第196話 前略、埋め合わせと景品と

「んー…………どーしたもんかなぁ……」


 やることは決まってるんだけど、大事なのはどう誘うか。

 シンプルなの?それとも手のこんだ仕掛けと一緒に?


「まぁ、アドバイザーにならっていこうかな」


 つまりキザで恥ずかしげもなく、だね。

 なんにせよ、埋め合わせはしようと思ってたし。少しでも楽しんでくれたらいいけど。

 




「ん、またなんか話してる」


 今日も壁に耳あり障子にメアリー、ちょっと聞いてみようかな。


「───いやな、形とかはできなくはねぇよ。でも素材もなにも足らないだろ」


 ……ん?まだ昨日の話をしてるのかな。

 まいったな、ホントになんであんなこと言ったのか自分でも分からないってのに。


「ふむ……やはりそうですか」


 昨日よりもピッタリと耳をつけてるから、会話もハッキリと聞こえる。


「あぁ、そもそもそんなトンチキな道具とか考えはルキナの領分だろ」


「……そうですね」


 なんか、会話がちょっと重め。

 ならそろそろ登場といこう、ドッカーンっ!みたいな。


「おっはよーーう!二人とも!」


「…………おはようございます」


 微妙な表情をしてる以外はいつものリリアン。

 うんうん、今日も良い顔をしてる。見慣れたメイド服もとってもキュート。


「……なんだお前、変なクスリでもキメてんのか?」

 

「はっはっはっ!師匠は今日も偏屈ですねぇ!」


 お、なかなかいいかも。

 あたしもこうゆう路線で売り出していこうかな?


「リリアン、今日も本当に可愛らしいね。その姿を見れただけであたしはハッピー、とってもエモーショナルだぞっ!ってね!」


「はぁ……」


 …………あれ、なにこの反応?


「リ、リリアン……?どうしたの?」


「噛み潰しているんです、苦虫」


 やっばい、めっちゃ不愉快そうな顔してる。

 あんちくしょうのマネなんかするんじゃなかった。


「セツナ、あまりふざけているなら外します」


「え……あ、肩の関節とか?」


「いえ、肩を」


 …………え、肩ごと?

 それは外すではない、引きちぎるだ。なんか懐かしいな、この会話。


「っとまぁ、冗談は置いといて……師匠、なにかやること……って何事ですか」


 ずらした眼帯。少し暗い工房で光る赤い瞳。

 控えめにいって結構怖いですぞ?


「おい、セツナ」


「はい?」


「…………本人か」


「そのようですね」


 並んでリリアンもコッチを見てる。

 なにを疑われてるんだ、あたしは。


 いや、負けないぞ。

 なにに、とかじゃない。なんかそんの気分。


「リリアンの眼でも嘘が見えるなら、師匠の眼って微妙じゃないですか?」


「私のは無意識の嘘も見れんだよ、リリのは自分で嘘だと分かってるやつしか見えねぇ。ま、使い勝手はわりぃけどな」


「んー…………負けました」


 なんかそんな気分。

 揚げ足も取れない、今日はダメダメだね。


「で、師匠。なんかやることあります?」


「ない」


 ないですか、そうですか。

 別にキッパリ言われても不快感はない、そうゆう人だって分かってるからね。


「お前がドアをぶっ壊したせいで客がくんだよ」


「??なら手伝いますよ?」


「いらねぇ、私の依頼だ。ったく……武器以外はルキナの仕事だったのによぉ…………」


「リリアンの……お母さん?」


「そうだよ、そう呼ばれるのを嫌がるけどな」


 やっぱり発明家、なのかな?

 領主さんで発明家で?師匠の友達だから鍛冶師かと思ってた。


「そっか……リリアンは今日予定ある?」


「……いえ、特には」


 よしよし、それなら良い。

 シンプルにシンプルに、誰かのマネはやめた。外されたら困るからね。


「んじゃ出かけようよ」


「構いませんが……」


「デートしよ、デート」


「っ!」


 っ!ってなった、っ!って。

 ガバって後ろ向いて、師匠になにか伝えるように。


「いや、普通に本人だぞ。ついでに言うなら今日のセツナは一つも嘘をついてねぇ……もういいか?疲れんだよ」

 

 そう言って眼帯を戻す。リリアンと違って見ると疲れるってこと?


「ふむ…………となると……ふむ……」


 なにをそんなに、ふむふむ言うことがあるのやら。


「いや、ほらね?前回は待ち合わせたところでいろいろあったからさ、ちゃんとやり直そうかなって。どうかな?」


「…………えぇ、喜んで」


「良かった、あたしも嬉しいよ」   


 元を辿ればリリアンが言いだしたことだしね、デート。

 演劇を手伝ってもらったお礼に、出かけようって。


「今度は面倒事に巻き込まれないように、一緒に出ようか」


 また刺されないように。

 まだ微妙に残ってる出店を昼間っから回るとしよう。ついでにリッカから聞いた喫茶店にでも寄ろう。


「えぇ…………セツナ、今日の発言に嘘がないとしたら、その……」


「嘘がないとしたら?」


「その……顔……といいますか」


 あぁ、顔ね。


「リリアンと中の人って似てるの?」


「どうでしょう……私も詳しく姿を知らないので」


「似てねぇよ、まるで。背丈も顔も、何もかも違う」


 ナイス師匠。

 そっか似てないのか、なら心置きなく言える。


「うん。昨日気づいたんだけどさ、あたしはリリアンの顔が好きなんだよ。目の保養になる」


 見れば見るほど良い。

 ちょっと照れてる?それもまたグッド。気分はいつでも芸術家。


「ありがとうございます。私もセツナが好きですよ」


「ありがと、じゃあそろそろ行こっか」


 お世辞でも、社交辞令でも嬉しいね。

 外見を褒められた時、あなたもうんぬんって答えられる人はモテるって聞いたことがある。


 さて行こう。

 ちゃんとやり直して、楽しい思い出にしよう。




「すとらっく、あうと……?」


「おぉ、ストラックアウト」


 あの一から九までの板をボールを投げて撃ち抜くやつ。

 随分と久しぶりに見た、まだこれを出店としてだしてる人がいるなんて。


「おーうセツナちゃん、ダメだ全然流行らん」


 ……アドバイスしたのはあたしだった。

 なんか看板とか描いてる時に聞かれて、片手間でおじさんにテキトーなことを言ったような気がする。


 まいったなぁ……このままじゃあたしが異世界に伝えたものは流行らないストラックアウトになってしまう。


「…………いやぁ、ちゃんと異世界人には早すぎたかな?リリアン、やってみる?」


 せめて流行るストラックアウトに変えなくては。


「このボールをあの的に?」


「おう、五球で縦横斜め、三つ揃ったら成功だ」


「ふむ…………」


「自信ない?」


 まぁ、あんまりそうゆうのが得意だとは思わないけど。

 結構、雑……っていうか大雑把なとこあるからね、リリアン。


「投げることも当てることもできます、ですが……」


「ですが?」


「的ごと吹き飛ばしてしまいます」


「よーしっ!あたしがやろうかな!」


 おじさんから、野球で使うような大きさのボールを五つもらう。

 さて、格好良く……いけるかな?


「球技はあんまり……!」


「おぉ……」


 こうゆうのはコツがある。

 とりあえず真ん中をめがけて投げれば、そこそこ当たるのだ。


「得意じゃっ!」


「見事です」


「ない、ん!」


「惜しいです、もう少し上ですね」


「だけどね!」


 左上、右下、外して、真ん中……に当たったはずなのに……


「おじさん!今真ん中当たったよね!?」


「いんや、的が外れてないから無効だな」


 なんって業突張り。

 そんなんだからこんな流行らない出店を、お祭り後も続けることになるんだ。


「もうリリアンに投げてもらって、的ごとぶっ飛ばそうかな……」


 でもそれじゃあ無効になっちゃうか。

 それにこんだけ難しいなら景品もそれなりの……?


「セツナ」


「ん、投げる?」


「いえ、見たところかなり頑丈に作られてますね」


「ね、びくともしなかったよ」 


「蹴り飛ばしましょう」


「んー……悪くない、そうしよう!」


 フワッ、と投げたボールをシュート!

 見事真ん中を撃ち抜く、動き回る人を蹴るより簡単だね。


「どーよ!」


「あぁ……完敗だ」


 よしよし、負けも認めさせた。


「はい」


「?」


「?、じゃなくて景品だよ、景品」


「…………そんなもん用意してないぞ?」


 ………………。


「だから流行んないんだよ!」


 クソ難易度と景品なし、流行る理由もなかった。

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