第20話 水瀬愛理 ACT1
あれから1週間、繭の熱騒動も何とか落ち着いた。
次の日も繭は学校を休むように連絡をさせた。それからは元気に登校できるようになった。
学校への連絡も熱を上げた日は出来ずじまいだったので、担任は心配していた。
最も繭のスマホは契約解除されているから、通話ができない。
まして今は昔のように公衆電話が近くにある訳でもない。
携帯、スマホの普及は、当たり前にあったものをいつの間にか消し去っていた。
俺のスマホから、とりあえず学校には連絡させることは出来たが、やっぱり、この前のようなこともあるし、連絡を取れる環境は作らないといけないのは確かだ。
「なぁ、繭。お前のあのスマホ再契約して通話できるようにはしないのか?」
繭は少し表情を曇らせて
「う、うん……やっぱりこういうのないといけないのかなぁ」
こういうのとは通話ができるスマホの事だ。
「まぁな、この前の様に急に熱上げてしまったり、なんかあった時には連絡出来る物があった方が便利というか、やっぱり必需品だな」
「そうかぁ……。必需品かぁ」
曇った顔が何となく困ったような表情に変わる。
「なんか訳ありだったら無理にとは言わねぇけど」
「……うん」
どうやらあのスマホは、そのままにしておきたいらしい。
まぁスマホの契約は、未成年だと親の承諾がないと契約が出来ないのもある。
繭の親は……。やっぱり親と上手くいっていないんだなぁ。
だから契約もしたくない。……のかもしれない。と、勝手な想像をしているが、さてどうするか?
繭が揚げてくれた唐揚げを『あむっ』と口にほおばる。
じゅわーっと中から肉汁が出てくる。
マジ旨い。この唐揚げ食ったら、お惣菜や居酒屋のから揚げなんか食えなくなるなぁ。
その後に喉に流し込む缶酎ハイがなんとも言えない。
「ほんと浩太さんていつも美味しそうに食べるよねぇ」
「いや、マジでうまいからだよ」
「嬉しいなぁ、そう言って喜んでもらえるなんて。作り甲斐があるよ」
頬杖をしながら俺の顔を眺める繭。
にヘラとほほ笑むその顔には、18歳とは思えない女としての色気みたいのを感じさせた。
「なぁ繭」
「なぁに浩太さん」
「あのなぁ、明日俺も仕事休みだし、学校も休みだろ」
「うん、そうだね。今夜はゆっくりできるね」
「ま、まぁな」
「あ、そうだ! それなら孕ませちゃう?」
うぐっ!! 口にした酎ハイをもう少しで吹き出しそうになるのを、やっとの事で押さえ
「な、何いきなり言うんだ、高校生で孕んで学校に行く気かお前は」
「はへぇ?」
「なははは、私はそれでもいいんだけど浩太さんとなら……なんてね」
また俺をおちょくっているような口調で言う繭。
「馬鹿言うな、それこそ大問題だ!」
「そぅお?」と言いながらくすっと笑う繭。
「そうじゃなくてさ、ゲームだよ。次のステージそいう感じになだれこみそうだったじゃない」
はぁ、ゲームの事かよ。俺は一瞬真面目に繭の奴、その気でいるのかと思っちまったよ。
いかんいかん、高校生相手になんてことを俺は考えてんだ。
ぐびっと缶酎ハイを喉に流し込む。
「あのさぁ繭、明日俺に付き合わねぇか?」
「ん? もしかしてそれはデートのお誘いですか?」
「ばぁ―か違うよ。ちょっと買いたいものがあるんだが、お前にもちょっと協力と言うか、今どきの女性っていうのかな、好みを教えてもらいたいんだ」
「それは私に見立てろという事のご依頼でしょうかね」
「まぁ、そう言うところだ」
「て、いう事は、浩太さん生身の女性に何かプレゼントでもしようと思っているんですか」
「あ、いや……プレゼントという訳じゃねぇんだけど、世話なってる人にな」
「ふぅーん」
何となく違和感を持ちながらも繭は承諾してくれた。
その後やったゲーム。
見事に孕ませてしまいました。妹を……。
次の日俺ら二人は電車に乗って隣町まで出ようとしたが、ふと駅の施設の中にも確かショップがあることを想いだし、近場で済ませようとそのショップに向かった。
「ねぇ、浩太さん……あ、山田さん。ここって携帯ショップですよね」
「ああ、そうだな」
「スマホ新しいのにするんですか? あ、昨日言っていたことですね」
「んーまぁどうでもいい。繭お前がもし使うとしたら、どれがいいか選んでくれないか」
少し困惑した顔を見せながらも、繭は綺麗に並べらているサンプルスマホの本体を手に取って色々見始めた。
「ま、ちょっと見ていてくれ、俺別なもの見てくるから」
大手の家電量販店の中にあるスマホコーナーを離れ、最近ちょっと動作が鈍くなってきたPCのパーツのコーナーへを向かう。
ここんところ何となくPCの動作が鈍くなってきたような感じがする。
そろそろスペックアップも検討しないといけないのか。
とりあえずはメモリの増設をしないといけないのは確かだ。
鍵付きのショーケースの中に展示されているメモリを眺めながら
「意外と高いなぁ」と漏らす。
まぁメジャーなメーカー品だからな。ネット通販なら同じ規格の物でももっと安価なものがごろごろしている。
今回はネットで注文するか。まぁその方向性を見いだせただけでも、ついでに見た価値はあったかもしれない。
「あ、居たいたいた。山田さ―ん」
繭が俺を呼びにやって来た。
「いいのが見つかったのか?」
「うん、ちょうどいいの見つけたけど、でも私の趣味だから大丈夫かなぁ」
「まぁ、いいだろう」
二人でスマホのコーナーに戻り繭が手にしたのは、今人気の最新モデルでなく、ごく普通のスマホだった。
「これかぁ、ちょっと地味じゃないのか? あっちの最新のモデルの方がいいような気もするんだけど」
「なはは、私あんまりスマホには興味ないんだぁ。だから実用的って言うかさ、山田さんが使っているスマホと、同じメーカーで選んじゃたんだよ」
「んん、まっいいか」
「でさぁ、これだとあんまり彼女は喜ばないかもしれないけどいいの?」
「誰が彼女にやるって言ったんだ。確かに女性向けのスマホは選んでほしかったんだけどな」
多分繭はもう感ずいていたんだろう。このスマホは自分に与えられるものであると。本体価格もさほど高いものじゃない。機能としては俺が使っているスマホは、十分すぎるほど多彩な機能が備わっている。見てくれよりも実用重視としたらこの機種はあたりだろう。
「さぁて契約してくるか」
契約は俺の名義でサブ機として契約をした。
ネットも十分に使えるだけの容量を契約し、真新しいスマホにシムが装着され、通話機能付きのスマホが手渡された。
「これで終了です。ありがとうございました」と店員からにこやかに礼を言うのを見届けて、俺らはそのスマホをの入った赤い手提げ袋を手にして店を出た。
一緒にスマホ画面のフイルムと、ケースカバーも選んで清算しようとしたが、店員からスマホケースは無償で選べるもがあるというので、そっちに変更した。
「あと何かついでに買いもするものあるか?」
繭に訊くと
「んー、そうだなぁ。食材くらいかなぁ」
「そうかじゃ、スーパーにでも寄っていくか」
「うん。今日は何たべたい?」
「そうだなぁ、餃子。餃子がいいかな」
「餃子ね。よし、帰ったら餃子を作ろう!」
にヘラと締まりのない顔をしながらも、気合いだけは十分だ。
ぶらぶらと外を歩いていると繭との手がたまに触れ合う。
その手を繭がそっと握って来た。
「どうしたんだ?」
「べっつにぃ……手くらいいいじゃない」
照れ臭そうにしながら少しぶっきらぼうに繭は言う。
でもこんなところ、会社の連中に見つかったら騒がれるだろうな。
そんな思いを持ちながらも俺は繭の手を放そうとはしなかった。
そう言う時、そう言う感はよく当たってしまう。
後ろから声をかけられた。
「山田先輩……」
振り向くと、そこには
繭と二人の所を水瀬に見られてしまった。
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