第211話 前略、幸運と人名と
「おーーい!リリアーン!」
なんたる幸運、なんたる奇跡。
ついてる。不幸な事故はあったけど、こんなにも早くリリアンと再会できるなんて。
「ね、なんとでもなるでしょ?」
「あぁ、やるじゃないか」
正直、あまりにノーヒントだったけど……
まぁでも、つまるところなんとなくだ。リリアンがなんとなく街の場所が分かるなら、あたしもなんとなくリリアンの場所が分かったとか。
そうゆう事にしておこう、よく分からないし。事実として運が良かった意外の回答はない。
「ここがねぇ……んー……やっぱり青くない!」
「確かに、どっちかといえば白いな」
森を除けばそんな感じ。
「いつもなんだかんだで助かるんだよね。運が良い、相変わらずの主人候補」
そう思った方がいい。いつだって、生き残るのは神様の気まぐれってやつだ。
「本当に運が良いやつなら、そもそも問題に巻き込まれないんじゃないか?」
「…………そだね」
まぁ、あたしは問題に自分から首を突っ込むのだ。
余計なお世話、ここに極まれり。
「さぁーーって」
あぁ、街だ。見回せばなんとなくミナトマチに似た街並み、リリアンの故郷。
でもとりあえずリリアンと本当の意味で再会しよう、距離を埋めて手を取り合おうじゃないか。
「先に行ってるよ!」
「あ、おい待てセツナ!」
お兄さんは置いて駆け出す。
んー……相変わらず良い顔、早く再会できて良かった良かった。
「…………」
声も良いんだ。
落ち着いてて、こう……冷たいってよりはひんやりって感じ。冷たすぎないそんな声。
んー、再会の喜びでハイになってる。
でも良いじゃないか。さぁ言葉をかわそう、喜びの言葉を!
「セツナ」
「うん、ただい「手は離すなと言ったはずですが」
「………………」
あっ…………これ結構本気で怒ってるやつだ。
「………………」
「弁明があるなら聞きます。えぇ、聞きます」
…………聞くだけだな、コレ。
聞くだけ聞いて、その上でしばかれ……いや吊るされる、手頃な木に吊るされる。
あれ怖いんだよなぁ……
「その……やっぱり怒ってる?」
「怒ってません」
ほう………………ダメだ、さっさと降参しよう。
「その……ごめん。誰かが襲われてる幻覚……だったのかな、でも襲われるのを見たから飛んじゃった」
「私に相談してからでも良かったのでは?」
「……そうだね、うん、ごめんね。あたしだけでなんとでもなると思ったんだ」
普通に叱られてる。
リリアンの浮かべる、やはりそうですか。なんて言いたげな表情。言いたいことは分かるけどなんか感情が読み取れない、怒ってるんだろうけど。
まぁ、今回もあたしが悪い。大人しく反省しよう。
「もっと人を頼りましょう」
「これでも結構頼ってるつもりなんだけどね」
「もっとです、もっと」
「ん、そうだね……ありがとう」
見た目は年下なんだけどさ。
こんな時にあたしを想ってこんな言葉をかけてくれるなら、本当はお姉さんなのかもしれない。
「さて、吊るしましょうか」
「………………え?」
あれおっかしいな……今、話が纏まらなかった?
なんでよ、そうはならないでしょ、なんで異世界人ってこうゆう時にバイオレンスな行動をしてしまうのか。
「宙づりにするのに丁度いい場所があるんです。きっと良い景色がみられます」
「…………やっぱり怒ってる?」
「えぇ、怒ってます」
ちくしょう、やっぱり怒ってるじゃないか!
てゆうか誰だリリアンにこんな知識を埋め込んだの。
中の人かそれともヒバナか、どちらにせよ次に会ったら引っ叩いてやる……強めに!
「自分を大切にしないことに怒ってます。私の前では特に」
そりゃ目の前で死にかけられるのは気分悪いだろうけどさぁ!
だからってそれに対して、お仕置きがあるのはちょっと違うんじゃないのかなぁ!?
「待ってよ!リリアンの故郷で、最初のイベントが吊るされるなんてイメージ悪くならない!?」
「なりません。これ以上は悪くなりようがないので」
なんてところに来てしまったんだ。
リリアンの故郷。人でなし、放火魔に不審者。寒いしとくに青くもない、やっぱり来るんじゃなかったなぁ!?
「まぁまぁ……リリ、あんまセツナをイジメてやるなよ」
お兄さん……!
まさか助けてくれるのかな。疑って、警戒して……さっき食べた劇物を渡してきた恨みで、すっ転ばせたというあたしを!
「あなたは……」
「あぁ、いや大丈夫だ。もうセツナとの挨拶は終わってる。それとおかえりだ、リリ」
「えぇ、ただいま戻りました」
良かった。
少なくともリリアンが普通に話してるなら、偽物って可能性はない。
不安は解消された、お説教も終わった。
でもまだ、本当は最優先したかった用事がある……!
「リリアン、水、お水ない?口の中が不快で仕方ないんだよ!」
「水……?」
「一応水分の用意ならあるんだが……」
「アレ食べた後にあんな色したもの飲まないよ!」
あの劇物を食べた後、お兄さんが取り出したのはパックに詰められた鈍い水色?をした液体。
飲まなくても分かる、絶対に不味い。あの森の水を飲むわけにはいかなかったから、ここまで水分補給なし。
「食べたんですね、アレを」
ここまでの流れで全てを察してくれたリリアン。
いつもの謎空間から、前にも見た水差しを取り出して渡してくれる。
相変わらずお洒落なデザイン。
本当は桶みたいなのに汲んで大量の水を流し込みたいんだけど、そうも言ってられない。
口開いて、ある程度の高さから流し込むとしよう。
「そういえば、なぜ森に?」
「あぁ、ヒバナの奴が『まだ負けてないわ!』なんて飛び出していってね、放っておいたら面倒事になりそうだったから着いていったってわけだ」
ゴクゴクゴクゴクゴクゴク。
「ふむ……それではぐれたというわけですね」
「そうゆうこった、話には聞いていたがなかなか危険な森なんだな」
ングングングング。
「えぇ、次からはお気をつけを。ですが気遣いはとても嬉しく思います」
「結局大したことはできなかったけどな、まぁリリとセツナの話が聞けたから良しとするか」
ゴキュゴキュゴキュゴキュ、ふぅ…………ようやく流し込めた。
ん?なんでさっきからお兄さんは、あんな下手くそなウインクを繰り返してるんだろ?
「お疲れ様でした、シオンさん」
…………ん?
聞こえた人名。
固まったお兄さん、キョトンとしたリリアン。
壊れた人形のようにぎこちなく、お兄さんの首がコッチに向く。んー……
「格好良いじゃん、シオン」
「忘れてくれ!」
いや……んー……なんか期待して損した気分。
普通の名前じゃないか、そりゃ女の子っぽいイメージはあるけどさ。
「十年くらい前までなら珍しいけど、今は全然普通だよ。シオンなんて」
「でもよ……俺の故郷では……」
まぁ、そうゆうこともあるのかな?
あたしの世界みたいな名前で、それがちょっと珍しいとかなんとか。
あたしからしたら普通すぎて羨ましい。
格好良くて可愛らしくて、いい名前じゃん。
「正直、めちゃくちゃ普通の名前だよ。そんなんで恥ずかしいとか……仲間だと思ってたのに!」
名字が時浦の時点でちょっと怪しいのに、名前はよりにもよって刹那。
刹那だぞ、刹那。家族全員、アレな感じの名前だけどその中でも刹那はやっぱりヤバい。
妹もアレだけど、刹那の方がヤバい自覚はある。
椎名先輩に会って好意的に受け入れられるまで、随分と長かった。
「あたしの前で名前を恥じらうなんて十年早いよ、出直してきな」
まぁ、なにを恥じらうかは自由だけどさ。
少なくとも、それより変な名前した奴がここにいるから気にしなくていいと思うよ。
…………あ、そういえばいるんだよね。同姓同名。
やだなぁ……いやまぁ、お陰でここに来れていろいろあったからいいけどさ。
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