」
「はぁ~」と繭と二人でため息をついた。
「で、どうするの、この二人?」
水瀬は自分の所に……、あ、水瀬ももうつぶれてる。
さすがに部長をこのままにさせておくわけにもいかない。
起こそうとしたが、もう完全に寝入ってしまっている。まあ日本酒一升瓶飲み干してたからなぁ。
「二人とも駄目だな。しょうがないから部長は俺のベッドに寝かせてやるか」
「んー、浩太さんのベッドに寝かせるの?」
「ん、このままじゃいくら何でも風邪ひくんじゃねぇのか」
「水瀬さんはどうするのよ。それとも二人とも『浩太さんのベッド』に寝かせるつもり?」
「嫌か?」
「嫌……、て言うより、私浩太さんの彼女でもなんでもないし……」
繭は下を俯いてぼっそっと言う。
まったくうこういう時の繭ってわかりやすいな。
二人に毛布を掛けてやり、その場で寝かせることにした。
「で、何で繭は俺のベッドにこんなにこだわったんだ?」
その一言が地雷を自ら踏んだことに気が付いたのは、繭の唇が俺の唇と重なった瞬間だった。
「浩太のバカ!」
……だって、シーツが……。
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