第182話 前略、不意打ちと卑怯者と

「あーーもうっ!」


 意外と実がなってる木は少ないんだなぁー、とか。

 まぁ、大事なのは種らしいからいいのかなぁー、とか。

 実をつけ終わった木はどうなるのかなぁー、とか。


「なんだって!あたしっ、は!」


 そういえば普段食べてるのってそもそも実だっけ?なんかリンゴの実は別にあるって昔聞いたような……とか。

 じゃあ、食べてたのはどこなんだ、とか。


 考えて、歩いて、走って、二人ほど脱落させて、送って、歩いて。

 見つけた友達、今は競合相手。後ろから不意打ちしようと思ったら罠を踏んだ。


「いっつもっ!上手くいかないかなぁーー!?」


 卑怯者が最後まで勝てる道理もないのだ。


 立場逆転、攻守交代。

 驕れる者久しからず、はちょっと違うかな。なんにせよ調子に乗るとこうなるのだ。


 世知辛い、やるせない、そんでなさけない。

 たまには格好良くキメたい…………不意打ちの是非は置いといて。


「そっちだ!そっち!」


「囲め!囲め!」


「やっばい」


 もう見つかった、休めやしないよ。


「打ち落とせれば、いいんだけっ、ど!」


 飛んでくるのは矢。

 うねってぐねって曲がって湾曲してカーブをえがきながら。


「足だ!狙え!」

 

「削げ!潰せ!」


「言葉が全部物騒なんだよ!」


 本当に、本当に便利な言葉だよ。

 どんなに物理法則を無視しても、あり得ないことが起こってもこの一言で納得せざるをえない。


 そうゆうスキルだから。

 異世界って本当に…………ホントに!


「あたしもあれくらい便利なのがあればなぁ!」


 本人達曰く、絶対に当たる矢。

 みんな持ってるような、腕力とか脚力を強化するものじゃなくて特殊なやつ。

 ちょっと習得方法の分からないやつ、そうゆうスキルを持つ才能がないとダメなやつ。


 矢である限り止まらない。止める方法はだいたい二つ。

 矢でなくなるまで壊す、本当にギリギリまでひきつけて壁や木に当てる。 


 前者はダメ、半分になったくらいじゃ止まらない。

 消去法、故に逃げ回ってる。


「違うんだって!パン、ナン、二人とも誤解してるんだよ!」


「「卑怯者がなにか言ってる!!」」


 …………どうしよう、返す言葉もない。

 共闘の経験もある双子の狩人は、容赦なく矢を射る。…………急所や足を狙って。


 しかしまいったね、手がだせない。

 逃げても隠れても、片方に見つかれば笛かなんかで知らされて、囲まれて。

 飛びかかろうにも背中に矢が飛んでくる、というか一本腕を掠めた。

 

「んー……四対一じゃなくてよかった」


 二人でいるところを襲撃して良かった……失敗したけど。

 さてさて、確かコッチの方だと思うんだけど……?


「いたぁ!おーーい!!カガヤーー!!!」 


 華麗なローリングで矢を地面に誘導、大きな木を影に走る、走る、走る。

 向こうもあたしに気づいたみたい、呑気に手なんか振っちゃってまぁ。


「剣!剣!剣!なんでもいいからあたしの剣だして!」


「なにがどうなってるんだい……?」


 貯めておいた風でひとっ飛び。

 理解は追いついてないみたいだけど、着地の時にはもう柄はコチラに向けられていた。


「ありがと!」


 着地と同時にターン。

 差し出された柄を握り、同時に振り抜く。


「ねぇ、セツナ。君、ついさっき格好良いこと言って別れなかったかい?」


「んー…………忘れた」


 あの時のあたしは若かった。

 それでいいじゃないか、うん、ホント、ね?


「「二人まとめて……刺しだぁーー!!」」

 

 言葉遣いが物騒。

 変な言葉を教えたチンピラがいるな、後でしばきにいかなきゃ。


「手助けは必要かい?」


「ん、大丈夫だよ。鞘だけ置いてってね」


「分かった、それじゃあ先に行ってるよ」


 ここから向こうまでニ射、四本かな。

 二人そろって姿を見せるのは良くなかったね。


「「うぇっー!?」」


 一本、二本、斬り落とす。

 滑り込むように、潜り込むように、通り抜けるように。


「んー、止まんないか」


 半分になっても、斬ったくらいじゃ止まらない。


「なら三分割だね、やっぱり!」


 持ち替える。

 パッと見は増えたみたいだけど、あたしの感覚としては持ち替えるイメージ。


「二本のっ!」


 なんというか、仮の名前。

 二本あるから二本の。滑り終わると同時に左の剣でまた斬る。


 斬れない剣じゃこうはいかない。

 両断がスムーズで動きの邪魔にならない。


 三本目、四本目、時間差。

 問題なし、そもそも矢を自由に受けれる武器がある時点で、あたしの勝ちは揺るがない。


 右手左手、交互に剣で受ける。

 あっけなく矢は地面に落ちる。だよね、だって当たってるんだもん。


「悪いけど……三射目は、止めるっ!」


 狙いが定まる、肌で感じる緊張感。

 放たれる、その、前に!


「セツナドライブっ!」


 そもそもあたしはこの二人に剣を見せてない。

 当然、この加速も見せてない。なら反応できるはずもない、しかも新型、対処できるはずもない。

 

 飛んで、右。目の前でジャンプ、背後に。

 片手は腕を抑えて片腕は首にまわす。


「さぁーて、どうする?その矢」


「「卑怯者ぉー!!」」


「はいはい、なんとでも」


 そのまま一人ずつ縛って、色のついた煙玉を地面に投げつける。

 本来はリタイア用らしいけど、倒した相手を回収してもらおうってわけだ。


「んー……これ、ホントに悪役だね」


 普通に人質をとっちゃった、普通に卑怯。

 後でなにか埋め合わせしなきゃなぁ……

 

「んー……アッチも同じ考え……なのかな?」


 色のついた煙が上がる。

 独占派かな、あたし達四人だけじゃ説明つかないくらい煙が上がってる。

 

「ここまでやったんだ、全部解決しなきゃ寝覚めが悪い」


 あたしは毎日快眠だけどね、基本的に。つまんない事を呟きながら鞘を回収。


 さて、次はどっちに行こうかな。

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