第180話 前略、必殺技と行ってきますと、後略

「えぇ……道をひらいて、見送ります」


『ふーん?具体的にはどうするの?』

 道があればいいのです、切り拓く……斬り拓きます。

『やっぱリリはあーしより……なんてゆーか雑だよね』


 ほんの少しだけ浮き立つかのような感覚。

 前に構えてから期間が空いたので仕方なし、といったところでしょうか。


「でるか必殺の、月欠総転……!」


『だぁーーっ!その!名前を!呼ぶなぁーーっ!!!』


 その声量にめまいが、少し……

 頭の中から響く声は一定の声量を超えると凶悪な攻撃になるのです。

 

 その……もう少し静かにできませんか?

『できない、人の黒歴史を引っ張り出すセツナが悪い』

 純粋に格好良く思われているなら、許容してもいい気もしますが。

『ダメだから、リリも響きが気に入らないっていってたじゃん』

 ふむ……それもそうですね。


 単純に気に入らない。

 なにかを壊すために作られたとしても、それを認めるのが嫌だったのでしょう。

 

「…………すみません、その名前を呼ぶのは少し……それに呼ぶと内側がうるさいので」


 聡明とはよべなくても理解力はある方なので、これで察してくれるでしょう。

『いやぁ、どーだろね。セツナンはたまにとんでもなく明後日ほう向いちゃうからね』


「だったらさ……」


『ほれみたことか!』

 

 確かに明後日、ですが良い考えです。

 こういった発想は単純ながら、私の中にはなかったものです。


『あたし、やっぱセツナとは仲良くなれないなぁ』

 そうですか?すぐにボロがでるところなんてよく似ているかと。

『リリ、あたしを敵にまわすと恐ろしいよ』

 ふむ……具体的には?

『…………仕方ない、今回はお姉さんが引いてあげよう!いひひ!』

 

「…………なるほど、半分は解決しました。───では」


『なんも解決してないけどね……』

 そしてもう半分は時間が解決してくれるでしょう。

 

 月と華、そして蒼天。

 セツナは響きで選んだ文字でしょうが、良しとしましょう。えぇ、良しです。


 いつかこの蒼い空も超えて。

 その為に今──海を、障害を、斬り伏せて。


「───月華蒼天」


『リリの事だから、セツナンにくっついてくかと思ってた』

 今のセツナ達なら、私が無理についていかなくても問題はありません。

『ま、大した敵もいなさそーだしね』

 ですが少し……いえ、心底残念です。

『なにが?』

 時間に余裕があるのなら、もしも日程が被っていなかったら。

 当初の予定通り、一緒にリンゴ狩りがしたかったです。


 本当に、それだけが心残りなんです。


『しゃーない、その分驚かせてやろーぜ』

 えぇ、そうしましょう。




「「「海割れたぁーー!!!???」」」


 んー……ナイス必殺技。

 どうですか皆さん、これが本当の必殺技ですよ。


 …………いや、やっばい、これホントにやっばい。絶対真似できないでしょ。


「ふぅ……手加減が難しいですね」


 あと多分本気じゃないな…………いや、嘘でしょ。

 まだ足の枷も残ってるのにコレだと、ホントの本気だったらどうなっちゃうんだろ……


「もって数分です。気をつけて、吉報を待ちます」


「うん、ありがと。期待しててね……そんじゃあ行ってきます!ほら、行くよ!」


 あんぐりとしてる三人。

 周りも何が起きたのかあたふた、理解されて妨害される前に駆け抜けなきゃ。





「そういえばセツナ、着替えたんだね」

 

 幻想的……ってか超常的な光景。

 海が割れるなんて、絵画でしか見たことないよ。


 さらには当事者になってその間を走ってるなんて、人生ってなにがあるか分からない。


「ん、今?昨日会ったときにはもう着替えてたけど」


「いやぁ〜ね、一時的にかと思ってたんだよ」


 まぁ、少し着替えるくらいならよくやるし、そう思われてもおかしくないよね。


「暑くなってきたからね、どう?似合ってる?」


「そうだなぁー……八十点!」


「んー……そこそこ?」


「十点満点で!」


 わお、超高評価。

 悪くないね。…………多分、呪われてるけど。


「お世辞でも貰っとくよ、ありがと」


「お世辞じゃないよぅ、似合ってる似合ってる!」


「そう?」


「うん、むしろなんで前まで男の子の服着てたの?」


 リッカの口から告げられる驚きの言葉。


 …………なるほど。

 いやいや、なんとなーーーく分かってたんだけどね?


「……それに関してはあたしをコッチに連れてきた奴の手違いでね。見つけたら教えて、それかシバいておいて」


 リッカにエセ天使の人相を伝えておく。

 ここに来てから一度も姿を見せないアイツ。そろそろ本気で探さなきゃね。


「ヒョウ、大丈夫?」


 ほんのちょっと速度を落とす。

 体格的にこのペースは厳しかったりしないかな。


「余裕だぜ、いざとなっても一人分ならなんとかなるしよ」


「そっか、頼もしいね」


 ならここは問題なしだね。


「しっかし、リリのねぇちゃんは来ないんだな」


「別の用事があるらしいから仕方ないよ、残念だけどね」


「な、正直、いろいろ楽できそーだったのに」


「ん?あぁ、そっちね」


「あん?だからセツナのねぇちゃんガッカリしてたんじゃねーの?」


 んー……ちょっと違う。

 そりゃリリアンがいれば大抵の事はなんとでもなるし、想定外も無理矢理解決してくれそうだけど。


「うん、ガッカリしてるし、残念だと思ってるよ」


 本当に残念。

 日程がズレてれば、せめて時間に余裕があってリリアンの用事を先に解決できてれば良かったのに。


「面倒な事はすぐに終わらせてさ、残った時間で一緒にリンゴ狩りがしたかったんだよ」


 それは心底残念。 

 この世界にマトモな神様、ってか女神がいないのは知ってるけど。

 残念なすれ違いが起きた、なにか埋め合わせの一つでも欲しい。


「なんつーか、セツナのねぇちゃんは相変わらずって感じだなぁ」


 それが取り柄なので。

 まぁ、そうなっちゃったなら仕方ない、それならそれで楽しむよ。


 さて、後ろは……


「おーい、カガヤー、大丈夫?」


 さらにペースを落として、最後尾まで下がる。

 この段階で息を切らせた優男、あんま大丈夫じゃなそう。


「君達っ、足っ、速いねっ……!」


 いやぁ、多分カガヤが遅い。 


「とか言ってる場合じゃなさそうっ!」


 壁……といっても水の壁。

 その壁がなんというか……ぷるぷるしてる!


 先に行ったリッカとヒョウは大丈夫だろうし、あたしも間に合うけど一人危ないのがいる。


「……セツナ」


「……なに?」


 その危ないのが一言。

 自信満々にそれは告げられる。


「僕は……泳げないよ?」


「言ってる場合かバカ!」


 よっし、仕方ない。

 路線変更、ケツをぶっ叩くとしよう。


「できるだけ歯、食いしばってね!」


「お手柔らかに頼むよっ!」


 了解、任せろ。装備変更、長いの。

 ちょっと先行、腰を入れ、構えて、後は……タイミング!


「ポムっ、ストライクっ!!!」


 相変わらず、未完成。

 フォームとか感覚はいいと思うんだけど、先端の重さが足りない。改善案は常に募集中です。


「あとはあたしか」


 徐々に道は海に戻っていく。

 だけど大丈夫、か細い道でも、ほんの少しの猶予でも。


 ドキドキする……いや、ワクワクする。

 心が浮き立つ、だって自分の意志で飛べるんだ。


 それじゃああの青空……じゃなくて陸地……でもなくて亀の背を目指して。


「セツナドライブっ!」


 四歩、予兆を噛み締めて──飛んだ。

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