第11話 ばれてた……だから? ACT1

「あ、ちょっと待て、こらまゆ

「やだよぉ~ん」


んふふふ、そっちがその気なら、こちにも考えがあるぞ。

よっしこれでどうだ!


「ああああああああ! ずっるぅ――い! そんな裏技使うなんて」


「へへへ、これは防げねぇだろ」

これは俺が編み出した究極奥義だ。だてにシステム屋やってねぇぜ!


「なんの、甘く見るな女子高生! これが女子高生の力だぁ!」


「ドカァ―――ン!!」


「ああ、負けちゃったぁ」


コントローラーを持ったまま床に大の字になって「んっと」伸びる繭。


ベランダから入り込む風を心地よさそうに、その体全体で感じているように目を閉じた。


相変わらず此奴が着ているのは、ちょっと残念なプリント柄の半袖シャツだ。

腕を上にあげているから、脇からブラの一部が見えている。

赤紫いろのサイドのメッシュ部分が見え隠れしている。


「ねぇ、山田さん。そんなに見たいんだったらシャツ脱ごっかぁ」

「ばれてたか」

「うん、バレバレだよ。さっきからずっと私の脇ばかりに、視線が集中してたもん」


「ガンミしてたみたいに言うなよ」

「いや、あれはガンミしてたでしょ」

「してないって」


「もう、照れなくてもいいから。山田さんが少しでも生身の女に興味を持ってくれる様に私も協力するからさぁ」

「あのなぁ、それとこれとは違うぞ。それにお前に俺は求めていない」


「そうかなぁ、何となく求めてもいい様な気もするんだけどなぁ」

「また俺を茶化してるんだろ。ルール違反にするぞ!」

「ああ、私山田さんを茶化してなんかいないんだけどなぁ」

ちょっと口を尖らせたようにして言う繭。


「それでルール違反にするんだったら、さっきのゲームなんか山田さん違反だらけじゃないですか」

「ゲームと一緒にするな。ゲームはチートありきなんだ」

「なんだか良く分かんないんですけどぉ!」


プイッとすねてしまった。


まったくそう言うところはまだ子供だよなぁ。


「はいはい俺がわるぅございました」

繭の頭をクシュッとしてやった。


にまぁっと締まりのない顔がほほ笑んだ。


繭とこんな生活をするようになって、俺も大分変わったのかもしれない。

最近部長からのあの威嚇するような、鋭い視線を感じなくなってきた。

それに仕事も意外と早く終われるようになった。


いつもは、ほとんど毎日残業していたのが、今週はほとんど残業せずに定時近くで退勤できている。


これも繭の存在の影響なのかもしれない。


そんな俺の変化にいち早く気が付いたのが彼奴だ。

同期の長野勇一ながのゆういち

此奴はこういう事に関しては勘が鋭い奴だ。


「ねぇねぇ山田くぅーん。最近調子いいみたいだねぇ」

俺の背中から長野のなで声が聞こえてくる。


「気持ちわりー声で話すなよ」

「あはは、そんなに気持ち悪かったかい?」

「ああ、背中がゾクッて来たぞ」


「そんなこと言ったってさぁ、最近昼もなんだか山田こそこそ一人で済ましているし、ちょっと僕的には寂しんだよねぇ」


昼は……繭が弁当持たせてくれるようになってから俺は一人、社屋の外の公園で弁当を食っている。

オフィスや社食で俺が弁当をいきなり広げて見ろ、それこそ社内のいいネタの提供元になっちまう。


いくら自分で作るようになったなんて言ったところで、その言葉を信じる奴なんて誰もいないだろう。まぁ、その環境を構築してきたのは俺自身であるからそこはなんとも言えないが……。


でもまぁ繭の作る弁当は食べていてなんだか心が休まる。

毎日昼に弁当を開けるのが楽しみになっている。


初めて弁当を持たされた日、その蓋を開ける時すげぇ緊張したのを今でも覚えている。


感動もんだった。程よく甘く焼き上げた卵焼きに、定番のウインナー(タコさんウインナーだった)焼き魚があり、軽い塩分の漬物。多分前の晩に残しておいた煮物。そして梅干しが中央に乗った白い飯。


弁当の中がきらきらと輝いて見えた。


相変わらず、繭の料理の味付けは俺好み。

いや、日ごとに俺の好みにはまってきているという感じだ。


ペットボトルのお茶を1本買い、しっかりと噛みしめながら弁当を食う。

外で食べる弁当は、俺にとって程よいリフレッシュになっている。


まぁ、最近は繭の奴ちょっと悪戯が出てきているのが玉に瑕なんだが。

飯の上のふりかけが、ハートマークだったり、海苔で「ガンバレー」なんて書いていたりする。

おいおい、と思うが、悪い気にはなれない。


いや、……何となく嬉しい。


「でさぁ、山田、今日は昼付き合えよ」


「あ、いや、今日は俺、用意してあるからもう……」


「用意してあるって? もしかして弁当でも持ってきているのかぁな」

ギクッと背中に何かが走った。

「実はさぁ、僕訊いちゃったんだぁ、山田が公園で一人ニタニタしながら最近弁当食べてる姿をよく見かけるってさ」


うっ!


「多分さぁ、僕が思うに、その弁当ってコンビニとか、弁当屋のじゃないと思うんだよねぇやーまーだ」

「あー、えーと、まぁ」

「あ、もう昼休憩じゃん。今日は僕も弁当買ってくるから、一緒にどうだい? 天気もいいしさ、たまには僕も外で新鮮な空気に触れながら昼食べたいからね」


ニコニコしながら屈託のない顔をしやがって、俺の弁当の事探ろうとしてんだろう。だが、ここで断ったら此奴は怪しむだろうな……いや、変な風に誤解されるのもまずい。


「仕方がねえなぁ、最近見つけた俺の唯一の憩いなんだけど、今日は付き合うよ」

「そうなんだありがとうな山田」


此奴が弁当買いに行っている間にあの弁当の落書きだけは何とか消しておけばどうにかなるだろう。

だが彼奴はいつも俺の一歩先を行く奴。


外に出る前に、社食で販売している弁当を買ってくる? ん、つまりは俺と一緒に社屋を出るという事だ。これじゃあの繭の弁当をそのまま披露しないといけないじゃないか。


とにかく彼奴には中身は見せない様にしよう。


「ごめんごめん、さ、行こっかぁ」

「おう、そ、そうするか」


「やっぱりいいねぇ外は」


長野はさっき社食で買った弁当を広げ始めた。


「ん、どうしたんだい早く食べないと、時間なんかあっという間に終わっちゃうよ」

「ああ、そうだな」


しかたなく弁当を取り出し、長野に中身を見せない様にふたを開け、飯の部分を箸でかき消すように混ぜ込んだ。


今日は何書いていたのか、かなり気になるがそれを見ている余裕などなかった。


「あはは、やっぱりその弁当箱手作り弁当だね。そうか、山田もようやくまともな道に進み始めたんだ」


「あ、いや、これは違う……お、お袋が今来ているんだ。だから無理やり持たされているんだ。まったく仕方がねぇだろ」


「ふぅーんお袋さんねぇ。そうなんだ」

ニコットなんとも違和感のない、さわやかな笑顔をしながら


「あ、そうだ、それじゃさぁ今日僕山田の所に行ってもいいかなぁ。山田のお母さんにも挨拶したいし」


「な、何でお前が俺のお袋に挨拶しないといけねぇんだよ」


「別にいいじゃん、同期で同じ部署にいる身としては、ちゃんと挨拶しておかないと。いいだろ」


長野はふふふんと鼻歌を立てながら、弁当に箸を付けて総菜のコロッケを口にした。


はぁ、ちょっと待ってくれよ。そうなれば繭の存在が長野に知られてしまう。

俺はまだいいとしてもだ、繭が困るだろう。


ああ、繭に何とか連絡を取りたいが、彼奴のスマホは解約してるから通話が出来ない。こんな時連絡が取れないというのは物凄く不便だ。



さてどうする?

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