第19話 つながり ACT3
「しかし不思議だなぁ」
「な、何がだ」
「いやぁ……なんていうかさぁ、あれからみるみる熱下がったじゃん」
うっ!
思わず繭とキスをしてしまった。
それから安心したように繭はまた目を閉じて、眠った。
どれくらい寝ていたんだろう。
汗が出始めてきて、息苦しさも徐々に楽になってきているのが分かるようになってきた。
此奴の体は極端すぎる。
熱を上げるのも一気だったみたいだったが、下がるのも一気に下がる。
ピッ!
37度6分
「熱下がったね」
「はぁ、よかったよ。とりあえずは着替えろよ」
「うん」
着替えは繭の部屋から持ってきておいていた。
布団から体を起こして、何のためらいもなく俺の前で上半身裸になった。
意識するな……と、思いつつも、あの白い肌に大きめの胸があらわになっているのをチラチラと目にしてしまう。
「おい、堂々と裸になるなよ」
「あへ、なんか今さらって言う感じでしょ。あ、それとももっと恥じらう乙女みたいな感じがいいの?」
「あのなぁ」
「へへへ、もういいもん。恥ずかしくなんかないし。私それほど純情でもないから。何ならオールで裸になる?」
まったく、熱が下がった途端これだ。
「もうどうでもいいから早く着替えろ。おかゆ作ってあるの温めてやるるから。食えるだろ?」
「うんうん、お腹も減ってるよ。山田さんのお手製のおかゆ早く食べたいなぁ」
……山田さんか。あの時は名前だったけどな。熱でうなされて無意識に名前で呼んだだけか。
な、何を期待してんだ俺は……。
ボーとしながら、おかゆを茶碗に入れている時、ポタリとおかゆが手に落ちた。
「あちち!」
「大丈夫ぅ?」
「ああ、なんでもねぇ」
まったく! ……でもよかった。
一時はどうなるかと思ってたけど、これで何とか落ち着くだろう。
「ねぇねぇ、あ―――んさせて」そう言いながら繭は口を開けた。
「甘えん坊だな」
「だってさぁ、こういう時でないと甘えられないでしょ」
「仕方ねぇな」そう言いながらも半面何となく嬉しい。
おかゆをスプーンで取り、ふうふうと息をかけて冷ました。
「ほれ!」
あむッと繭はスプーンに乗ったおかゆを口にする。
「ん―美味しいよ」
「喉には沁みないか?」
「大丈夫みたいだよ。さっ、次ちょうだい」
また口を開けて待っている。
この2日間ほとんどものを口にしていなかったのにこの食欲だ。
「こんだけ食欲あればもう大丈夫だろ」
「だね……でも、ほんと効いたね」
「薬か?」
「ううん、浩太さんとのキス」
「ば、馬鹿か」
「真面目だよ。キスされてから物凄く私、安心できたんだ」
にっこりとしながら繭が言う。
「浩太さんのキスはどんな薬より効いたんだよ。それに浩太……大丈夫だったね」
そう言えば……
「もう一度する?」
「……いやしねぇ」
「ええ、私のお薬ないのぉ?」
「ほれ、お前の薬はこっちだ!」
「だってそれ苦いんだもん。浩太さんの特製お薬の方がいい。それにもう一度キスしてなんともなかったら、生身の女に免疫できたっていう事でしょ」
「ま、まぁそうかもしれない」
「それじゃ……しよ」
繭は目を閉じてすっと顎を少し突き出すようにしながら俺の唇が自分の唇に触れるのを待っている。
あの時は何となく、繭の顔を見ていら引き込まれてと言うか、ほとんど無意識にキスをした。
こうして待ち構えられていると、なかなか体が動かないものだ。
そっと繭の方に両手を添えて……
まじかで見る繭の顔がなまめかしく感じる。この可愛らしい表情が物凄く愛おしく感じる。今までこよなく2次元の女性を愛してきたこの俺が、実際に存在する女性に自らキスをしようとしている。
ゆっくりと静かに繭の顔に俺の顔が近づく。
そして……
俺の唇は繭のひたいに触れた。
「えっ!」
思っていた場所と違うところに感触を覚えた繭は、少しきょとんとしていた。
「どうしたの?」
「女子高生にキスなんかできるか」
「ああ、したくせに!」
「あれは事故だ、いや、お前が言うように一度きりの特効薬だ。2度目は害になるからな」
「んもぉ!」
と、ちょっと口を尖らせる繭。
「それよりこっちの薬飲め」
「うぇ……苦いのヤダ!」
「良薬口に苦し、と言ってな苦いほど効き目はあるんだよ」
渋々薬を飲んで
「ねぇ、これから二人でいる時は名前で呼んでいい?」
布団をかぶり繭がぼっそりと言う。
「……こうしている時だけだったらな」
「うん、ありがとう」
そう言いながらまた眠ったようだ。
ふと俺の脳裏に蘇るある女性の面影。
もう彼女と別れて5年以上経つ。
大学時代付き合っていた彼女だ。
彼女いない歴イコール今の年齢。そう思い込んだのは彼女と別れてからだ。
俺は友香の事を愛していた。
将来を誓い合った仲。大学を卒業し、就職したら俺たちは結婚しようと約束していた。
だが、別れは突如にしかも一方的に訪れた。
大学卒業を目前に控えたある日
一言
「さよなら……浩太」と
彼女はそう言い残し、俺の前からその姿を消した。
いや、消したのではなく、俺との付き合いを解消したのだ。
卒業後、俺は友香に会う事も、連絡を取ることもしなかった。
それ以来彼女がどこで何をしているのかは分からない。
ただ俺の脳裏にあの言葉だけを残し、俺は生身の女性を愛せなくなってしまった。
「何を今さら彼奴の事を思い出しているんだ。友香はもう俺とは関係ないんだ。いつまでも……」
いつまでも、俺は友香の事を引きずっていた。
情けないが、5年以上もずっと友香の事をどこかで想っていたんだ。
もう戻ることなんかないことを、この俺自身が一番わかっているはずなのに。
ピピッ
「んー、36度8分。平熱だな」
「だね」
「よかったな」
「うん、おかげさまで助かりました」
うんんっと、座ったまま背伸びをして、すっきりしたような顔つきになった繭。
「ほんと一時はどうなるかと思いましたよ」
「おいおい、それはこっちのセリフだ」
「なははは、そうですよねぇ」
にヘラと笑う繭の顔。
「ま、でも今晩はこのままこっちで寝てろ。まだ熱下がったばかりだからな」
「え、いいの?」
「ああ、今晩までだからな」
「ええ、そうなのぉ? また熱上がらないかなぁ」
「おいおいやめてくれよ」
「なはは、それはそうと浩太さんのところでシャワー使わせてもらってもいい? もうからだ中べとべとで気持ち悪いんだけど」
「ああ、なんなら風呂入れてやるからゆっくりしろ」
「ありがとう。何なら一緒に入る?」
「ばぁーか入らねぇよ」
「ほんとにぃ―? 女子高生と一緒にお風呂に入れるんだようぉ。あるいみセックスよりエロイかも」
「あのなぁ熱下がった途端、俺をおちょくるんじゃねぇの! 布団お前の部屋に戻すぞ」
「えへへ、ごめん……浩太さん」
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